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これからの横浜をデザインせよ!若者が提言する「未来のまちづくり」とは?
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広大な市域に人口約377万人(*1)の市民が暮らす横浜市。市としては日本最多の人口数を誇り、海と丘が織りなす変化に富んだ景色、江戸時代の開港からはじまるユニークな歴史など、多彩な魅力を持っています。
そんな横浜が、これからも「選ばれ続ける街」になるために、そして「誰にとっても暮らしやすい街」であり続けるためには、どんな要素が必要なのでしょうか。
今回は、横浜のスマートシティについて考えるワークショップに参加した学生たちと、実際に横浜のまちづくりなどを担う関係者による座談会を実施。
横浜の未来について高い関心を持つ学生たちの意見やアイデアをもとに、これからの横浜のまちづくりについて考えます。
坂が多い街、横浜。「移動」課題にどう向き合う?

左から、神奈川大学の伊藤さん、横浜国立大学の藤原さん、慶應義塾大学大学院の市川さん
―まずは「現在の横浜」について、学生のみなさんのご意見をお聞きしたいです。魅力と課題、両面から印象を教えてもらえますか?
市川:横浜の強みは観光地としての魅力に加え、「住みやすさ」を兼ね備えている点だと思います。2023年に相鉄・東急の直通線が開業したこともあり、ますます利便性が高まっている印象です。
とはいえ、横浜といっても広いので、利便性が高い地域ばかりではありません。たとえば、高度経済成長期に多くのマンションが建ったエリアでは、建物の老朽化や住人の高齢化など、さまざまな課題があります。ドラスティックに変えることは難しいと思いますが、それこそ新しいまちづくりが必要な時期がきているのかなと思いますね。

藤原:私は秋田県出身で、大学進学を機に横浜へ引越してきました。地元にいた頃は、横浜といえば「みなとみらい」のイメージが強かったです。海沿いの、都会的な街という印象ですね。でも、実際に来てみたら海だけではなくて、木々が森のように生い茂る場所もあったりと、いろんな景色が楽しめる街なんだなと。
あとは、今回のワークショップで知ったのですが、横浜市は音楽に力を入れていて、音楽ホールも多いですしコンサートもよく開催されています。ひとつの言葉では表しきれない、多様な魅力を持っている街だと思います。

横浜国立大学の藤原さん
藤原:その一方で、横浜市のインフラでいうと坂や階段が多く、移動が大変な地域もあると感じます。私の自宅も最寄りのバス停から長い階段を上った場所にあって、車椅子の祖母に遊びに来てもらいたくてもなかなか難しくて。
今後さらに高齢者が増えていくことを考えると、バスが通れるように道を広くしたり、何らかの移動手段を用意したりする必要はあるんじゃないかなと思います。
―こうした課題に対して、横浜市側としての見解はいかがでしょうか。
横浜未来機構 亀若:ご指摘いただいた坂の多さについては、「多様な景色を楽しめる」という意味では横浜の魅力でもあると思います。
ただ、藤原さんが言うように、生活圏の方々にとっては移動の不便さが生じてしまっている。距離でいえば2〜3kmの徒歩圏内でも、場所によっては丘を3つくらい超えないと目的地までたどり着けないこともあります。
もちろん市側でも、公共交通機関の終着点からお住まいの地域までの「ラストワンマイル」をどう解決するかについては大きな課題ととらえていて、各地域の取り組みなども参考にしながら施策を検討しています。

横浜未来機構 亀若:たとえば、地域によっては、短い区間だけを走る送迎タクシーやバスを運用するなど、移動課題に対する試行錯誤も見られます。
現時点ではコミュニティ単位の取り組みにとどまってしまっているのですが、他地域にもうまく応用できないかと考えています。

横浜未来機構 亀若さん
横浜市 榛澤:都市整備局としても、市内18区の各地域の取り組みを発信し、移動課題を抱える地域の参考にしてもらうというのも、ひとつの手だと思います。ただ、難しいのは、地域によって同じやり方がフィットしないこともある点です。
地域ごとに地形や住環境、住民構成も異なるため、画一的な施策ではうまくいかないケースも出てくるでしょう。横浜は市域が広く住民の数も多いので、同じ移動課題を抱える地域同士でうまく情報交換をしたり、連携したりできる仕組みをつくりつつ、地域特性を活かしたやり方を講じていくことが大事だと考えています。

横浜市 榛澤さん
技術ありきではなく、課題を起点にスマートシティを考える
こうした横浜の課題を解決していくためには、まちづくりやスマートシティの推進がカギとなります。それらの視点や考えを養うべく、学生3人は、2024年末に開催された産学官連携のワークショップ『これからの「スマートシティ横浜」とは!?』に参加し、横浜の未来についての学びを深めてきました。

NTT東日本のNTTe-City Laboで実施されたワークショップの様子

グループワークで学生たちが話し合う様子
【「スマートシティ」とは?】
テクノロジーを用いた先端技術によって、さまざまな課題を解決したり、経済を活性化させたりすることで、人々の生活がより快適になる街のこと
【ワークショップ『これからの「スマートシティ横浜」とは!?』の概要】
横浜未来機構と横浜市が主催した、学生向けワークショップ。全5回にわたって開催され、横浜市内にキャンパスがある大学に通う約30名の学生が国内外の最新のスマートシティ動向を学びました。2025年1月には、YOXO Festivalでの成果発表&パネルディスカッションを実施。学生たちがこれからのスマートシティについて主体的に考え、実践的に学ぶ場となりました。
ここからは、ワークショップを経て、横浜市やスマートシティの知見を広めた学生たちの意見やアイデアをもとに、これからの横浜のまちづくりについて考えていきます。
―今回のワークショップでの経験を経て、学生から見た「スマートシティ」や「まちづくり」に対するイメージや考えを教えてください。
市川:私は大学院に通いながら、普段は製造業界のコンサルタント会社で働いていることもあり、スマートシティに対しては、モノと最新テクノロジーの融合……それこそ「空飛ぶクルマ」が飛び交うような世界をイメージしていました。
ただ、ワークショップの講座のなかで相鉄グループさんが「鉄道を高架化し、空きスペースに人を集めるプロジェクト」について紹介されていたのが印象的で、自分のなかでスマートシティの解釈が広がったというか、とらえ方が大きく変わりましたね。

伊藤:私はワークショップを通じて、自分が想像していた以上にデジタルやIoTなどの技術研究、それをまちづくりに活かす取り組みが各地で進んでいることがわかりました。
ただ、同時に思ったのは、技術ありきでスマートシティやまちづくりを語ってしまうと、その地域に暮らす人たちが本当に求めていることと、ズレが生じかねないということです。
技術はあくまで手段であって、まずは「地域の人たちがどんな思いで暮らし、何を求めているのか」「この街で何を実現していきたいのか」をふまえたうえで、必要な技術を取捨選択する。それが、そもそものスマートシティのあり方なのかなと感じました。
藤原:私も伊藤さんと同じく、技術やデータを活用することが目的化したスマートシティは、失敗してしまっているケースが少なくないのかなと思います。
「地域ごとの課題を解決して、多くの人が住みやすい街にする」という本質や前提を忘れてはいけないと、今回のワークショップを通じてあらためて感じました。

NTT東日本のNTTe-City Laboで実施されたワークショップの様子
―佐藤さんは、国際共創コンサルタントとして、国内外のスマートシティの事例も数多くご覧になっていると思います。いまの話を聞いたうえで、日本のスマートシティの現状をどうとらえていますか?
ビズテック 佐藤:世界の事例と比較してしまうと、日本の取り組みに対しては若干のモヤモヤ感があります。学生のみなさんも話してくれましたが、それこそ「デジタル」や「テクノロジー」が先行しているケースが多いのではないかと。
たとえば、フィンランドのまちづくりでは、まずは「サステナブルな地域社会を実現する」という前提があって、その手段としてスマートシティ的な発想が出てくる。そこが、大きな違いなのかなと感じます。DXやデジタルを切り口にするのも悪いことではありませんが、それだけでは視野が狭まってしまう。

ビズテック 佐藤さん
ビズテック 佐藤:今回のワークショップの目的のひとつでもありますが、先入観を持たない学生さんのアイデアに触れることで、横浜市としても新しいまちづくりのあり方が見えてくるのではないかと考えました。
実際、ワークショップの最終発表では、どのチームも日本的なスマートシティのイメージに縛られないアイデアを出してくれて、私たちにとっても多くの気づきがありましたね。
国際的なイベントが多い横浜。一方、周知の面では課題も
―学生のみなさんにとっては、今回のワークショップが「まちづくり」について考えるきっかけにもなったと思います。横浜の街の魅力をさらに高める、みなさんのアイデアを教えてください。
伊藤:住民と行政が、もっと気軽にコミュニケーションを取れるといいなと思います。「陳情」といった大げさなものではなく、生活のちょっとした困りごとや意見が横浜市に届き、施策に反映されるような仕組みがあるといいですよね。

神奈川大学の伊藤さん
伊藤:いまも横浜市のWebサイト内のリクエストフォームや、公式アプリなどで意見を伝えることはできますが、市民に十分に活用されていない側面もあるのかなと。
また、住民目線の多様な意見を集めるためには、そのプラットフォーム自体に「使いたくなるような仕掛け」が必要だと思います。
たとえば、いまある横浜市公式の街情報アプリにIC機能を設けるなどして利便性を持たせ、日常的に使ってもらえるようにしたり。プラットフォームにユーザーが増えていけば、住民と行政のコミュニケーションもより活発になっていくのではないかと思います。

横浜みなとみらいのジオラマ
―学生でもあり社会人としても働く市川さんは、いかがですか? 横浜市のまちづくりについて意見やアイデアを教えてください。
市川:私は製造業界と関わりの深い仕事をしているので、横浜から日本の「ものづくり」をもっとアピールしてほしいと思っています。横浜は自動車メーカーをはじめ国内を代表する企業の本社や工場が多くありますよね。そうした地域資源をもっと活用してほしいです。
たとえば、工場見学などをとおして、学生や家族連れ、特に小さい子どもたちが製造業に興味を持つきっかけをつくれたら、それが横浜だけでなく10年後、20年後の日本にとっても大きなプラスになるのではないかと思います。
横浜市 橋岡:それはとても重要な観点だと思います。実際、横浜市内で最も人口が多い港北区は、製造業の事業所数も18区で最多(*2)で、ものづくりが身近にある地域です。そうした特性を活かすために、港北区では『港北オープンファクトリー』というイベントを開催しています。

2025年に開催された第13回港北オープンファクトリーのチラシ

第13回港北オープンファクトリーで工場見学をする様子①

第13回港北オープンファクトリーで工場見学をする様子②
【港北オープンファクトリーの概要】
港北区と地域の製造業事業者が連携し、2013年から開催されている取り組み。工場見学や体験をとおして、ものづくりの面白さを伝えるイベントで、多くの家族連れが訪れている。
横浜市 橋岡:ただ、今後は家族連れだけでなく、みなさんのような学生にも、もっと参加いただきたいと感じています。企業としても、こうしたイベントは日本の技術力やつくり手の思いを直接伝えられる貴重な機会だと考えています。
藤原:製造業に関心を持っている学生にとって、実際に現場を見られる機会は貴重なので、参加したいと思う人は多いはずです。ですから、そういう場があることを積極的に伝えたり、学生と企業がうまくマッチングできたりする仕組みがあるといいのかもしれません。

―横浜には国際的な催しや大規模イベントも多く開かれているかと思います。ただ、せっかくのそうした場も、知られていなければ意味がないですよね。
ビズテック 佐藤:私もそう思います。ものづくりの関連でいうと、港北オープンファクトリーに加えて、『テクニカルショウヨコハマ』という工業技術見本市が毎年開催されているのですが、学生さんたちはご存じですか?
市川・藤原・伊藤:……。
ビズテック 佐藤:知らないですよね……。でも、『テクニカルショウヨコハマ』はなかなかすごいイベントなんです。

『テクニカルショウヨコハマ2023』の様子(画像提供:神奈川産業振興センター)
【テクニカルショウヨコハマの概要】
パシフィコ横浜の3つの展示ホールに800を超える企業や団体が出展するイベント。実際に機会が動くところや革新的な製品が紹介されていて、ものづくりの世界を広く俯瞰できる。
ビズテック 佐藤:これだけ大規模なものづくりの展示イベントは全国を見てもなかなかないと思います。ただ、会場で学生さんや若い人の姿はほとんど見かけないのが現状で、本当にもったいないことだと感じます。
横浜市は都市としてのスケールが大きく情報が豊富なぶん、せっかくのよい取り組みが埋もれてしまうんですよね。なかなか情報が届きにくい部分は、もう少し改善できないものかと思索しています。学生さんの視点は私たちも気づかされることが多く、よいヒントをいただいています。
学生たちが想像する、未来の横浜とまちづくり
―横浜市の現状や課題、まちづくりのアイデアなど、学生さんたちからもさまざまな意見が出ました。これらをふまえて、今後の横浜の展望や、まちづくりへの想いをお聞かせください。
横浜市 橋岡:横浜市の総人口は約377万人(*1)であり、18の区それぞれがひとつの自治体に相当する規模を持っています。そのぶん、まちづくりの施策も区ごとに特徴があり、それが横浜の良さでもあると考えています。
横浜市として画一的なやり方を考えるのではなく、それぞれの地域の特性をふまえた取り組みを強化して、多様性のある街をつくっていきたいですし、それが本来のスマートシティの考え方なのかなと思います。
冒頭で学生のみなさんがおっしゃったように、「それぞれの地域の人たちが、何を必要としているか」を常に念頭に置きながら、まちづくりの仕事に従事しなければならないと、あらためて感じました。

横浜未来機構 亀若:横浜に住む人、働いている人、大学に通う人など、みなさん横浜に対してプライドを持ち、街を愛している人が非常に多いと感じています。
今日ご参加いただいた学生のみなさんもそうですが、「地域に貢献したい」と言ってくれる方もたくさんいらっしゃいます。こうした想いこそが横浜の大きな強みです。
この強みをまちづくりに活かすためには、行政側もそうした想いや取り組みをしっかりと受け止め、後押しすることが大事です。地域の方々のお力をお借りしながら、より住みやすく、働きやすい街を一緒につくっていきたいと思います。

横浜市の榛澤さん(左)と横浜市の橋岡さん(右)
―それでは、最後に学生のみなさんにお聞きします。みなさんのような若い世代に、今後も横浜が選ばれ続けるためには、どんな要素や考え方が必要だと思いますか?
市川:みなとみらいや横浜駅の周辺などは活気にあふれていますが、やはり中心部から離れた地域をどう盛り上げていくかがポイントだと思います。それこそ、先ほどの話にあった「ラストワンマイル」の課題さえ解決できれば、若い人ももっと横浜に住みたいと思うのではないでしょうか。
むしろ、コロナ禍以降は都会ど真ん中よりも、落ち着いた住環境を望む人も増えていると感じますので、そうした地域に移動手段を含む利便性も確保することが重要なのかなと思います。

藤原:横浜駅周辺やみなとみらいには、遊び、食、買い物と、本当に何でもそろっています。でも私は逆に、そうした中心部にこそ、突然ぽっかりと現れる公園など「なにもない場所」がもっと必要なのかなと感じます。現状、休日はどのカフェも満席ですし、山下公園に行っても人がたくさんいて、なかなかくつろげないという人も多いと思うので。
商業的なにぎわいや利便性ばかりを追求するのではなく、そこに暮らす人が日常のなかで、ふと心の平穏を取り戻せるような場所も確保してあげること。末長く愛される街になっていくためには、そうした視点も必要なのかなと思います。
伊藤:私も市川さんや藤原さんが言うように、みなとみらいや横浜駅周辺は、休日にいつも混雑している点が気になっていました。それは逆に言うと、自分が住む地域の近くに余暇を過ごしたくなるようなスポットやイベントが不足している、あるいは知られていないからではないかと思います。
中心部だけでなく郊外でも楽しめる環境が充実し、コミュニティ単位でコンパクトシティがたくさん生まれていくようなまちづくりができると、横浜市全体の魅力がさらに増していくんじゃないでしょうか。
都会的なイメージと温かさ、2つの側面を持っているのが横浜の魅力だと思うので、そこはぜひ失われずにいてほしいです。

*1 横浜市「推計人口・世帯数【最新】」より(2025年5月1日現在)
*2 横浜市港北区「『港北オープンファクトリー』について」より
この記事の内容は2025年5月29日の掲載時のものです。
Credits
- 取材・執筆
- 榎並紀行
- 撮影
- 上村窓
- 編集
- 牧之瀬裕加(CINRA,Inc.)