Theme学ぶ

日本に合った「滞在型観光」とは。観光まちづくりの専門家・山田桂一郎に聞く

  • 公開日
日本地図の周囲に、各地域の風景や人々の写真を収めた青いマップピンが配置され、中央に「滞在型観光」の文字が配置されている

旅先で出会った風景や人、食べ物が、ふと恋しくなる。一度訪れただけなのに、なぜか気になり続ける地域がある——。そんな小さな縁が、何度も足を運ぶきっかけになることがあります。

「滞在型観光」とは、もともと、ひとつの地域に長く滞在し、その土地の暮らしや文化に触れる旅のスタイルです。ただ、長期休暇になじみの薄い日本では、海外のような長期滞在のスタイルをそのまま取り入れるのは簡単ではありません。

そこで観光まちづくりの専門家・山田桂一郎さんが提案するのが、滞在日数ではなく「関係の継続」に目を向ける考え方。一度きりの旅で終わらせず、同じ地域に何度も通ってもらい、やがて「第二のふるさと」になる——そこに、日本ならではの滞在型観光のヒントがあります。

弟子屈(てしかが)町、気仙沼市、釜石市の3事例から、訪れる人と地域とのつながりをどう育てていくのか、その考え方を山田さんにうかがいました。

「来訪者数」を追うだけでは、滞在型観光は生まれない

―2026年のシルバーウィークは11年ぶりの5連休。多くの地域にとって集客のチャンスですが、その賑わいが一過性で終わってしまう観光地も少なくありません。原因はどこにあるのでしょうか。

山田

観光施策の成否を測るとき、現状では「来訪者数」が指標になりやすいのですが、そこに難しさがあると感じています。

観光を自治体の経済政策としてとらえるのならば、大切なのは何人来たかではなく、その地域でどれだけ消費が生まれ、経済に還元されたか。大型イベントで多くの人が訪れるだけでは消費につながりません。たとえお金が落ちたとしても、地域外の事業者に流れてしまえば、地域に残るものは限られます。それどころか、ごみの処理や公衆トイレの維持といった負担が、住民の側に残ることもあるんです。

にもかかわらず、その経済効果をきちんと測れている地域は、まだ多くありません。「たくさんの人が来ればいい」という観点だけではなく、「地域にどれだけお金が落ちたか」「経済循環したか」にも目を向けることが必要だと思います。

「来てもらうこと」だけでなく、「お金を使ってもらうこと」まで見据える必要があると。

山田

そうですね。よく「モノからコトへ」といいますが、モノも大事だし、コトも大事です。そのうえで、どちらにも共通する本質は「トキ(時)」なんです。

旅における「食べる」「泊まる」「体験する」——どれも、地域で時間を使ってもらう行為です。それらを一気通貫させ、少しでも長く地域にとどまってもらう。この「時間消費」の仕掛けこそ、「通過する」だけの地域から「滞在する」地域へ変わる鍵になるのだと思います。

「通過型」から「滞在型」へのシフトは各地で模索されていますが、定着には時間がかかっている印象もあります。

山田

日本は先進国のなかでも、長期休暇にあまりなじみのない国です。実際、同じ場所に長く滞在するスタイルの旅をしている人の多くは、外国人観光客。受け入れる側も長期滞在を経験する機会が少ないため、旅行者が求める滞在環境をイメージしづらく、結果として長期滞在客を迎える環境も整いにくいんです。そこに、日本で滞在型観光が根づきにくい理由があります。

ただ、長期休暇を取って同じ場所に長く滞在することだけが、滞在型観光ではありません。日本でより現実的なのは短い滞在を重ねる「分散型の滞在」です。一度に1週間ではなく、同じ場所へ1泊2日の旅を繰り返す。1年365日のうち、その地域でどれだけの時間を過ごすか——そうとらえるほうが、日本の実情には合っているのではないでしょうか。

一度きりでなく、通い続けてもらうということですね。

山田

そうです。テーマパークのように、世代を超えて楽しめる特別な仕掛けを、多くの観光地が持つことはなかなか難しい。だからこそめざしたいのが、「第二のふるさと」という考え方です。結婚しても、子育てがはじまっても、それが一段落しても——ライフスタイルが変わるなかで、何度でも「また行きたい」と思い、通い続けられる場所であること。特別な仕掛けで人を惹きつけ続けるのではなく、地域との関係そのものが続いていく。そうした場所が、「第二のふるさと」になっていくのだと思います。

観光庁も、継続的に地域とかかわる人を増やす取り組みを進めていますが、こうした関係を育てることこそ、日本の滞在型観光がめざすかたちだと思います。

何度も足を運んでもらうには、どんなことが重要になるでしょうか。

山田

「人的な交流」が重要だと考えています。会いたい、また話したい、同じ時間を過ごしたい——そう思える人がいるからこそ、その場所は「第二のふるさと」になる。

同時に、お金を使ってもらう仕組みも欠かせません。滞在型観光は「消費」と「交流」の両輪なのです。

その「交流」のベースになるのが、住民自身の土地への「愛着」と「誇り」です。まずは住民が「ここで暮らし続けたい」「これを残したい」と思えること。それが大前提です。地域の人が愛着と誇りを持って語るからこそ、観光客も興味を持ち、交流が生まれる。人と人との関係が温かい場所だからこそ、「また来たい」と思ってもらえる。愛着と誇りを共有する地域のコミュニティこそが、深いかかわりの起点になります。

もうひとつ、「消費」で大切にしてほしいのが「地域リアリティ」です。観光客向けにつくられたものではなく、その地域の人たち自身が大事にしているものが見えること。地域の人が本当に通う店、誇りに思う文化、なんてことのない日常——そうしたものにこそ、価値が宿るのではないでしょうか。

たとえば、地域の人が「おいしい」と食べているからこそ、それは「ご当地グルメ」になる。演出された体験より、地域の暮らしそのもののほうが、人を惹きつける力を持っていると思うんです。

地域住民が愛着を持つモノやコトにこそ、観光客にとっての魅力が隠れていると。

山田

AIの進化で「それっぽいもの」が簡単につくれるいま、人々の「本物」を求める気持ちはむしろ強まっていると思います。自分たちの「当たり前」は、よそから見れば当たり前ではない。そうした視点で足元の生活や地域を見直せば、地域の人自身がまだ気づいていない魅力に気づけるはずです。

山田さんが滞在型観光の先進事例として挙げるのが、北海道弟子屈(てしかが)町、宮城県気仙沼市、岩手県釜石市の3地域です。ここからは、それぞれの取り組みをとおして、地域が「何を大切にし、どんな仕組みをつくったのか」を読み解いていきます。

弟子屈町:「住民参加」ではなく「行政参加」。住民主体の観光まちづくり

【事例01てしかがえこまち推進協議会】

観光客離れが進んだ温泉地で、住民自らが立ち上げた協議会が中心となり、自然環境の保全を起点にしたエコツーリズムを展開。行政が住民を動かすのではなく、住民が主体となり、行政に支えてもらう。そうした「住民主体」の姿勢が、地域を動かしている。

  • 推進主体:住民主体の「てしかがえこまち推進協議会」
  • 滞在のスタイル:エコツーリズム・自然体験型
  • 特徴:「住民が主体的に動く」仕組みと「権限」のつくり方
摩周湖の雄大な風景

「てしかがえこまち推進協議会」Webサイト(画像提供:弟子屈町 観光商工課)

北海道の弟子屈町の事例は、どのような経緯ではじまった取り組みなのでしょうか。

山田

摩周湖や屈斜路湖、川湯温泉のある弟子屈町は、昭和期に大いに賑わった観光地です。しかし団体旅行の減少とともに観光客が減り、地域の元気も少しずつ失われていきました。

そこで町を立て直そうと、約20年前に立ち上げられたのが「てしかがえこまち推進協議会」という住民組織です。掲げる目標は「誰もが自慢し、誰もが誇れる町」。まさに先ほどお話しした「愛着と誇り」がキーワードです。

この取り組みは、観光事業者だけでなく、住民自身が「町をどうにかしたい」と考えはじめたところからスタートしました。「どうすればみんなが誇れる町になるか、とにかく話してみよう」——そんな場からはじまったんです。

ロールモデルは、スイスの「ブルガーゲマインデ」という住民組織です。行政サービスは役場が担い、地域の経営は住民が手がける。弟子屈の方々が自らスイスまで視察に訪れ、その考え方を学びました。

象徴的なのは、彼らが「住民参加型」ではなく「行政参加型」と語ること。「まちづくりの主体は住民である自分たちで、行政には参加してもらう」という意識で活動しているんです。

具体的には、どのような活動をしているのでしょうか

山田

中心的な活動は、エコツーリズムの推進です。弟子屈町は協議会の発足以前から、経済の活性化以上に、地域の環境や生態系の保全に重きを置いてきました。

団体名に「観光」でも「ツーリズム」でもなく「エコ」を掲げるのは、その表れです。住民が大切にしてきた地域の自然や環境を守ることを起点にエコツーリズムを進めたことが、多くの観光客の心に響き、「滞在」の理由のひとつになっています。

岩肌が広がる山中で、ヘルメットと登山装備を身につけた3人が周囲の景色を眺めている

「アトサヌプリ(硫黄山)トレッキングツアー」。「てしかがえこまち推進協議会」が定める基準をクリアした認定ガイドの案内でのみ火山地帯に立ち入ることができる(画像提供:弟子屈町 観光商工課)

岩肌の噴気孔から白い蒸気が立ちのぼり、周囲に黄色い硫黄が広がっている

同ツアーでは、噴気孔や硫黄採掘の遺構を間近に見ることができる(画像提供:弟子屈町 観光商工課)

雪山を望む静かな湖で、2人が赤いカヌーに乗って水面を進んでいる

屈斜路湖や釧路川源流など、周辺の大自然を体感できるガイドツアー(画像提供:弟子屈町 観光商工課)

協議会をつくっても、すべての住民が参加するわけではないと思います。どのように巻き込んでいったのでしょうか。

山田

大切なのは、全員を動かそうとしないこと。どの地域でも同じですが、全員参加は現実的ではありません。意識すべきは、動ける人がきちんと動ける環境をつくること、そして、その活動を楽しく続けてもらうことです。義務感だけでは人は動きませんし、続きません。2割の人が楽しみながら動けば、地域は大きく変わります。

さらに、意思決定に住民の意向を反映できる仕組みも重要です。会長は町長、副会長は商工会長や観光協会長が務めます。ただし、物事を決めるときは多数決で、どの役職でも一票は一票。町長であっても、一存で方針を決めることはできません。

実際、大型リゾートの進出話が持ち上がった際も、「まちづくりの主導権を手放したくない」と、地域はその話を選びませんでした。経済的なメリットが大きくても、あえて「やらない」と決められる。その強さが、この協議会にはあるんです。

いまでは住民の方々から、「ここで幸せに暮らし続けたい」「子どもたちにこの町と自然を残したい」という言葉が聞かれるようになりました。協議会が育んできた、こうした住民の愛着と誇り。それが地域の空気となって伝わるからこそ、訪れた人は心を動かされ、また足を運びたくなるのではないでしょうか。

気仙沼市:市民も観光客も「乗組員」。一度きりで終わらせない仕組み

【事例02気仙沼クルーシップ】

震災からの復興のなかで、基幹産業である水産業に加え、観光をもうひとつの柱に。街を1隻の船に見立て、市民も来訪者も「乗組員」として迎える会員制の仕組みで、一度きりで終わらない関係を築いている。

  • 推進主体:気仙沼観光推進機構
  • 滞在のスタイル:関係人口・ファンクラブ型(つながり続ける仕組み)
  • 特徴:「つながり続ける仕組み」のデジタル実装と「推し活」
船をモチーフにデザインされた「KESENNUMA Crewship」のロゴマーク

市民も来訪者も「乗組員(クルー)」として迎える「気仙沼クルーシップ」(画像提供:気仙沼地域戦略)

続いて、気仙沼市の事例について教えてください。

山田

気仙沼は水産業が盛んな街でしたが、東日本大震災で大きな被害を受けました。復興を進めるなかで「水産業だけに頼るのは難しい」という声が地域で高まるなか、観光をもうひとつの柱にしようと、「気仙沼観光推進機構」と、事務局を担う「一般社団法人気仙沼地域戦略」が発足しました。その体制づくりを、私も縁あってお手伝いすることになったんです。

この取り組みの軸にあるのは、「ファンになってくれるお客さまと、一生かかわり続ける」という考え方です。全員に来てもらおうとするのではなく、本当に気に入ってくれた人と、深く付き合っていくことをめざしています。

一度きりでなく、深くつながっていくということですね。

山田

そうです。気仙沼には、牡蠣もメカジキもフカヒレも、港町の暮らしも、たくさんの魅力があります。それぞれに、いわば「推し」がいる。その一人ひとりとのつながりを育てていくことを、何より大切にしているんです。地域が「推し活」の対象になるようなイメージですね。

その「つながり続ける」を、どう実現しているのでしょうか。

山田

仕組みの核にあるのは、アプリを通じて取得する顧客データ——いわば「顧客名簿」です。これをもとに、一人ひとりの好みや行動の傾向をとらえ、その人に合ったかたちでかかわっていく。私の拠点があるスイス・ツェルマットでは、20年間で20回訪れた方を「ロイヤルゲスト」として迎えるなど、この考え方が根づいています。こうしたことを「地域」単位で実践している例は、日本ではまだ多くありません。

気仙沼では、それを「気仙沼クルーシップ」という専用アプリで実現しました。地域の飲食店や宿など、市内の加盟店で使えるポイント機能を設け、アプリでつながると同時に、消費データを蓄積しています。

「クルーシップ」という名は、震災後に気仙沼が掲げた「海と生きる」というテーマに由来します。ここで大切なのは、これが単なるファンクラブでも、ポイントを貯める会員組織でもないということ。街を1隻の船に見立て、市民も、応援してくれる人も、みんなが「乗組員(クルー)」として一緒に街を動かしていく——そんな想いが込められています。

だからこそ、集めるのは「会員」ではなく「仲間」なんです。人口5万人ほどの気仙沼で、アプリ会員は約68,000人*1。市民だけでなく、街を応援する外部の人たちが数多く加わり、人口を上回る規模の「乗組員」が生まれているんです。

*1 2026年9月時点。「気仙沼クルーシップ」公式サイトより

港を望む展望デッキを背景にした、気仙沼クルーシップアプリの画面。「つながる、みつかる、もっと楽しめる。」の文字が表示されている

地域の店舗で使えるポイント機能を備えた「気仙沼クルーシップアプリ」。アプリを通じて地域と人がつながり続ける(画像提供:気仙沼地域戦略)

データを取った先に、どんな効果が生まれているのでしょうか。

山田

「ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)」の最大化です。これは、一度きりの売り買いで終わらせず、一人のお客さまと長くお付き合いするなかで生まれる価値を指します。地域とお客さまがつながり続けているからこそ、育てられるものです。

クルーシップの強みは、顧客データから具体的な商品まで育てられることです。たとえば、気仙沼名物のフカヒレは、冬にほとんど売れていないことがデータでわかったんです。冬はむしろ牡蠣が人気だった。

そこで飲食店と協力して新しい牡蠣グルメを考案し、さらに「養殖場を訪ねたい」という声をもとに養殖場の訪問ツアーもつくったところ、大人気になりました。声を募り、それをかたちにする。その繰り返しで、新しいサービスが生まれていくんです。

デジタルでつながり、リアルな交流を重ねることで「また来たい」という気持ちが育っていきます。一度訪れた観光客が関係人口になり、やがて街を応援する仲間へと変わっていくそれが、気仙沼クルーシップの本質なのだと思います。

海上の養殖施設でロープに付着した牡蠣を引き上げている

牡蠣漁師体験ツアー(画像提供:気仙沼地域戦略)

釜石市:付加価値は「学び」。企業研修が支える持続可能な観光

【事例03:釜石オープン・フィールド・ラボ

鉄鋼業の縮小と震災を経て、観光へ。復興のなかで培った実践知を「学び」として企業研修に展開し、客数ではなく付加価値で収益を生み出している。

  • 推進主体:かまいしDMC
  • 滞在のスタイル:企業研修・学びの観光型(長期滞在×高付加価値)
  • 特徴:「収益を生む」組織力と、地元と競合しない設計

最後に、釜石市の事例について教えてください。

山田

釜石は、かつて鉄鋼業で栄えた街です。その鉄鋼業が徐々に縮小し、さらに東日本大震災で大きな被害を受けました。既存産業の衰退と震災を経て観光に舵を切った点は、気仙沼と共通しますが、アプローチは異なります。

釜石の特徴は、企業研修の誘致で成果を挙げていること。ポイントは、「客数」ではなく「単価」を上げて収益を生んでいることです。

なぜ単価が上がるのかというと、ひとつは、「学び」という付加価値です。ただ街を訪れて観光するだけの滞在に比べ、地域から具体的な知見を学べる研修には、企業もそれに見合った対価を払います。もうひとつは、滞在する「時間」です。日帰りや1泊ではなく、数日にわたってまとまった時間を過ごすことで、宿泊や飲食、移動などにお金が使われ、1人あたりの消費額も自然と大きくなっていきます。

そうした「学び」と「まとまった滞在」という2つの付加価値が、釜石の収益を支えているんです。

その仕組みを支えているのが、まちづくりの中心を担う「株式会社かまいしDMC」です。同社が運営する研修プログラムでは、受講者が釜石の各地を巡りながら、震災からの復興のなかで培われた知見——防災や地域づくり、人材育成、地域経営といったテーマを、単なる座学ではなく、実際の現場を訪れ、地域の人から話を聞きながら学びます。

つまり、街そのものが「学びの場」なんです。プログラムには漁協や地元の事業者など、多様な担い手がかかわり、受講者が支払う費用も地域全体に行きわたります。学びのための滞在が、そのまま街の経済を支える仕組みになっているんです。

と山を望む芝生広場で、参加者が集まり説明を聞いている

「釜石オープン・フィールド・ラボ」の企業研修プログラム。根浜地区の高台移転の現場を歩きながら、住民主体の合意形成のプロセスを学ぶ(画像提供:かまいしDMC)

森林のなかでガイドが木々を指し示しながら参加者に説明している

森林インストラクターとともに釜石の里山を歩く「森林体感プログラム」。林業の現場から地域資源のあり方を学ぶ(画像提供:かまいしDMC)

企業からの評価を得るまでには、どんな工夫があったのでしょうか。

山田

研修内容を磨き続けてきたことはもちろん、国際的な評価を積極的に得てきたことも大きいですね。釜石は、審査の厳しさで知られる国際認証機関グリーン・デスティネーションズから持続可能な観光地として評価され、2024年には日本初となる「ゴールド賞」を受けました。ほかにも観光関連の表彰を複数受けています。

厳しい審査を通った実績が、「ここでなら安心して学べる」という信頼につながる。だからこそ、研修先に選ぶ企業だけでなく、取り組みを学ぼうと視察に訪れる自治体や団体も少なくないんです。

また、かまいしDMCが面白いのは、「地元の事業者と競合しないことしかやらない」と決めていること。多くの地域では、こうした半公的な組織が事業をはじめると、地元の飲食店や宿と競合しがちです。でも、かまいしDMCはあえてそこには踏み込まない。既存の事業者がやれることは応援に回り、1社では担えない領域を引き受けているんです。

そんななかで掲げているのが、「オープン・フィールド・ミュージアム」という、地域全体を「屋根のない博物館」と見立てる考え方なんですね。

山田

この考え方の特徴は、特定の観光施設や名所だけを見るのではなく、街のさまざまな場所に足を運びながら、地域そのものを体感することです。地域を知り、学ぶためにまとまった時間を過ごすことになるので、2泊程度の企業研修とも相性がいいんです。

海や山、森林、農地、港など、地域全体を「博物館」に見立てたイラストと、「まち全域が、『博物館』」の文字が表示されている

「オープン・フィールド・ミュージアム釜石」Webサイト(画像提供:かまいしDMC)

そうした学びの経験が、訪れた人々とのその後の関係にもつながっていくのですね。

山田

そうですね。企業研修をきっかけに釜石を訪れた人が、街を巡るプログラムのなかで、その魅力を知っていく。土地の人と出会い、暮らす人の話を聞き、地域の課題に触れる。単なる研修施設を使うのとは、経験の深さがまるで違います。

だからこそ、また戻ってきたくなる。プライベートで再訪する人もいれば、なかには移住を決める人まで出てくるわけです。

「これがなかったら、この地域に住む意味がない」滞在型観光を育てるヒント

三者三様の事例に共通するのは、その地域ならではの「付加価値」をもとに来訪者との長期的な関係を築いていること。そして来訪者と「つながり続ける仕組み」を持ち、その土台に住民の愛着と誇りがあることだと感じました。それでは、これから滞在型観光に取り組む地域は、まず何からはじめればいいのでしょうか。

山田

まずは地域の足元を見つめ直すこと。「付加価値」の種は、そこにしかありません。一方で、外を知らなければ、「この地域ならでは」が何なのかにも気づけない。だからこそ、観光に携わる方には積極的に外に出てほしいと思います。

「その地域ならではの価値」を見つけるヒントはありますか。

山田

それは、「地域の人が大事にしていること」とほぼ重なります。私がセミナーでよく投げかけるのが、「『これがなかったら、この地域に住む意味がない』と思えるものは何ですか?」という質問です。

以前、ある地域でこの問いを投げかけたところ、みなさんが観光の目玉である名所を挙げました。でも、その名所はもともと、地域の人々が信仰や暮らしのなかで大切に守り伝えてきたもの。だとすれば、本質的な価値はその名所そのものより、それを生んだ人々の営みの方にあるのかもしれません。

大切なのは、自分たちの先祖がなぜこの地に移り住み、根を下ろしたのか——その暮らしの土台にある価値を見つめることです。目先の集客や話題性を追って施設やイベントをつくったり、他地域の成功事例をそのまま真似たりしても、長く人を惹きつける力にはなりにくい。「暮らすように」旅してもらう——つまり滞在型観光をめざすなら、その場所で「暮らす」ことの本質をとらえ直す必要があるのだと思います。

関係を続けていくために、地域側ができることは何でしょうか。

山田

ひとつのヒントになるのは、「愛される努力」をすること。「私にはこんな素敵なところがあるのだから、愛してください」と、漠然と一方的に伝えるようなコミュニケーションは、うまくいかないことが多いように思います。大切なのは、「どんな人になら愛してもらえるか」を見定め、その相手に届く伝え方を考えることです。

「いつでも、どこでも、誰にでも」ではなく、「いまだけ、ここだけ、あなただけ」。お互いにとって「あなただけ」の関係になることが大切なのだと思います。

滞在型観光は、地域と人の関係を育てる長期的な営みです。短期的な成果を追いすぎず、じっくり取り組んでいってほしいと思います。

この記事の内容は2026年9月10日掲載時のものです。

この記事は参考になりましたか?

  1. 1

    全く参考に
    ならなかった

  2. 2
  3. 3

    どちらとも
    いえない

  4. 4
  5. 5

    非常に
    参考になった

Credits

取材・執筆
鷲尾諒太郎
編集
包國文朗(CINRA, Inc.)

この記事は参考になりましたか?

  1. 1

    全く参考に
    ならなかった

  2. 2
  3. 3

    どちらとも
    いえない

  4. 4
  5. 5

    非常に
    参考になった