Theme学ぶ

テクノロジーとどう向き合う?関治之に聞く、誰も取り残さない社会のつくり方

  • 公開日
関治之さんがソファに座って正面を向いているポートレート

人口減少や担い手不足、災害への備え──地域が抱える課題は年々複雑さを増しています。

こうした身近で切実な問題に対し、「AIなどのテクノロジーで解決できないか」という期待は、いま確実に高まりつつあります。急速に進化するテクノロジーを前に、私たちはそれとどう向き合い、地域社会のなかでどのように活かしていくべきなのでしょうか。

その問いに向き合うためのひとつの考え方が、市民(Civic)とテクノロジー(Technology)をかけ合わせた「シビックテック」です。市民の声を起点に、行政・企業という立場の違いを越え、「ともに考え、ともにつくる」ことで地域課題に向き合おうとする取り組みです。

そんなシビックテックの第一人者として現場で実践されてきたのが、関治之さんです。「テクノロジーはあくまで道具。まずは人と人の対話からはじまる」。そう語る関さんに、これまでの歩みとデジタル化の先にある「誰も取り残さない社会」へのヒントをうかがいました。

テクノロジーの無力さを知った被災地での経験。Code for Japanがめざす「共創」の原点

―関さんは現在、一般社団法人コード・フォー・ジャパン(以下、Code for Japan)の代表理事として、テクノロジーを用いた地域課題の解決に尽力されています。活動をはじめたきっかけについて教えてください。

はじめにCode for Japanとは、2013年に私が立ち上げたIT技術を活用して地域課題の解決をめざす非営利団体です。「ともに考え、ともにつくる社会」というビジョンのもと、一般市民・行政・企業といった組織の垣根を越え、あらゆる社会課題・地域課題の解決を目標に活動しています。

Code for Japanを立ち上げる前、私はエンジニアとして働いていて、その頃は社会課題に強い関心があったわけではありませんでした。転機となったのは、東日本大震災を経験したことです。

当時、エンジニア仲間とのコミュニティで「いまこそ何かやるべきだ」という声が上がったことをきっかけに、被災地の情報を集約する復興支援サイト「sinsai.info」を立ち上げたんです。

これがSNSを起点に瞬く間に広がり、一晩で何百人もの人が参加し情報の更新を重ねたので、地域の情報がみるみる整理されていきました。その経験が、自分のマインドを大きく変えるきっかけになりました。

sinsai.infoのサイト画面

震災や復興関連情報を集めた当時のsinsai.infoのサイト

―sinsai.infoは、立ち上げから1か月後には、閲覧ページビュー数が100万ページビュー以上、訪問者が50万人以上になったそうですね。

はい。ただsinsai.infoを続ける一方で、「このサイトは果たしてどう役に立っているんだろう」という疑問も芽生えはじめました。

実際に被災地へ行ってみると、現地の人たちはそもそもsinsai.infoの存在自体を知らない状況だったのです。自分たちがつくったサービスは、必要としている人に届いていなかった。「自分たちは何をやっていたんだろう」と、立ち尽くすような感覚でした。そのときはじめて、技術を提供するだけでは社会は変わらないと痛感しました。

身振りを交えて話す関治之さん

関治之さん
一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事。「テクノロジーで、地域をより住みやすく」をモットーに、会社の枠を超えてさまざまなコミュニティで積極的に活動している

そんな折に出会ったのが、アメリカの非営利組織「Code for America」の活動でした。それまでの私は、エンジニアとして「よいシステムをつくれば課題は解決する」と思い込んでいました。しかし彼らが実践していたのは、テクノロジーを市民自ら使いこなし、「自分たちにとってよりよい地域の姿」を思い描きながら、行政とともに地域課題の解決に向き合っていく。そんなスタイルだったんです。

「一方的に提供する技術ではなく、使う側が主体となる仕組みこそが必要だ」と、震災での葛藤があったからこそ、そのコンセプトが強く腑に落ちたんです。

「この考え方を日本でもかたちにできないだろうか」「自分にもまだできることがあるはずだ」。そう考えるようになって Code for Japanを立ち上げました。

パソコンのブラウザ画面に「プロジェクト一覧」の文字があり、その下にさまざまなサムネイル画像とプロジェクト名が並ぶ

Code for Japanでは、これまでに生まれたシビックテックのプロジェクトを、誰でも閲覧できるかたちで公開している

現在Code for Japanの活動のほか、個人としても15くらいの自治体にかかわりながらデジタル関係の政策づくりをお手伝いしたり、さまざまな地域へ赴きテクノロジーを課題解決に活用するイベントを開催したりしています。

テクノロジーが身近になり、日々その恩恵を実感する場面も増えています。一方で、急速なデジタルの進展に対して、実際に現場で不安や懸念の声を聞くこともあるのでしょうか。

もちろんありますよ。AIに仕事が取って代わられたらどうしよう、なんて話は日常茶飯事です。

前提として、私は「テクノロジーの力によって、世界は素晴らしい方向へ向かうはず。どんどん推し進めていこう」という考えは持っていないんです。ただ、このパラダイムシフトに頑なに逆らっても仕方のない側面もあります。デジタル化によって失われるものもあるかもしれません。けれど、どう活用すれば社会がよくなるのかを考え、その仕組みを生み出していこう、という前向きなスタンスが重要だと思っています。

効率化ではなく「向き合い方」を問い直す。シビックテックという考え方

関さんは「シビックテック」を推奨されています。シビックテックとはどのようなものなのでしょうか。DXとの違いも教えてください。

DXとは、デジタル社会の進展を前提に、サービスや業務、組織のあり方を見直し、変えていくための取り組みをさします。自治体や企業の現場でも、効率化やサービスの質の向上を目的に、さまざまなDXが進められています。

一方でシビックテックは、そうした業務や組織の変革そのものを目的とするというよりも、課題にどう向き合い、どう意思決定していくかというプロセスに重きを置いています。

市民が主体的にかかわることで、民主的な意思決定が生まれやすくなり、「行政に任せるしかない」という状況を少しずつ変えていく。市民・企業・行政がそれぞれの役割を持ちながら連携し、課題に向き合える状態を切り開いていくことが、シビックテックの大きな特徴です。

ひとつの組織だけでは解決できない複雑な課題に対して、市民・企業・行政が対話を重ね、試行錯誤しながらともに解決策を探っていく。その過程は決して平坦ではなく、合意形成には時間も労力もかかります。しかし、そこにこそシビックテックの真の意義があります。

こうしたプロセスにかかわることで、地域や社会の課題は「誰かが解決してくれるもの」ではなく、自分たち自身の問題として立ち上がってくる。当事者として向き合うことで、本当に困っていることは何か、その背景には何があるのかが見えてきます。その積み重ねが、課題に対する解像度を高めていくのだと思っています。

本質的な社会課題の解決は、市民・企業・行政、どれかひとつの力だけでは成し遂げられません。ともにつくることで、より複雑でイノベーティブな取り組みを実現させられるというのがシビックテックです。その考え方を取り入れることで、さまざまな課題に対する解像度が上がり、社会への当事者意識がより濃くなると思います。

実際にシビックテックが社会で活用されている例を教えていただけますか。

たとえば昨年、クマの被害が各地で話題になりました。あるシビックテックの団体が、地域住民が安心して暮らせる仕組みづくりをめざし、クマの目撃情報を集めたサイトを制作しました。この取り組みは全国にシェアされ各地で活用されています。

こうしたケースは、子育て分野でも広がっています。保育園や幼稚園、子育てセンターなど、子育てに関する情報は、1か所に集約されておらず点在していることが多く、必要な人にとって探しづらい状況がありました。北海道のCode for Sapporoではシビックテックの一環として、保育施設や幼稚園の位置情報、空き状況といった情報を一つひとつ調べ、地図で提供する取り組みを行っていました。

これは、行政が新たなシステムを一から整備したものではなく、「どこに、どんな情報が足りていないのか」という当事者の視点からはじまり、試行錯誤を重ねながらかたちにされていったものです。その成果は、市役所によってオープンデータとして正式に公開され、現在は行政の情報提供の一部としても活用されています(市民によるマップは現在はクローズ)。

また、佐賀県ではバスの路線図や時刻表がわかりにくく、利用しづらいという課題に対し、Code for Sagaが中心となって情報の整理に取り組みました。

参加者たちは、行政が用意した既存の情報をただ見やすく整えるのではなく、「迷わず乗るためには、どんな情報が本当に必要なのか」という徹底した利用者目線で、路線図をゼロから再設計していったのです。

その結果、路線や停留所の情報は誰にとっても理解しやすいかたちへ再構成され、GTFS*と呼ばれる共通フォーマットに落とし込まれました。

この取り組みは、利用者目線から再設計された点や、データのオープン化という点が国土交通省にも評価され、全国の自治体に共有されました。現在では、同様の形式を導入する自治体も増え、地域交通の情報整備に活かされています。

市民の気づきや行動がきっかけとなり、行政の仕組みそのものが更新されていく——こうしたプロセスこそが、シビックテックの特徴だと思っています。

*GTFS:General Transit Feed Specificationは、鉄道やバスなどの公共交通機関の時刻表や地理的情報を、Googleマップや経路検索サービスで利用できるようにする世界標準のデータ形式のこと

特に最近、関さんが関心を寄せているシビックテックのテーマはありますか?

少し前にCode for Japanのなかで立ち上がった、SNSの偽情報対策のプロジェクトですね。

これまで日本は海外に比べると、偽情報による大きな被害は少ないとされてきました。それは、日本語という言語の壁があり、海外からの偽情報が入り込みにくかったためです。ですが、生成AIの進化によって言語の壁は意味を失い、日本語の偽情報が大量かつ、簡単につくられ拡散される環境が生まれてしまったのです。

少し前の選挙から、プロパガンダを含む偽ニュースサイトがAIによって自動生成され、SNS上で拡散されるケースが多く見られるようになってきました。AIによって偽情報が「自動的に、大量に」つくられ、日常の情報のなかに混ざっていく。そうしたいまの状況には、非常に大きな危機感を持っています。

SNSという空間自体が、結果として民主的な意思決定を揺るがしかねない状況に対しては、行政側も強い危機感を抱いています。情報の流れを左右するSNSや検索サービスといった巨大なプラットフォームを、どのようなルールのもとで運営していくべきなのか。いわゆる「プラットフォーマー規制」も含め、社会全体で考えていく必要があると感じています。

西粟倉村の事例に見る、仲間づくりとテクノロジーの理想的な関係

私たちの身近には、数多くのシビックテックが存在するのですね。特定の地域といったいとなって実践されたケースがあれば教えてください。

岡山県にある人口約1,300人の西粟倉村で、「西粟倉むらまるごと研究所」の運営にかかわりました。この研究所は、役場の地方創生推進室と、地域住民の発案で生まれたものです。ここでは、具体的にテクノロジーを活用して何かを実践するというよりも、その前段階として「立場を越え、市民が協働してやってみる」ことが自然に生まれる環境づくりを重視しています。

そのため、子ども向けのデジタルを使ったものづくり教室を開催したり、「森々燦々(しんしんさんさん)」と題してアーティストを招き、自然のなかで展示とワークショップを開催したりと、テクノロジーとは直接的に関係のない活動も行っています。住民同士が顔の見える関係を築き、対話や協働が生まれていくこと自体が、シビックテックの土台となる大切なプロセスだからです。

一方でテクノロジーが活きる場面もあり、小水力発電などを使った村のエネルギー政策をデータ化し、「どれくらい電気代が安くなっているのか」「どれくらいCO2の排出量削減に貢献できているのか」などを可視化する取り組みも行いました。現在も、この研究所を拠点に毎月さまざまなイベントが開催されています。

6人の大人が樹木種別調査をしている

地域企業と連携した樹木種別調査ワークショップの様子

こういった「場づくり」って、意外と大事なシビックテックの役割のひとつなんです。

奈良県の旧月ヶ瀬村で行われた「kuu village」という取り組みでは、全国から参加者を募り、村のコミュニティスペースで一週間の合宿をしながら、みんなでものづくりを行いました。最初からITやデジタルの話を持ち込むのではなく、あえてサウナ小屋を建てたり、井戸を掘ったり、茶室をつくってお茶会をしたり……といったフィジカルなワークを通じて、「空間をシェアし、ともに維持・運営していく場(コモンズ)」について考えるというものです。

「同じ目的をともに達成するプロセス」を通じて、誰かに決められたルールに従うのではなく、自分たちの手で生活環境やコミュニティを維持・運営していく新しいかたちの自治を模索する。こうした姿勢を育むことが、シビックテックの素地になります。

12人の大人が輪になって座り話し合っている様子

参加者がkuu village のありたい姿について語っている様子

いまは、AIを使えばあっという間にアウトプットが出てくる時代です。けれども、本当に難しいのは、「そもそも何をめざすのか」「どんな仕組みで進めていくのか」といった最初のセットアップです。みんなで集まって腹を割って話し、一緒にご飯を食べる。そうした経験を通じて生まれる信頼関係があってこそ、よい議論が生まれます。私自身もこうした活動を通じて、いったん絆ができてしまえば、そのあとはどんなことにもチャレンジできるような環境が生まれるんだと実感させられています。

テクノロジーを活用する以前の「関係性づくり」から、シビックテックははじまっているのですね。

そうですね。西粟倉村や旧月ヶ瀬村の試みに人が集まっているのも、テクノロジーありきの活動にしていないからこそだと思います。テクノロジーを前面に出してしまうと、どうしても参加者が限られてしまう。地域の活動に関しては、どんなに熱量があっても一人では解決できないため、結局はいろいろな人たちとつながって、仲間を集めることが真っ先に必要になってきます。

さらに言うと、仲間を集めて活動をドライブさせていくためには「誰が・なぜ・それを実践したいのか」という動機が欠かせません。常日頃からその地域のために何ができるかを考えている、「キーマン」がいることが大事。熱量のあるキーマンを中心に「地域のためにこんなことに挑戦してみようよ」「このことで困っているから誰か助けてよ」といった発信をし続ければ、物事は自然と前に進みやすくなります。

そのうえで、「これだったらテックの力でなんとかできるよ」「クラウドファンディングという手段もあるね」と話が展開するのが理想。テクノロジーはあくまで、課題に対する解決手段でしかないからです。

リスペクトと対話が生む、誰も取り残さない共創のかたち

シビックテックの現場における市民・行政・企業の理想的な関係について、関さんの考えを聞かせてください。

互いにリスペクトを持つことが第一だと思います。市民と行政のあいだでは、「連携がうまくいかない」という不満が生まれることも多いですが、そこにはお互いの立場や事情があります。行政は公平性や前例を重んじる立場にあり、どうしても意思決定に慎重さが求められます。一方で市民側には、日常で生まれた課題に対して「いますぐ動いてほしい」という切実な思いがあります。そのズレが、両者のすれ違いを生んでしまうことも多いのです。

そうした互いの役割や状況を理解したうえでかかわることが大事だと思いますね。まずはその姿勢が、誰も取り残さない自然なかたちのシビックテックの実現への第一歩だと思います。

あとは、ビジョンを共有し対話を重ねることも大事です。「最終的にここをめざしているんです」と話すことで、お互いのビジョンやモチベーションがわかり、共感が生まれ、目の前の取り組みもスムーズに進むようになるかもしれません。

今日のお話をとおして、テクノロジーを活用した課題解決を実現するためには、まずは人と人との対話が必要なのだとよくわかりました。

そうですね。たとえば行政の仕事ひとつとっても、デジタルを活かすのかアナログを活かすのか、さまざまな解決策があると思っています。たとえば、インプットとアウトプットが一対一で決まっていて、ある意味誰が対応しても同じ答えが返ってくるような事務手続き。こうした業務は、最初からデジタルを前提に設計したほうが効率も上がりますし、現場の負担も減らせます。

ただ役所には、子育ての悩みを相談したい人、生活の相談に来る人などもいますよね。そういったケア領域に関しては、やはり相手の話を聞き、その背景をくみ取る人間の力が問われると思います。何でもかんでもAIに任せればいいという考え方は、僕はあまりしっくりきません。デジタルが得意なところと、人が担うべきところを見極めながら使っていく。そのバランスを考えることが、これからはより大切になってくるのではないでしょうか。

これから社会課題・地域課題を自分ごととしてとらえて行動を起こそうとしている次世代の人たちへ、ぜひメッセージをお願いします。

人と対話をするなかで、自分が何を大事にしたいのか、どんな社会をつくりたいのか、という想いはどんどんブラッシュアップされていくと思います。私自身も、当時は誰もシビックテックを知らないなかでCode for Japanを立ち上げるのにはとても勇気がいりました。しかし、誰かと話し、仲間が増え、考えが整理されることで自然と前に進めるようになっていった感覚があります。

自分の気持ちをほかの人に話すことで整理でき、思いもよらない課題解決のヒントが生まれることもたくさんあるはずです。やりたいことがデジタルだろうがアナログだろうが、最初から正解を持っている必要はありません。まずは仲間を見つけて、対話を重ねてみること。そのプロセス自体が、課題解決の第一歩になるのではないでしょうか。

この記事の内容は2026年4月21日掲載時のものです。

この記事は参考になりましたか?

  1. 1

    全く参考に
    ならなかった

  2. 2
  3. 3

    どちらとも
    いえない

  4. 4
  5. 5

    非常に
    参考になった

Credits

取材・執筆
波多野友子
写真
宮本七生
編集
岩田悠里(プレスラボ)、篠崎奈津子(CINRA, Inc.)

この記事は参考になりましたか?

  1. 1

    全く参考に
    ならなかった

  2. 2
  3. 3

    どちらとも
    いえない

  4. 4
  5. 5

    非常に
    参考になった