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地域コミュニティ活性化の鍵は「対話」と「適所」。取り組みに学ぶ持続可能なつながり
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「近所づき合いが減った」「住んでいる地域に知り合いがいなくて孤独を感じる」——そういう経験をした人は、少なくないでしょう。近年ではそういった地域における「つながりの希薄化」を見直し、地域コミュニティを再生させる動きが各地で起こっています。
本記事では、全国各地で地域コミュニティ活性化に向けた取り組みを実践してきた大正大学教授で東京大学名誉教授の牧野篤さんが、地域における「つながり」を再生するメリットを提示。その事例として島根県益田市の「対話+」などを紹介します。
これからの私たちになぜ、地域コミュニティが必要なのか。地域と人がめざすべき、安心できる未来のかたちを探ります。
「地域コミュニティ」の希薄化はなぜ起きる?
「地域コミュニティ」と聞いて、まず思い浮かべるものは何でしょうか。
多くの⼈たちにとっては、⾃分が住んでいる地域の「⾃治会」や「町内会」がイメージしやすいかもしれません。地域コミュニティとは、人々がそれぞれ日常生活を送っている地域での、かかわりあいや助け合いの組織・団体のことです。かつては小学校区を単位として⾃治会や町内会がつくられ、消防団、⻘年団や婦人会(女性会)などの団体が活発に活動していました。
しかし、会社員という働き方が生まれ、特に戦後の高度経済成長期に一般的になると、農村部から都市部への若者の移住が進みました。人々の生活の中心が「地域」から「職場」へと移り変わっていったのです。
また昨今の少子高齢化の進展などにより、地域の活動や人々とのつながり、地域に対する帰属意識は希薄化し、孤立してしまう人も増えてきています。
こうした現状を危惧し、地域が自分の居場所だと安心して住み続けられる持続可能な社会をつくるため、新しいかたちで地域コミュニティを再生するための動きが、近年各地ではじまっています。
地域コミュニティを活性化させるメリット
地域コミュニティを再生することには、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、3つの価値を紹介します。
1. 良好な人間関係が「健康」をつくる
近年の研究では、「良好な⼈間関係の有無」が、心身の健康状態や寿命にかかわっていることが明らかになってきました。有名なものでは、ハーバード大学が1938年に開始し、現在までで2,000人以上を追跡調査した「ハーバード成人発達研究」があります。
この研究では地域コミュニティに限らず、信頼し合える仲間が周囲にいる人のほうが孤独を感じている人よりも長生きする、「何かあったときに頼れる人がいる」と感じている人のほうが年をとっても記憶がはっきりしている、などの傾向が見られています。
この研究結果は、近年医療の現場で注⽬されている「社会的処方」とも重なります。社会的処方とは、「薬」を処方して患者を治療するのではなく、地域活動や人とのつながりを処方することで、社会的な孤立を解消し、心身の健康を取り戻そうとするアプローチです。
例えば三重県名張市では、医療を起点として福祉や介護などの専門職と、自治体やNPO、ボランティア団体などの機関が連携し、地域の孤立や孤独を予防する見守り体制の整備が行われています。
誰かとかかわり、誰かのために働きかけること。その「つながり」自体が、私たちの心と体を守るのです。
2. 多様な大人とのかかわりによって次世代が育ち、地域の活力をつくる
地域の人々とつながることは、子どもたちにとっても大きな意味を持ちます。それは、家庭以外の多様な大人と出会うきっかけになるからです。
家庭内の人間関係だけで育つと、子どもは親の価値観や経済力、家庭環境の影響を大きく受けがちです。一方、地域に開かれたつながりがあれば、子どもたちは多様な価値観や、さまざまな働き方や生き方のロールモデルに出会うことができるでしょう。
ほかにも文部科学省の研究では、幼い頃から地域などのボランティア活動へ参加していると、子どもたちの「誰かの力になりたい」という思いやりの醸成や、自己肯定感の向上につながることも明らかになっています。
こういったことは、子どもたちの自立を助け、将来の可能性を広げます。さらに地域への愛着やシビックプライドが育まれ、子どもたちが主体的に地域にかかわるようになれば、コミュニティ全体に活力が生まれるでしょう。
次世代の人々によって地域が活性化していくことは、社会全体の安定や経済的な発展を支える基盤となっていくはずです。また、大人たちも地域の子どもとかかわることで、自分が住んでいる地域に興味を持ち、関与し続けるきっかけとなるのではないでしょうか。
3. 災害時の共助につながる
地震や豪雨など、激甚災害が頻発する昨今。行政による「公助」が届くまでのあいだ、地域住民同士での「共助」は欠かせません。
その重要性を証明したのが、2014年の長野県神城断層地震における「白馬の奇跡」です。最大震度5強の激しい揺れにより、全壊家屋が多数出たにもかかわらず、死者はゼロ。これは、震災が起きてすぐに住民同士が声をかけ合い安否確認し、救助し合った結果だと報道されました。
なぜ、地域の人々で迅速な対応ができたのか。その背景にあるのは、日頃の公民館などでの活動を通じて、地域にどんな人がいるのか把握し合う、何かあれば声をかけ合う習慣が根づいていたことです。優先的に救助すべき人がどこに住んでいるのかなども日々のコミュニケーションを通して知っていたことで、被害を最小限に抑えられたのでしょう。
また、長野県では災害対策として、各地域で「災害時住民支え合いマップ」を作成しています。普段から住んでいる地域の人々と声をかけ合える関係性をつくり、いざというときの対策をとっておくことで、災害時の共助につながるのです。
地域コミュニティ活性化の取り組み事例|島根県益田市「対話+」
こうした「つながり」の価値が見直され、各地ではじまっている試みの例として、私がセミナー講師やアドバイザーとしてかかわっている島根県益⽥市の事例を紹介しましょう。
益⽥市では、地域の大人と子どもの対話事業「対話+(たいわプラス、旧称・益⽥版カタリ場)」を10年以上にわたり続けています。この事例は、私の専門分野でもある「教育」を起点に地域コミュニティの再生を図った好例です。
一方的な「教育」で、子どもに孤独を感じさせていた?
ほかの地域同様、若者を中心とした人口流出が課題となっていた益田市。以前は、⼦どもたちに対して地元の歴史・文化や魅力を伝える「ふるさと教育」や、地元で働いている大人が講演したり、子どもたちに職業体験をさせたりする「キャリア教育」など、さまざまな施策を⾏っていました。しかし、「益⽥には何もない」「益⽥の大人には魅⼒がない」といい地元を離れてしまう状況が続いていたのです。
その様子を見て、大人たちはある仮説にたどり着きました。よかれと思って教育をしようとするあまり、一方的に伝えるだけになってしまい、⼦どもたちに「ふるさとから⼤事にされていない」「能動的にかかわれる⾃分の居場所がない」と感じさせてしまっているのではないか、と。
こうした仮説に基づきスタートした「対話+」とは、地域の大人と子どもが、1対1で自分自身のことを語り合うプログラムです。親や先生による「指導」ではなく、かといって友人同士の気楽なおしゃべりでもない。縦でも横でもなく友だちの親御さんや地域の高校生など、「ナナメの関係」にある人々と対話をする点が特徴です。一方的な講演ではなく、ともに地域で生活している大人と子どもが、これまでの人生を失敗談も含めて等身大で語り合います。
「対話+」は、大人が自らの「⽣きざま」を⼦どもたちに語り、また子どもたちからも話を聞くことで「君たちと真正⾯から向き合っているよ」というメッセージを伝える場なのです。また、大人自身が子どもたちとの対話から気づきを得られるという点でも、地域にポジティブな循環を生み出しうるものです。
対話を続けて約10年。その成果は?
地道な対話を続けた結果、益田市は現在では、市民の4人に1人にあたる1万人以上が対話を経験した「対話の街」となりました。
「⼩中⾼⽣ライフキャリア教育推進事業 益⽥版カタリ場 令和5年度 総合報告書」によると、子どもたちの意識も変化しています。
将来に対する意識に関するアンケートへの回答の変化(出典:「⼩中⾼⽣ライフキャリア教育推進事業 益⽥版カタリ場 令和5年度 総合報告書」)
「増田には魅力的な大人が多い?」というアンケートへの回答の変化(出典:「⼩中⾼⽣ライフキャリア教育推進事業 益⽥版カタリ場 令和5年度 総合報告書」)
さらに、⾼校卒業後に地元を離れた若者たちの7割が、「将来的には帰ってきたい」と回答する結果に。一人ひとりのなかに「ふるさと」が⽣まれ、自分の故郷を誇りに思うシビックプライドが醸成されてきたのかもしれません。
「ふるさと」とは、人と人との「つながり」や「かかわり」であり、そこに生まれる信頼感、そして自己肯定感が育まれる場所です。「対話+」の取り組みによって生まれた、地域の人々のつながりは、子どもたちだけでなく大人の心にも「ふるさと」を生み出しました。
さらに現在は、地区の公民館とも連携し、「対話+」で生まれたつながりが持続できるようなコミュニティづくりにも力を入れています。
地域コミュニティ活性化へ向けたほかの取り組み事例
地域コミュニティ活性化に成功している事例は、「対話+」以外にもあります。それらに共通しているのは、単に人を集めるだけでなく、住民同士が認め合い、「自分はこの地域社会を構成する大切な一人(当事者)なんだ」という実感を生み出している点だと考えています。
ほか、私がかかわった事例のうち、ユニークなアプローチで「自分の居場所」を生み出している取り組みを2件紹介します。
世田谷区「岡さんのいえ TOMO」|空き家を開放し、誰もが立ち寄れる地域の茶の間をつくる
2007年から続く、築60年以上の木造一軒家を活用した地域のコミュニティ拠点です。かつての家主である岡さんの、「私が亡くなったあと、この家を地域のために使ってほしい」という想いからはじまりました。
「みんなのまちのお茶の間をつくる」をコンセプトに、さまざまな世代がふらりと立ち寄れる「居場所」として開放されています。特定の目的がなくても立ち寄れるため、学校帰りの子どもから子育て中の親、お年寄りまで、既存の施設や制度の枠組みを超えて、多様な人々が自然に混ざり合う交流の場となっています。
「岡さんのいえ TOMO」での出来事として、私が知っている、あるおばあちゃんの例をお話しします。深い孤独を抱えた人で、幾度も死を考えたといいますが、ふとした縁で「岡さんのいえ TOMO」のドアを開け、子どもたちと触れ合いはじめました。すると、通うごとに元気が出てきて、いまでは笑顔で地域活動に参加し、若い母親や子どもたちの世話を焼くようになっています。そして、こう言うのです。「生まれ変わった気がする。もっと長生きしていたい」と。
この話は、さまざまな研究で明らかになってきた「良好な人間関係の有無が、私たちの心身の健康に深くかかわっている」ことを表していると思います。私たちは、「かかわり」のなかで生きているのです。
「岡さんのいえ TOMO」で集まっている人々の様子(画像提供:岡さんのいえ TOMO)
那覇市「パーラー公民館」|公民館が屋台になって地域に出ていく
「パーラー公民館」は、沖縄県那覇市で誕生した、ユニークな「移動式屋台型公民館」です。
沖縄にはもともと、地域の人々が軽食を食べながらおしゃべりする「パーラー(簡易店舗)」という文化があります。そのスタイルを取り入れ、パラソルと黒板付きのワゴンやテーブル、いくつかの椅子を公園に広げることで、いつもの場所を即席の「公民館(つどいの場)」に変える試みです。
「パーラー公民館」の様子(画像提供:那覇市曙小学校区まちづくり協議会)
建物で待つのではなく、「公民館のほうから地域に出向く」というスタイルを取る。しかも、あえて公民館のスタッフは主導しすぎない、「なにもしない」というスタンス。この実践が、住民の主体性を引き出す手法として高く評価されました。
そして、2017年には地域住民の学習活動や地域課題の解決に大きく貢献した公民館として、文科省が主催する「優良公民館表彰」の最優秀館に選ばれました。
2017年から3年間、若狭公民館が運営したあと、那覇市曙小学校区まちづくり協議会が引き継ぎ、現在は月1回の開催。毎年、地域防災の取り組みとして「防災キャンプ」実施や、ゲーム感覚で防災知識を学べる「リッカ ヤールキャラバン」を行っています。
人々の個性と好奇心が、地域コミュニティの未来をつくる
現代の社会は、⼈々の価値観が多様化・多元化しています。似た価値観を持つ人を見つけることが難しくなり、ともすれば孤立しやすい社会です。そして、多様化したすべてのニーズに行政がサービスとして対応するには限界があります。
では、そんな現代社会の理想の姿とはどのようなものなのでしょうか? 社会全体とそれを構成する私たちを、ジグソーパズルとそのピースにたとえてみるとわかりやすいかもしれません。
⼀⼈ひとりは異なるけれど、自分を活かせる「居場所」があり、それぞれが適所で⼒を発揮することで美しい図柄が完成する。⼀⼈ひとりが異なるからこそ、互いに支え合い、能力を引き出し合い、より豊かで楽しいコミュニティのあり方を志向できる。完成したサービスの提供を「待つ」のではなく、住民自身が協力し合って「つくる」側になる——そういった社会が、現代における理想的なかたちなのではないでしょうか。
ただ、普通のパズルと違うのは、「一度完成して終わり」ではないこと。私たち人間は変化し続ける生き物だからです。
好奇心によって突き動かされ続け、他者とかかわり合う。それにより得られた成果を受けて、次なる好奇心・活動へと展開していく——一人ひとりが輝ける「適所」を何度でも見つけられ、「自分はここにいていいんだ」と安心できる社会。そんな社会こそ、私たちはめざすべきなのではないでしょうか。
この記事の内容は2025年3月17日掲載時のものです。
Credits
- 執筆
- 牧野篤
- 編集
- 牧之瀬裕加、森谷美穂(CINRA, Inc.)