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シェア型図書館「みんとしょ」が商店街づくりの“当事者”を生む。本棚起点の再生モデル

  • 公開日

静岡県焼津市から全国に広がる一風変わった図書館があります。

その名は、「みんなの図書館」(通称・みんとしょ)。本が並ぶ棚の一つひとつに「持ち主」がいる、シェア型の図書館です。月額料金を支払えば誰もが「本棚オーナー」になることができ、訪れた人は無料で本を借りられます。

その第1号店が、JR焼津駅近くの駅前通り商店街にある「みんなの図書館 さんかく」(以下、さんかく)です。

かつては肩がぶつかるほど賑わった駅前通り商店街も、時代の変化とともに活気を失い、空き店舗が目立つようになりました。そんななか2020年に生まれた「さんかく」は、本の貸し借りを超えて、多世代の交流と、商店街づくりの担い手を生み出す拠点になっています。

今回は、「みんとしょ」モデルの発起人である土肥潤也さん、地元の生き字引として若手を見守る栗下一紀さん、本棚オーナーになり「人生が変わった」と語る村松裕夫さんの3名にお話をうかがいました。

商店街に面した「みんなの図書館 さんかく」の外観。ガラス越しに本棚が見え、入口前にベンチや看板が置かれている

静岡県焼津市の焼津駅前通り商店街にある「みんなの図書館 さんかく」。全国に広がるシェア型図書館「みんなの図書館」の第1号店

商店街の軒下に取り付けられた「みんなの図書館 さんかく」のロゴ入り看板を見上げた様子
木製の「やってるよ/OPEN」と書かれた営業中サインがガラス扉にかかっている

シェア型図書館「みんとしょ」とは?

・本棚を小区画に分けて貸し出す「一箱本棚オーナー制度」を採用したシェア型図書館
・オーナーが自分の本を並べ、利用者は無料で借りられる仕組み
・本棚オーナー料は月額2,000円前後が目安(地域や施設により無料〜4,000円程度まで差がある)
・全国で30地域120か所以上に広がっている運営モデル
・施設の運営者だけではなく、本棚オーナーも店番や日々の運営を担う「みんなでつくる図書館」スタイルが特徴

かつて「高級時計が毎日売れていた」商店街の衰退が、「みんとしょ」誕生のきっかけに

―土肥さんは、なぜ焼津という地で「みんとしょ」をはじめようと思ったのでしょうか?

土肥

出身地である焼津に、もう一度活気を取り戻したいと思ったのがきっかけです。僕はこの商店街の出身ではありませんが、近所に住んでおり、子どもの頃からよく訪れていました。

しかし、商店街は年々賑わいを失い、以前より人通りも減っています。かつては歩くのも大変なほど混雑し、景気のよい時代もあったそうです。現在も営業を続ける時計店の店主さんからは、「昔は高級時計が毎日のように売れていた」と聞くほどです。

このまま静かに衰えていくのを見ているだけではなく、自分なりに何かできることはないか。そう考えたときに、この商店街を拠点に新しい取り組みをはじめようと思ったんです。それが「みんとしょ」でした。

このあたりの焼津の歴史については、栗下さんが詳しいですよね。

本棚が並ぶ図書スペースで、眼鏡をかけた土肥さんが椅子に座り、手振りを交えて話している様子

土肥潤也さん。静岡県焼津市出身。シェア型図書館「みんなの図書館(みんとしょ)」の発起人。焼津の拠点「さんかく」を運営し、民間による公共空間づくりに取り組んでいる

栗下

私がはじめて焼津に来たのは中学1年生のときで、もう70年ほど前になります。掛川市育ちですが、焼津駅前の賑わいに強い印象を受けました。

本棚を背景に、椅子に座った栗下さんが身振りを交えて話している様子

栗下一紀さん。静岡県掛川市出身、焼津市在住。地域の歴史を知る地元のキーパーソン。「さんかく」開設にも協力し、若手の挑戦を支えている

栗下

その後、1968年に縁があって焼津に移住。当時はカツオ漁船の寄港地として栄えていましたが、船の大型化と航海の長期化によって立ち寄りが減り、街の活気も徐々に低下しました。商店街も有効な手を打てないまま時が過ぎていきました。

危機感をはっきり覚えたのは、1990年頃におもちゃ店が閉店したときです。おもちゃ屋がなくなるということは、街から子どもがいなくなっているということ。この地域の将来に不安を感じました。

土肥

そうして徐々に活気が失われていくなかで、決定打となったのが東日本大震災でした。港に近いエリアということもあり、内陸への転居が進み、若者もどんどん外へ出ていってしまった。そうして、駅前に位置するこの商店街も一気に賑わいを失いました。

商店街の店舗「KURISANCHI」の前に立ち、土肥さんと栗下さんが会話している様子

「さんかく」の2軒隣にある、栗下さんの娘さんが営む雑貨店兼駄菓子屋

―そんな状況のなか、土肥さんはどのような想いや目的を持って、「みんとしょ」を立ち上げられたのでしょうか。

土肥

国や行政に頼らず公共空間をつくること——僕はそれを「私設公共」と呼んでいますが——その実証実験ですね。今後、全国的に図書館のような公共施設が維持できなくなり、減っていく可能性があるなかで、それを民間ベースで自律的に維持・運営できるのかを試したい、というのが目的のひとつです。

もうひとつの目的は、商店街の活性化です。重要なのは、商店街を「利用する人」を増やすことよりも、「つくる人」を増やすことだと考えています。本棚オーナーになることは、「みんとしょ」の運営にかかわることを意味します。そして「みんとしょ」は商店街の一部なので、オーナーになることはそのまま商店街づくりの担い手になることでもあります。そうした、商店街に「自分ごと」としてかかわる「当事者」が増えていくこと。それ自体が、この取り組みの大きな目的のひとつです。

「公共」とは「誰かがつくるもの」ではない。みんなで運営するシェア型図書館

―本棚オーナーのみなさんに「当事者」になってもらうために、どのようなことを意識していますか?

土肥

本棚オーナーのみなさんに、施設運営の主語を「自分」にしてもらうことを大事にしています。

たとえば、店の開け閉めを含めた店番やシフトの管理、そして店内の清掃についても、運営側だけが担うかたちにはしません。運営側がすべて行うと、本棚オーナーさんに「使わせてもらっている」という意識が生まれてしまうからです。

僕は「公共」の本質は「みんなでつくること」だと考えています。だからこそ、店の「運営者」と「本棚オーナー」の役割を明確に分けるのではなく、日々の役割やルールづくりも含めて「自分ごと」としてかかわる。その積み重ねのなかで、商店街の一員としての「当事者」意識が芽生えるのではないでしょうか。

そうした目線で商店街を眺めると、利用者のときとは見える景色が変わり、「もっと商店街がこうなればいいな」「もっとよくしたい」という発想も自然に生まれてくるはずです。

壁一面の木製本棚に本がぎっしり並ぶ図書スペースで、土肥さんがカウンター越しに本を眺めている様子

「みんなの図書館 さんかく」の店内。壁一面の本棚に、多様なジャンルの本が並び、本棚オーナーそれぞれの選書が共存している

木製の本棚にずらりと並んだ本の背表紙。手書きの付箋メモも貼られている

本棚オーナーの本が並ぶ棚。ジャンルも選書も異なる一箱ごとの個性が表れている

図書スペースの机の上に置かれた、お菓子が入った瓶と木の器

利用者向けに置かれたお菓子。手書きのメッセージで「ご自由にどうぞ! 次回お菓子かあめを持ってきてね」と、自由に持ち帰れる小さな気づかいが見える

―運営側が「やりすぎない」ことも重要なのですね。

土肥

そうですね。「当事者になる」ということは、「決定権を持つこと」にほかなりません。だから、「みんとしょ」には最低限の決まりごと以外、細かなルールは設けていません。

その日の図書館の運営のあり方は、お店番を担当する本棚オーナーさんにゆだねています。たとえば、「今日は静かに読書を楽しむ日」にすることもあれば、「今日は子どもがにぎやかでもOKな日」にすることもある。その日の店番の考えによって、場の雰囲気や細やかなルールも変わっていきます。

対応に迷う相談があっても、その日の担当者が自分で決めるのが原則。その場所に関するすべてのことを、自分たちで決めていくことこそが、公共空間にとって最も大切なことだと思うんです。

―「公共」に関することは自分たちで決めていく。なぜ、そのような意識を持つに至ったのでしょうか。

土肥

僕自身の原体験が影響しています。中学生の頃、(当時は特に禁止ルールもなかったため)友達と公園でエアガンで遊んでいたら、近所のおばちゃんに「危ないじゃないの!」と叱られたことがあったんです。当時はまだ幼く、思わず言い返してしまったのですが、次の日からは別の場所で遊ぶようになりました。

つまり、少なくとも僕たちのなかでは「あの公園ではエアガン禁止」というルールができたわけですね。これはあくまでも一例ではありますが、当時はそんなふうに利用者同士の対話によって、公共の場所のルールが決まることもあったのではないかと思うんです。ただ、僕たちとそのおばちゃんのやり取りは、「対話」と呼べるものではありませんでしたが(笑)。

一方、いまでは同じようなことがあると、市役所などの施設の管理者に通報するケースが多く、当事者同士の対話がないまま「エアガン禁止」という看板が立つことになる。本来、公共の場のルールは、そこにかかわる人たちが対話を重ねながら形づくっていくものだと思うんです。

異なる意見を持つ人同士が対話を重ね、ルールを決定していく。公共空間にとって大切なのは、そのようなプロセスなのではないかと思っています。ですから、「みんとしょ」には細かなルールを設けず、その場にいる人の判断に委ねています。このくらいの規模の空間なら、対話で解決できるはずですから。

行政との取り組みを通じて感じた、「自分たちの場所」の必要性

―先ほど、かつての賑わいを取り戻すきっかけとして焼津で「さんかく」をオープンする決意をしたお話をうかがいましたが、実際にはどのような経緯で開設に至ったのでしょうか。

土肥

大学時代、静岡市内でNPOを立ち上げ、まちづくりの活動をしていました。振り返ってみると、大学の新入生代表スピーチで「いつか地元を活性化させたい」と話していたらしくて。自分ではあまり覚えていないのですが、その頃から地元に対する想いはあったのだと思います。

その後、静岡市での取り組みを見た焼津市から声をかけていただき、委託事業として中高生の居場所づくりにもかかわるようになりました。

ただ、行政事業ならではのルールや手続きがあり、イベントの企画や入居スペースのレイアウト変更にも一定の調整が必要でした。そうした経験を通じて、「より自由度の高い実践の場を、自分たちの手でつくりたい」と考えるようになりました。

ちょうどその頃、移住者による出店やリノベーションで商店街に新しい動きが出はじめました。交流を深めるなかで空き物件の情報を知り、ここを拠点に活動をはじめようと決め、「さんかく」の開設に至ったのです。

本棚を背景に話している土肥さんの横顔

―「シェア型図書館」というアイデアは、どこから着想を得たのですか?

土肥

きっかけは、運営していたNPOで大学生インターンから「本を貸してほしい」と頼まれることが多かったことです。事務所が自然と図書館のようになり、そこから発想が広がりました。

ベースとなる仕組みは、他地域で実践されていた棚貸し古書店などを参考にしています。ただ、本を「売る」形式にはしたくありませんでした。販売だと、手放してもいい本だけが並んでしまうからです。

そこで「貸す」仕組みにすれば、愛着のある本も共有できると考えました。手放さずに外へ開く本棚という発想から、当時まだほかにはなかった「シェア型図書館」というモデルを思いついたんです。

―「みんとしょ」のモデルは、現在では全国30地域120か所以上に広がっています。これほど広がった理由はどこにあると考えていますか?

土肥

「コアになる思想がない」ことが大きいのではないでしょうか。「みんとしょ」という概念を構成するのは、「本棚オーナーを募り、細分化した本棚を貸し出す」という仕組みのみで、本棚を常設できる場所があれば誰でもはじめられます。

利用者の男性に対し、カウンター内の土肥さんが貸し出し用紙を記入している様子

利用者への本の貸し出し手続き

―実際に立ち上げるにあたって、課題や不安はありませんでしたか?

土肥

立ち上げ時の最大の不安は資金面でした。賃料などの固定費を、「シェア型図書館」という仕組みでまかなえるのか見通しが立たなかったからです。

結果的にこの仕組みを実現できたのは、ひとえに大家さんのおかげなんです。立ち上げ当初は家賃を大幅に抑えてくださって。この金額なら、月2,000円の本棚オーナー料を支払ってくれる人を一定数見つけられれば賃料は払えるし、本棚オーナー料が不足する場合も、読書会などのイベント収入で補う想定を立てました。

また、出身は焼津でも商店街では「よそ者」だったため地域になじめるかという不安もありましたが、栗下さんたちに出会い、その心配はすぐ解消されました。

栗下

土肥くんとはじめて会ったのは、「さんかく」開業前の2019年。商店街でコワーキングスペースを運営する移住者の方に誘われた飲み会でした。

最初は土肥くんがいろいろ語っているのを聞いて、「しゃらくせえこと言いやがって」なんて言った覚えもあります(笑)。だけど、内心では「面白いこと考えてんな」と思っていました。その後、物件を借りる際には大家さんとの交渉を手伝い、工事にも立ち会いました。「さんかく」の誕生を楽しみにしていたんです。

本棚を背景に、土肥さんと栗下さんが並んで笑顔で会話している様子

土肥

これは焼津というか、漁師町特有の気質なのかもしれませんが、それぞれが主体的に動くことに価値を置く風土があります。「おらが、おらが」という自立心が強い気質がある一方で、新しい挑戦や頑張っている人に対しては全力で応援してくれる。よそ者でも、何かをはじめようとする人には自然と手を貸してくれる。商店街にもそうした気質の方が多く、とても助けられています。

「本棚」を通じた出会いが、人生を変える

―商店街のみなさんと一緒に、この場やまちの賑わいをつくっているのが本棚オーナーのみなさんだと思います。村松さんは、いつごろ本棚オーナーになったのでしょうか?

村松

「さんかく」のオープン直後からオーナーをやらせてもらっています。私は近くの別の商店街でそば屋を営んでおり、新聞で「さんかく」の開業を知り、見に来たのがきっかけです。

もともと本が好きで、自分の愛読書を誰かに読んでもらえたらと思い、そのままオーナーになりました。

本棚を背景に、椅子に座った村松さんが笑顔で話している様子

村松裕夫さん。近隣でそば店を営む、「さんかく」初期メンバーの本棚オーナー。本を通じた出会いを楽しんでいる

―実際に本棚オーナーになってみて、よかったと思うことはありますか?

村松

大げさではなく「人生が変わった」と感じています。本棚オーナーになったことで、普段の生活では絶対に出会えない人たちと知り合えました。

この場所を通じて、年齢や職業を問わず多くの人と交流し、本の話だけでなく趣味や日常の話もするようになりました。若い世代の考えに驚くこともありますが、大きな刺激を受けていて、日常がぐっと楽しくなりましたね。

本棚が並ぶ図書スペースで、棚の一角を指さして立っている村松さん

村松さんの本棚スペース

木製の本棚の一段に、表紙が見えるかたちで並べられた数冊の本のアップ

村松さんがセレクトした本

―さまざまな交流が生まれているのですね。

土肥

ここに来るおじいちゃんやおばあちゃんたちは、以前より若々しくなったように見え、健康面にもよい影響が出ているのではないかと感じています。一人で暮らしている方も少なくありませんから。

そうした人が日常的に世代を超えた交流を持つのは簡単ではありませんが、この場所があることで自然なつながりが生まれています。孤独や孤立の課題に対し、人との関係や活動参加で支える「社会的処方」に近い役割も果たしているといえるかもしれません。

栗下

この場所のよさは、地元だけでなく県外の人ともつながれる点だと思います。土肥くんが地域外の学生を呼び込んでいるんですよね。

土肥

2022年から、全国の大学生を対象に「商店街クエスト」を実施しています。夏休みの5泊6日で商店街を舞台に、「半年間で3万円を稼ぐスモールビジネス」を立案するプログラムです。期間中は商店街の方々にも協力していただきながら、アイデアを練り、形にしていきます。これまでに多くの学生が参加し、商店街との新たな接点も生まれています。

村松

このプログラムをきっかけに、焼津へ継続的に通う学生も出ています。愛媛の大学に通う学生が、来るたびに私のそば屋で短期バイトをしてくれているんです。最初に会ったとき「今度来たら、バイトしなよ」と軽い気持ちで言ったら、本当に来たので驚きましたけど(笑)。

―「さんかく」ができてから、商店街にはどのような変化を感じますか?

栗下

一番の変化は、子どもが来るようになったことです。子どもが来れば親も来るし、そのまた親も来る。多世代が集まる流れが生まれました。

それだけでなく、ここは子どもと大人がお互いを知る場にもなっています。たとえば小学生の職業インタビュー。ふつうはお父さんやおじいちゃんなど身近な大人に話を聞くことが多いですが、「さんかく」では店番をしているさまざまな大人に直接話を聞くことができます。それを目的に訪れる子どももいるほどです。

「まさか店番のおじちゃんがそば屋さんだったなんて……」と驚くこともあるようで(笑)。そんな出会いが、子どもたちにとって将来を考えるきっかけにもなっているのではないかと感じています。

村松

この駅前通り商店街には「さんかく」をはじめとして、新しいお店がどんどんできているし、人通りも回復しているように感じます。

書棚に囲まれた小さな図書館の室内に、村松さんと土肥さん、栗下さんが並んで座り、笑顔で会話している様子

―行政だけに任せるのではなく、さまざまな立場の人たちがかかわりながらまちづくりを進めたことが、大きなポイントだったのでしょうか。

土肥

要因かどうかは断言できませんが、「さんかく」は行政と一定の距離を保って運営しています。連携は大切でも、基本にあるのは、自分たちで考え、自分たちで回していく「自走」の姿勢。それが、この街の気質にも合っていると感じます。

先ほども話したように、焼津は自立心のある人が多く、それぞれが主体的に動くことに価値を置く風土があります。過去の経験からも、トップダウン型の運営は地域になじみにくい印象です。また、焼津は街に対する当事者意識が高い地域でもあります。

一方で、行政主導で再開発を進める近隣都市の例もあり、どちらが正しいかではなく地域との相性の問題。だからこそ、地域の力を活かすかたちを意識し、焼津の場合は行政に頼りすぎない運営をとっています。

―そう考えているからこそ、「私設公共」の実証実験として「さんかく」を運営しているわけですね。

土肥

先ほどもお話ししたとおり、本来、「公共」とはみんなでつくりあげるものだと思っています。行政に任せきりにした結果、人々が「お客さま」化し、公共施設の運営に声が届きにくくなりました。その結果、いつの間にか「みんなのものでありながら、誰のものでもない」という矛盾した状態が生まれてしまったような気がするんです。

以前は、「みんなのもの」の取り扱い方や「みんなの場所」のルールは、「みんな」が決めていたはず。これからの時代、僕たちはふたたびその感覚を取り戻していく必要があるのではないでしょうか。

木製の本棚の空いたスペースに、小さなゾウの置物と「空いてるら(=空いてるよ)」と書かれたメモが置かれている様子。周囲には本が並び、棚の一部が空席であることを示している

めざすのは、「多様な雑草がしなやかに生い茂る場所」

―村松さんと栗下さんは、今後の「さんかく」や土肥さんにどのようなことを期待されていますか?

村松

何か新しいことをやってみるというよりも、いまの「居心地の良さ」をこれからも大切にしていきたいと思っています。ただそこにいるだけで心地よく、本を読んだり、訪れた人と自然に言葉を交わせたりする——そんないまの「さんかく」の雰囲気が好きですね。

栗下

この商店街を次の世代へつないでいくためにも、若い人たちがこの場所にかかわり、自分なりの挑戦を重ねてくれたらうれしいですね。できれば、商店街の土地や建物を自分たちで取得し、主体的に取り組んでくれたらなおうれしい。実際、土肥くんやその仲間たちはそうしていますし。もう「どんどんやれ」と(笑)。

自分たちの資金で土地や建物を持つことは、大きな覚悟が伴います。その分、本気度も高まり、より責任ある取り組みにつながっていくのではないでしょうか。

僕はもう80歳を超えているし、この先なにか大きなことをできるとは思っていない。はじめて言葉にするけど、土肥くんたちには本当に期待しているよ。

土肥

ありがとうございます。おっしゃるとおり、街づくりにおいて土地や建物を持つことは重要だと感じています。人口減少で空き家や空き地が増えるのは寂しい反面、自由に活用できる余地が広がるという面もあります。

そして、土地を持つことは、街づくりに関する決定権を持つことにつながります。再開発も、最終的には地主の合意がなければ進まないからです。

―最後に、土肥さんは今後どのような地域をつくっていきたいですか?

土肥

めざしているのは、「多様な雑草が生い茂る」ような街です。雑草は何度抜いてもまた生えてきますし、さまざまな種類が混ざっているからこそ、どれかひとつが枯れても全体は生き続ける。次々と新しい芽が出て、それぞれが自由に育っていく——。そんな力強さと多様性を備えた地域にしていきたいですね。

商店街の店舗前で、取材を受けた3人が並ぶ様子。背後のガラス扉には「みんなの図書館 さんかく」のロゴが見える

この記事の内容は2026年3月26日掲載時のものです。

Credits

取材・執筆
鷲尾諒太郎
写真
佐藤翔
編集
包國文朗(CINRA, Inc.)

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