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飛騨しか勝たん!?会員数約18,000人の飛騨市ファンクラブに聞く、人と地域をつなぐ術
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いまや一般的になった「推し活」。アイドルやアーティストを応援する文化として知られていますが、最近は「地域を推す人たち」もいることをご存知でしょうか。
岐阜県飛騨市が運営する「飛騨市ファンクラブ(以下、ファンクラブ)」は、会員数約18,000人。地元住民だけでなく、市外から何度も足を運びながら地域にかかわる人も多く参加しています。
「地域」を推すとはどういうことなのでしょうか? そして、そのつながりは地域にどんな変化をもたらすのでしょうか。
今回は、ファンクラブの運営を担う市役所職員の舩谷(ふなたに)奈歩さんと、ファンクラブ会員の鈴木尚二さん・小林淳子さんにインタビュー。「推し地域」が生まれる瞬間と、人と地域をつなぐ仕組みについてうかがいました。
ファンが人口を上回るかも!?岐阜県最北の街・飛騨市
岐阜県の最北端、富山県との県境に位置する飛騨市。平成16年に古川町・神岡町・河合村・宮川村の4つの町村が合併して誕生した、人口約22,000人の街です。岐阜市から高速道路を使っても2時間以上かかるほど山深く、面積の約9割を森林が占めています。
豊かな広葉樹を活かした木工製品の製造業が盛んで、観光業が中心の隣・飛騨高山とは一線を画した、ものづくりの土地。アニメ映画『君の名は。』では飛騨古川駅や市立図書館がモデルとして登場し、近年は聖地巡礼で訪れる観光客も増えています。
飛騨市の街並み(画像提供:飛騨市,CC BY 4.0,OpenPhoto)
一方で、少子高齢化については「先進地」という言葉がふさわしく、全国の倍のスピードで人口が減少し、現在の高齢化率は日本全体が30年後に迎えるといわれる水準に達しています。
そんな飛騨市が、いま全国から注目を集めています。その理由が、会員数約18,000人を誇る「飛騨市ファンクラブ」の存在。移住促進にとどまらず、地域と外の人々との「関係人口」を増やすことをめざした、発想の転換から生まれた取り組みです。

舩谷
このまま会員数が増え続けたら、いつか市の人口を逆転するんじゃないかと思っています(笑)。それでは、当ファンクラブについて説明しますね!
飛騨市が舞台の映画『君の名は。』をきっかけにファンクラブがスタート
―まず、どのような経緯でファンクラブの設立に至ったのでしょうか?
舩谷
飛騨市は人口が22,000人を切っており、高齢化率も40%超えと、全国平均と比べても少子高齢化がかなり進んでいます。「飛騨市ファンクラブ」は、このような厳しい状況を打破すべく生まれた取り組みです。
2016年に公開された大ヒット映画『君の名は。』の舞台が飛騨市ということで、話題になったタイミングでファンクラブが設立されました。ファンクラブから派生し、2020年からは「ヒダスケ!」という取り組みも行っています。
飛騨市役所ふるさと応援課 飛騨市ファンクラブ事務局 舩谷奈歩さん
「飛騨市ファンクラブ」とは
2017年に発足。飛騨圏域内在住者(ふるさと会員)と飛騨圏域外在住者(レギュラー会員)のいずれもが、入会費・会費無料で自由に参加できるファンクラブ。飛騨市へのふるさと納税をきっかけに入会する人が多い。飛騨市に来る際に、会員全員に配布しているオリジナル会員証を提示すると、対象施設で会員特典を受けることができる。さらに深くかかわりたいという人に向けて「集い」と呼ばれる会員同士の懇親会や部活動など、イベントも開催している。
「ヒダスケ!」とは
「もっと地域の助けになりたい」という飛騨市ファンクラブ会員の声から、2020年に発足。飛騨市に暮らす人々の困りごとやアイデアを「プログラム」として募り、それを一緒に解決・実現したい全国の参加者をつなぐプロジェクト。ヒダスケでは、困りごとやアイデアの発案者を親しみを込めて「ヌシ」と呼び、参加・体験型のプログラムを通じて、飛騨市民と外部の人との交流や支え合いの仕組みを創出している。
―ファンクラブや「ヒダスケ!」の目的や、そもそもの立ち上げのきっかけを教えてください。
舩谷
人口の減少を止める、あるいは増やしたいと言っても実現はなかなか難しい。そこで発想を転換して、「外の人に飛騨市のファンになってもらおう」「飛騨市のファンを増やしていこう」という方向で動き出した施策です。
そのきっかけのひとつが、2016年のアニメ映画『君の名は。』の聖地になったことです。飛騨市を好きでいてくださる方が、思っていたよりずっと多くいることに気づかされた出来事でした。
これらのゴールは移住ではなく、「関係人口」の拡大です。「外の人間という立場だからこそかかわりたい」という気持ちを持つ方は少なくないんです。実際に全国5,000人の方を対象に調査を行ったときも、移住までを検討する方はごく少数でした。移住と関係人口はニーズが根本的に異なるだろうということで、それぞれに向けた施策を切りわけて動いています。
会員が語る「飛騨推し」になったきっかけ
―ここからは、ファンクラブ会員の小林さん、鈴木さんにもお話をうかがいます。本日はよろしくお願いします!
小林・鈴木
よろしくお願いします!
レギュラー会員(飛騨圏域外在住)鈴木尚二さん。ニックネームは「すずしょう」。定年退職後、飛騨市ファンクラブや「ヒダスケ!」を通じて飛騨市との関係を築く。現在は「ヒダスケ!」に関する講演を市外で行うこともあるなど、精力的に活動している

鈴木
神岡町の道の駅でファンクラブのチラシをたまたま見つけて、軽い気持ちで入会したんです。でも参加するうちに飛騨市のいろんな場所や人の魅力に引き込まれていって、いまでは生活の楽しみのひとつになっています。
ふるさと会員(飛騨圏域内在住)小林淳子さん。ニックネームは「こばじゅん」。飛騨市内のイベントに積極的に参加している。2025年4月からは「飛騨市ファンクラブ運営支援サポーター」としてもファンクラブの活動を支えている

小林
飛騨市出身ですが、一度ほかの地域に出て、Uターンしてきました。飛騨市のSNSで「飛騨市ファンクラブ」ができたことを知り、すぐに入会。急いで入会したのに会員番号が500番台で、自分としては出遅れた! と悔しかったです(笑)。
―お二人はそれぞれどんな活動をされているのでしょうか?
小林
主に会員同士の交流イベントである「集い」への参加を中心に活動しています。地域のさまざまな方とつながれるのが楽しくて、いまでは運営支援サポーターとして市の職員の方と一緒にイベントのお手伝いや企画を考えたりもしています。「仕事として」というより、楽しみながら「ついでに」という感覚で。来てくれた人が知ってくれて、輪が広がっていく——その過程がうれしくて、月1回ほどのイベントにできるだけ参加したくて、先の日程を早めに教えてもらえるよう飛騨市にお願いしているくらいです(笑)。
鈴木
「ヒダスケ!」を中心に活動しています。神岡鉱山のツアーガイドや農家さんの収穫作業など、さまざまなプロジェクトに参加してきました。なかでも印象に残っているのが、古川町でのペンキ塗りのお手伝いです。
作業のあとに地域のまつり会館で地酒のイベントがあって、地元の方も外から来た参加者もみんな一緒になって飲み交わしたんです。作業を超えたつながりが生まれる感じが面白くて、どんどんはまっていきました。
小林
わかります。作業が終わったあとも自然と人とつながっていくんですよね。外から人が来てくれることで、地元の人だけではできない盛り上がりが生まれる。「飛騨市、いいやろ〜」ってみんなが自然と感じている雰囲気が、ファンクラブや「ヒダスケ!」の魅力だと思います。
飛騨市ファンクラブの会員証
飛騨市は「尊い推し」!?人とのつながりで醸成された地域への愛
―鈴木さんは、もともと縁のあった土地でもないなかで、どうして飛騨市の活動に積極的に参加されるようになったのでしょうか。
鈴木
2020年に定年退職をしたのですが、退職後の人生をどう過ごそうかずっと考えていて。そんなとき「ヒダスケ!」でミニトマトの収穫のお手伝いをしたのが最初のきっかけです。
「ヒダスケ!」の面白さは、単なる農作業の体験ではないところで。最初に農家さんが自己紹介をして、トマトへの想いや育て方を話してくれるんです。そこから収穫の仕方を教わり、地元の話を聞きながら場が温まってきたところで休憩——その時間に、参加者みんなで自然と会話が生まれる。
農家さんも、外から来た参加者も、知らない人同士が混ざり合う場になっていて。「ちょっと持って行って」と、農家さんが収穫したトマトをわけてくれたり……、あの温かさも印象に残っています。
「ヒダスケ!」で行われている「myみょうが畑プロジェクト」。年4回の畑づくり(間引き、草取り、収穫など)を手伝い、夏の収穫期に収穫体験ができる(画像提供:飛騨市ファンクラブ)
鈴木
一度参加すると、別のプロジェクトでまた顔を合わせる機会もあって、気づいたらつながりが広がっていました。ミニトマトは毎年、気候によって味も出来栄えも変わる。そういう変化を農家さんと一緒に楽しめるのも、続けている理由のひとつです。
―飛騨市を「推す」ようになって、自分のなかで何か変化はありましたか?
小林
運営にもかかわるようになってから、飛騨市のことがより自分ごとになっていった感覚があります。地域を盛り上げたいという気持ちが自然と育っていって。いまではテレビで「飛騨市」というワードが聞こえると、「え、何々?」と思わず反応してしまうくらいになりました(笑)。
鈴木
オンラインでいろいろな情報が得られる時代だからこそ、実際にその場に行って、人とかかわって得られる体験には特別な価値があると感じています。飛騨市にはその場所や活動に根ざした方々がいて、農家さんなら育て方へのこだわりや、その年の気候と作物の話を直接聞かせてもらえる。現場の生きた知恵を「なまなま」に聞ける、あの感覚がたまらなくて。地域を「推す」面白さは、そういうリアルな人と人との関係が持てるところにあるんだと思います。
―飛騨市への印象も変わりましたか?
鈴木
そうですね。いまは「また行きたくなる場所」という印象です。また飛騨市で、みなさんと楽しいことをやりたいなと考えています。
小林
私も、空気と水が美味しくて、人が温かい場所だと感じています。街が活気づいてきたのを肌で感じますね。みんなが「飛騨市、いいやろ〜」と外に伝えたくなる空気になっていますし、外から来る人を受け入れる雰囲気のある地域になったと思います。
鈴木
飛騨市が会員の活動をいつも前向きに応援してくれているのも大きくて。そういう受け入れてもらえる感覚があるから、自分もやってみようという気持ちになる。いまは富山市でコミュニティづくりに挑戦してみたり、能登にも足を運ぶようになりました。はじめての人とも楽しく話せるようになりましたし、飛騨市とのかかわりが、自分の行動範囲や視野を広げてくれたと感じています。

舩谷
鈴木さんは、「ヒダスケ!」に関する講演もされたんですよ。

鈴木
自分の住む富山市の高校でお話しする機会をいただきました。生徒さんたちから「行ってみたい」という感想もあり、うれしかったですね。
気軽に「やりたい」が言える環境を。会員が主役になるファンクラブ運営
―小林さん・鈴木さんのように、これほど積極的に参加してくださる会員さんがいるのはなぜだと思いますか?
舩谷
正直、明確な理由はわからないんです(笑)。ただ、「好きでやってくれている」という感覚はすごくあって。感謝されるとうれしいし、喜んでくれる人がいるとうれしい——そういう好循環が自然と生まれているんだと思います。
運営として大切にしているのは、会員さんから自発的に「こんなことやってみたい」という声が出やすい雰囲気と仕組みをつくること。ルールは設けつつも柔軟に運用していて、市長も会員さんと直接話せるくらいの距離感を意識しています。そういうフラットな関係性が、みんなでつくり上げていく空気につながっているのかなと思います。
―会員さんを第一に考えているからこそ、自然に広がっていったのかもしれませんね。
舩谷
そうですね。もともと決まった計画があったわけでもなく、会員さんの声を聞きながらかたちにしてきたら、いつの間にか部活動ができたり支部ができたりと、活動が自然に広がっていきました。地元の人も外から来た人も行政も、みんなが一緒になってつくり上げてきた感じです。
変化を大切にしているのも、古株の会員さんへの敬意から来ていて。「毎回同じことの繰り返し」「マンネリになっている」と感じさせないよう、会場を変えたりゲームの内容を変えたりと、小さなことでも常に新しい要素を取り入れるようにしています。
―会員の声を拾うための場や仕組みがあるのでしょうか?
舩谷
一番は「集い」などのイベントでの会員さんとの交流ですね。私も会員さんのことはニックネームで呼びますし、方言で話すことが多いのですが、そういったなかでつくっていく関係が大切だと思っていて。会員さんそれぞれのキャラクターやつながりをすごく大事にしています。
イベントには市長も参加しているのですが、市長も同じように会員さんの顔を覚えていて、同じ目線でフランクに話すんですよ。なかには「市長に会いたくてイベントに来ました」なんて市長推しの会員さんもいるくらいです。
「おでかけファンクラブ」で市民と交流する都竹(つづく)飛騨市長(写真中央)。「おでかけファンクラブ」は、ファンクラブ会員が企画・準備・運営する交流会(親睦会・パーティー)に市長や市職員が飛騨市の特産品をもって参加する制度(画像提供:飛騨市ファンクラブ)
鈴木
ファンクラブ側から何かを提供してもらうというより、自分たちで発案して話が広がっていくことのほうが多くて、そこに「ヒダスケ!」が加わってさらに輪が広がっていく——そういうつながりが生まれるのがとても面白いなと感じています。

小林
舩谷さんも含め市の職員さんたちは、私たちの活動に「いつもありがとうございます」って言ってくださるので、より頑張ろうと思えます。好きでやっていることなのに、感謝までしてもらえるなんて、うれしいですよね。
―一方で、ファンクラブの運営にあたって、課題に感じていることはありますか?
舩谷
会員数が増えたがゆえに、一人ひとりの会員さんとの関係づくりに課題を感じています。大切なのは、常につながっている意識を持ち続けてもらえる仕掛けをつくること。メールや郵送でお知らせを届けていても、住所変更などで届かないケースも少なくなく、会員のみなさんの顔が見えにくくなっていると感じることもあります。
せっかくファンクラブに入っていただいたので、飛騨市とのつながりをより強くする仕組みをつくりたいというのが本音です。そんな課題の解決策のひとつとして期待しているのが、総務省が実施している「ふるさと住民登録制度」です。飛騨市は、この制度を実際に試行・検証するモデル事業の自治体として、2026年度に選出されました。
「ふるさと住民登録制度」とは、居住地以外の自治体とつながりを持つ「関係人口」を創出し、地域の担い手を確保するために国が進める新しい仕組みです。専用のアプリがあり、応援したい地域を登録。観光情報、地域プロジェクトへの参加、公共施設の割引利用などの特典を受けられるというものです。
この制度の活用によって、これまでつながりが薄くなっていた会員さんとの関係を再び深めるきっかけになるんじゃないかと期待しています。
特別なものはいらない。地域の魅力は、「人」と「関係」から生まれる
―ファンクラブや「ヒダスケ!」は、飛騨市にどんな影響を与えていると思いますか?
舩谷
私は飛騨市の出身なのですが、以前は、外の人が来ると少し身構えてしまうような雰囲気が地域にあったように感じていました。でも、ファンクラブや「ヒダスケ!」がはじまってから、外の人たちを受け入れる雰囲気ができて、地域の活力も増してきていると思います。
小林
市長の「これだけ宝のある地域なんだから、もっと誇りを持とう」という呼びかけがあったからだと思います。いまでは「来てくれて本当にありがとう」という反応が、地元の方々のなかに増えてきたことを感じます。
ファンクラブ会員の集いの様子(画像提供:飛騨市ファンクラブ)
―同じように地域のファンづくりに関心を持っている自治体の方に向けて、飛騨市の取り組みを通じて感じていることがあれば教えてください。
舩谷
飛騨市の取り組みに共感して視察に来てくださる方もいますが、私たちも試行錯誤の結果、いまのかたちになっています。「ヒダスケ!」も、地域の困りごとを資源に転換するという発想から生まれたものです。いろんなご縁と偶然が重なって成り立っているところもあります。
地域によって人口も産業も、住民の雰囲気も違うと思うので、飛騨市の取り組みをそのまま当てはめようとしなくていいと思います。それぞれの地域に特性があって、何が資源になるかも違う。でも、必ずどこかに資源となる何かが転がっているはずです。それを見つけて、一緒に動いてくれる人を大切にしながら、自分たちの仕組みをつくっていくことが大切ではないでしょうか。
鈴木
個人的には、飛騨市の人に惹かれた部分も大きくて。「ヒダスケ!」のプロジェクトオーナーを「ヌシ」と呼ぶのですが、私が最初に「また飛騨に来たい」と思ったきっかけもヌシが取り組みに対して人一倍熱意を燃やしていて、その姿勢がいいなと思ったからです。
どんな地域でも、地元の人にとっては当たり前のことでも、外から来た私たちには新鮮に映るものがたくさんあります。身近にあるものをあらためて見つめ直すと、きっと魅力が見えてくるんじゃないかなと思います。
―地域のよさを見つめ直して発信することが大事なのですね。
舩谷
そうですね。人口が減少していくなかで、遠く離れた場所からでも飛騨市を応援してくださる方々の存在は、私たちにとって本当にかけがえのない大切なつながりです。
これからも、地元で一緒に盛り上げてくださる方々も、外から関係人口としてかかわってくださる方々も、両方と丁寧に向き合い続けていきたいと思っています。
小林
いまは地域外在住のレギュラー会員さんの方が多いんです。個人的には、もっと地元のふるさと会員さんが積極的に活動に参加してくれるようになるといいなと思っています。外の人もなかの人も一緒になって盛り上げていくのが理想なので。
あとは、お祭りの体験ツアーなど、「集い」だけではない、飛騨市を肌で感じられるようなイベントも自分たちでつくっていけたらいいですね。
この記事の内容は2026年4月24日掲載時のものです。
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Credits
- 取材・執筆
- 白鳥菜都
- イラスト
- アボット奥谷
- 編集
- 服部桃子(CINRA, Inc.)
- 提供画像
- 飛騨市ファンクラブ