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高知のよさこい移住が生む地域の変化とは?「好き」からはじまる地域とのかかわり方
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「よさこいを踊りたい」。その純粋な熱量だけで高知県高知市へ移住し、気がつけばごく自然に地域社会へ溶け込んでいる人たちがいます。
日本の代表的な夏祭りのひとつである『よさこい祭り』。毎年8月の4日間で、約18,000人もの踊り子が集うこのお祭りは、いまや移住者を生むほどの引力を持っているのです。
よさこいが人を惹き付ける理由や、多くのよさこい移住者を受け入れる高知の魅力とは、どんなものなのでしょう?
今回は、高知商工会議所で『よさこい祭り』を統括している岡林成海さんと、よさこいをきっかけに移住し、現在は「高知市よさこい移住応援隊」として移住者をサポートしている3人の踊り子さんに、趣味を起点とした地域とのかかわり方のヒントを聞きました。
人と人をつなぐ『よさこい祭り』。全国へ広まった背景にある「自由度の高さ」とは
─『よさこい祭り』は、そもそもどのようなお祭りなのでしょうか?
岡林
いまでこそ北海道の『YOSAKOIソーラン祭り』をはじめ全国各地で親しまれていますが、その発祥は1954年の高知市です。当時、お隣の徳島県にある歴史の長い『阿波踊り』にも負けないくらいの大きな祭りをつくろうと、高知商工会議所が地元商店街と一丸となって立ち上げたのがはじまりでした。
お祭りというと、神仏に奉納するものが多いですが、『よさこい祭り』がめざしたのは、市民の健康づくり。そして戦後の不景気から脱却し、商店街の賑わいを創出することでした。
2026年度『よさこい祭り』のポスター(画像提供:よさこい祭振興会)
演舞場の中では最長の長さを誇る「帯屋町演舞場」で、アーケードのなかを踊りながら歩いている様子(画像提供:よさこい祭振興会)
【『よさこい祭り』とは】
日本を代表する祭りのひとつであり、高知の夏の風物詩。毎年8月に高知市内で4日間開催され、約200チーム・約18,000人の踊り子が参加するエネルギッシュなお祭りとなっている。
チームごとに「地方車(じかたしゃ)」と呼ばれる装飾トラックを出し、大音量で流す音楽に合わせて「鳴子(なるこ)」を手にした踊り子が街中の商店街を踊り歩く。審査の結果、各年優秀なチームには、「大賞」「金賞」「審査員特別賞」などの賞が授与される。
近年では、ヒップホップやジャズ、サンバなどさまざまなジャンルを取り入れた、チームごとに個性の光る自由な演舞が見どころになっている。海外でも人気が高く、現在よさこいチームは世界30か国以上に広がっている。
─なるほど。高知で生まれた『よさこい祭り』が、なぜこれほど全国で親しまれるようになったのでしょうか?
岡林
『よさこい祭り』のルールはすごく簡単で、「鳴子を鳴らして前進すること」「曲中に“よさこい鳴子踊り”の一節を入れること」という2点のみです。実際、毎年チームごとにバラエティ豊かな楽曲が『よさこい祭り』を彩っています。
自由度が高いからこそ各地で受け入れられやすく、いまでは全国で200以上のお祭りに派生するほど全国に広がったのかもしれませんね。
南国土佐・高知『よさこい祭り』公式ホームページより。現在も受け継がれているよさこい鳴子踊りのルール2つ
岡林成海さん
高知商工会議所の地域振興課で、よさこい祭振興会統括を担当。『よさこい祭り』の運営として参加チームへの説明会などを主催するほか、データや新技術を活用し、持続可能な祭りをつくる取り組みを行っている
岡林
また、以前私たちが『よさこい祭り』の参加者を対象に行った調査では、「幸福度」と「自己肯定感」が全国指標に比べて高いことがわかりました。さまざまな人とかかわるコミュニティのなかで、「絆」や「学び」を感じられるという項目も非常に高い数値が出ていたんです。
「参加することで人とのつながりが生まれ、幸福感が高まっている」というこの結果は、立ち上げ当時の理念が、いまでいう「ウェルビーイング(well-being)」というかたちでしっかりと実現できている証だと思っています。だからこそ、高知に限らず国内外にこれだけ多くのよさこいファンがいるのかもしれません。
2週間でスピード移住も。「よさこい移住」を決めた理由とは?
─ここからは、実際に『よさこい祭り』に魅了されて高知へ移住した3人にもお話をうかがいます。まずはそれぞれの「よさこいとの出会い」と「移住の決め手」を教えていただけますか?
足立
私は仕事の関係で移住した新潟でよさこいチームに所属していました。そんななか、原宿で開催されている『スーパーよさこい』に参加したら、高知のチームもいて。その迫力に圧倒されて、本場の高知に飛び込むことにしたんです。草野球チームがメジャーリーグに憧れるような気持ちでした(笑)。
足立美恵さん
高知市よさこい移住応援隊2期メンバー。栃木県出身。一時期暮らしていた新潟県でよさこいチームに所属。2014年に高知県に移住した
よさこいを踊る足立さん(画像提供:足立さん)
足立
まずは高知のよさこいチームに応募するところからはじめました。当時は申込がFAXだったので、備考欄に「チームに入れていただけるなら移住したいです」と書き、想いを伝えたところ、代表の方から「まずは高知に来てみませんか」とお誘いをもらって。代表自ら不動産屋やハローワークにも一緒に行ってくださって、本当にありがたかったです。
ハローワークで「よさこいがやりたいんです!」と伝えたら、「それなら定時で帰れる仕事ですね」と当たり前のようにいくつも選択肢を提示してくれて。自分にとっては特別なものだったよさこいが、日常の一部として街に浸透している、高知の人々がよさこいを自然に受け入れているその空気に、救われた気持ちでしたね。そのままの勢いで2週間後には移住を決めました。
─たったの2週間とは、スピード移住ですね……! 芳村さんは、どのようなきっかけで移住を決められたのでしょうか?
芳村
私は京都の大学時代に、サークルでよさこいをはじめました。その後、高知で本場の『よさこい祭り』を目のあたりにしたら、とてつもないパワーに引き込まれて、ハマってしまったんです。在学中には「よさこい留学」と勝手に名づけて、京都と高知で二拠点生活をしながら練習に参加する生活を送っていました。
大学卒業後も関西から通いながら参加しようかとも考えたのですが、受賞をめざすチームのなかには、5月から8月までのあいだ、多ければ週に4〜7日ほど練習するところもあります。なので「これはもう、高知に住むしかないな」と移住を決めました。
芳村百里香さん
高知市よさこい移住応援隊1期メンバー。奈良県出身で、大学時代に高知県のよさこいチームの練習に参加。「本場高知のよさこい」に魅せられ、2012年にIターン移住した
よさこいを踊る芳村さん(画像提供:芳村さん)
山本
私の移住の決め手となったのは、高知出身のパートナーと旅行した際に『よさこい祭り』の迫力を生で感じたことです。
私は青森出身で、地元にも『青森ねぶた祭』など大きなお祭りがあります。道路を練り歩きながら進むのはよさこいと同じですが、はじめて高知で『よさこい祭り』を見たときに、「音がすごい!」と感激して。地方車(じかたしゃ)と呼ばれるスピーカーを積んだトラックとともに、町中を踊りながら前進していく様子に感動しましたね。
山本春華さん
高知市よさこい移住応援隊10期メンバー。青森県出身で、東京都で約9年過ごしたあと、はじめて訪れた高知で見た『よさこい祭り』に惹かれ、2018年に高知へ移住した
よさこいを踊る山本さん(画像提供:山本さん)
山本
のちにパートナーが「高知に帰ろうかな」と言ったとき、当時フリーランスだった私は「一緒に行くよ!」と即答しました。もし『よさこい祭り』のあの一体感と熱気を知らなかったら、まったく知らない土地へ飛び込む決断は絶対にできなかったと思います。
「地方車(じかたしゃ)」と呼ばれる、音響機材を積んだトラック。スピーカーから放たれる大音量も特徴で、隊列の後ろまでまっすぐ音を飛ばすため、音の波動で踊り子の衣装の袖が揺れるほど。最新の音響機材が持ち込まれることもあり、PA(音響担当)の技術力も各チームが競い合う見どころのひとつとなっている(画像提供:よさこい祭振興会)
─よさこい祭振興会としては、こうした「よさこい移住」の動きをどのように受け止めていますか?
岡林
振興会や行政としては、当初から移住を盛り上げるためによさこいを使おうと意図していたわけではありません。むしろ、そういう目的を持ちすぎてしまうと、本来大切にすべきお祭りのコアな部分を壊してしまいそうな気がして。
それでも、純粋なよさこいの熱量や文化に強く惹かれ、「この場所でかかわり続けたい」と移り住んでくださる方々が少しずつ増えていきました。
みなさんのように「よさこいが好きすぎて移住してしまう」ほど熱意を持って来てくださる方々が、地域で安心して暮らし、よさこいにかかわり続けていただけたらと思っています。
『よさこい祭り』はすべての人に「青春の魔法」をかけるお祭り
─みなさんの人生を変えてしまうほど、人を熱狂させる『よさこい祭り』の魅力とはズバリ何なのでしょうか?
芳村
『よさこい祭り』って、喜怒哀楽を全部体験させてくれる「大人のエンタメ」なんです。
学生時代は文化祭や体育祭があって、みんなでぶつかりあいながらも準備するじゃないですか。あの頃のような「青春」が、大人になると減ってしまう。よさこいにはそういう熱さがありつつ、「踊りたいです」と言えば受け入れてくれる高知の人々の度量もあって。そのハードルの低さも魅力のひとつだと思います。
よさこいで使用する鳴子
芳村
ステージに上がって主役になるとすると、どえらい努力をしないといけないと思いがちなんですが、『よさこい祭り』は「踊りたい」と思ったら簡単に参加できて、主役になれるんです。
山本
だから、「何者かになりたい」人は高知に来たらよいかもしれません(笑)。はじめて聴いた曲のはずなのに、お客さんがノリながら見てくれている様子は本当に感動するし、うれしくなります。
岡林
みなさんがおっしゃるように、『よさこい祭り』って、すべての人に「青春の魔法」をかけるようなお祭りなんですよね。
お祭り当日になると、小さな子どもからご年配の方まで、みんなが汗をかきながら笑顔で踊っている。その熱量に一度でも触れてしまうと、「そりゃ移住しちゃうよね」と、よさこい祭振興会としても納得してしまいます(笑)。
踊るだけじゃない、高知の街とのかかわり
─移住後、高知での生活はいかがですか? よさこいは、みなさんの日常や人間関係にどんな変化をもたらしたのでしょうか。
山本
大人になってから新しく友達をつくるのって、難しいと思うんです。でも、よさこいチームは踊り子、スタッフなど150人以上がかかわっています。それだけで約150人の友達が増えるんですよね。
しかも、よさこいは一度チームに入ったらずっとそこで踊らなければいけないわけではなく、年ごとに所属チームを変えてもいいんです。チームを変えたとしても、前に所属していたチームの人たちともずっと仲はよいままで。毎年150人ずつ勝手に友達が増えていく感覚なので、こんなに人間関係が築きやすくて「楽」な移住先はないんじゃないかと思います。
練習時に撮影した一枚(画像提供:よさこい移住応援隊)
体育館での練習時に撮影した一枚(画像提供:よさこい移住応援隊)
足立
そうですよね。よさこいで知り合いが増えるので、仕事ではじめて訪れた会社にチームの人がいて、「ここで働いてたのか!」なんてこともよくあります(笑)。
山本
また、「珍しがられない」ことは移住者にとってありがたい部分でもあります。高知の人たちは新しいもの好きで世話焼きな県民性で、移住者にもオープンだなと感じるんです。
芳村
たしかにそうですね。私なんかは、衣装のまま自転車で会場に向かったりするんですが(笑)、地元の方もすっかり慣れているので、そんな姿も自然に受け入れてくれている感じです。
岡林
みなさんの話を聞いていると、よさこいは地域のコミュニティとしても機能していて、昔の町内会のような役割を果たしているように感じます。チームで踊ることで、世代や立場を超えた絆ができますし、そのつながりが地域の支え合いや活力にもつながっているのではないでしょうか。
─踊り手であるみなさんは、お祭りを通じて「街や地元の方々とのかかわり」をどのように感じていらっしゃいますか?
足立
よさこいって、私たちが踊るだけのお祭りではないんです。特に、商店街のみなさまの協力があってこそだと痛感しています。
たとえば、お祭りがはじまる2〜3週間前になると、「商店街で準備があるので来られる人は来てください」とチーム内で声がかかります。朝早くから提灯をつけたり、テーブルを並べたりと、地元の方々が先頭に立って準備をしてくださっていて。
実際に自分たちでもそういった準備にかかわってみると、「私たちは商店街を使わせていただいているんだ」という気持ちになります。本番ではスポットライトを浴びて主役になるけれど、根底にあるのは「踊らせていただいている」という感覚なんです。
山本
本当にそうですね。一度、お祭りの直前に台風が来て、とある商店街にある競演場の設営が前日までにできないことがありました。ちょうど会場のすぐそばのマンションに住んでいたので、「今年はどうなるんだろう」と心配して見ていたら、当日の朝5時から地域の方々が懸命に設営している様子が見えたんですよ。それを見て、よさこいをやっていない夫も自然に手伝いに行っていました。
また、当日踊りきった終着点には給水所があるのですが、これも地元の人やボランティアの人が出してくださっていて。足立さんが言うとおり、みなさんの協力のもと「踊らせていただいている」という気持ちは踊り子みんなが抱いているんじゃないでしょうか。
─よさこいをきっかけに高知に来られたみなさんが、今度は移住者を迎え入れる側として「よさこい移住応援隊」として活動されています。具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?
芳村
移住を検討している方を集めた相談会やイベントなどを行っています。
私たちが活動をはじめたのは、メディアで「よさこい移住」という言葉が取り上げられはじめた頃でした。でも、私たちの役割は「移住してください」と一方的に普及活動をすることではなくて。純粋に「よさこいで人生を変えるのって楽しいよ」と思っている先輩として、自分たちのリアルな経験をお話しすることだと思うんです。
よさこい移住プロジェクトのポスター(画像提供:高知市 移住・定住促進課)
足立
だからこそ、相談会では移住したいと考えている人に対して、大変なことやつらいことも伝えるようにしています。高知のよい面をアピールするのであれば私たちじゃなくてもできると思っているからです。
私は2週間でスピード移住した立場ですが、「よさこいで人生を彩りたい」「移住をしたい」と考えている人が悩んだときに相談に乗るOB・OGとして活動しているイメージです。
山本
私自身はすごく心配性なので、足立さんのように2週間で移住を決めることはできなかったと思います(笑)。でも、きっと私みたいなタイプの移住検討者もいるはず。移住応援隊のなかにいろんな考え方やバックボーンを持つ人がいることで、サポートできることも増えるのではないかなと思っています。
「よさこい移住者である」と書かれた、よさこい移住応援隊のオリジナルTシャツ
─移住者が増えていることが、地域にどのような価値をもたらしているとお考えですか?
岡林
ありがたいことに、高知県への移住は年々増えていて、2025年度は移住者数・移住組数ともに過去最高となりました*1。単身の20代以下の方も多く、よさこいもそのきっかけのひとつです。
「よさこい」を入り口に高知と深くかかわる人が増えて、地域のコミュニティを一緒に盛り上げてくれるのは、私たちにとっても本当に心強いことです。受け入れる地域側にも恩恵があり、移住者の方にとってもハッピーである。そうした相互にポジティブな関係が築かれていることこそが、この取り組みの大きな意義だと感じています。
「好き」を突き詰めた先にあるもの。人生を豊かにする地域とのかかわり方
─よさこい祭振興会としては、お祭りを今後どのように未来へ残していきたいとお考えでしょうか?
岡林
『よさこい祭り』は、今年で73回目。第80回、90回、100回と終わらせることなく続けていきたいと思っています。そのためにも、いまの私たちが持続可能なかたちで次の世代にわたしていく必要があります。
そのうえで、『よさこい祭り』は「今年のテーマ」のようなものは掲げていません。少なくとも私が担当している限りはそれを決めずに、事務局はあくまで「白い器」でありたいんです。
移住してくれる人たちが新しい風を吹き込み、これまでとは違う価値観を提供してくれると、それが高知の文化とよい化学反応を起こしていきます。そうやって各チームの多様な色が混ざり合うことで「今年のお祭りはこんな彩りになりました」とかたちになるのが理想なんです。
『よさこい祭り』はあくまでもイベントではなく「お祭り」です。だからこそ、多額のお金を集めてオフィシャルスポンサーを構えるといったやり方もしていません。私たちが資金援助をお願いしているのは、あくまでよさこいを一緒に支えてくれる「パートナー」なんです。
こうした根底にある考え方を次世代に引き継ぎながら、地域の人とみんなでつくり上げる持続可能な祭りとして『よさこい祭り』を継続していきたいですね。
最大チーム数が踊る、高知『よさこい祭り』のメイン会場「追手筋本部競演場」。普段は日曜市で賑わう道の計4車線分を使い、高知城に向かって演舞が行われる(画像提供:よさこい祭振興会)
―最後に、『よさこい祭り』に限らず自分の「好きなこと」を起点に地域とかかわる魅力を教えてください。
山本
「よさこいが好き」「自然が好き」「人が好き」。いろんな好きがあるなかで、もし高知への移住を考えている人がいれば、私たちはその「好き」を全力で応援し、後押ししたいと思っています。
芳村
私はよさこいを踊りはじめて20年目になります。一昔前は「好きなことばかりやっていてどうするの」と言われることもありましたが、「好きなこと」を大事にすることが個性になり、住む場所も変え、アイデンティティになるということもあると思うんです。
「好き」を突き詰めることで人生がどう豊かに変わるのか、私たちがその証明になれたらうれしいですね。一回きりの人生だからこそ、好きを突き詰める。そんな生き方をしている人もいるよ、と誰かの背中を押せたらと思っています。
この記事の内容は2026年8月4日掲載時のものです。
*1:高知県「令和7年度 高知県への移住者数について」
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Credits
- 取材・執筆
- 山本梨央
- 写真
- 五味俊介
- 編集
- 牧之瀬裕加(CINRA, Inc)