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IOWN構想って、いったいなに?より便利な社会をめざす3つの技術分野【前編】
ICTの急速な発展を受け、私たちはいつでも、どこでも情報を受け取り、より便利で快適な生活を送れるようになりました。しかし一方で、ICTの発展により数えきれない量のデータを生み出しており、膨大な電力消費がかかると見込まれています。このまま進むと、エネルギー需給に起因する地球環境の悪化が予想されており、持続可能性の危機にも直面している状況なのです。
今後もさらなる経済成長を遂げて人々の生活をより良くするには、エネルギー消費をおさえつつ、持続可能な社会を実現する仕組みが必要になってきています。
このような世界的な課題に対して、NTTグループでは、多くのパートナーの方々とともに革新的な光通信の技術を用いた新しいICT基盤の構想「IOWN(アイオン)構想」を掲げ、解決をめざしています。
とはいえ、「そもそもIOWN構想って、いったいなに?」と思われる方も多いのではないでしょうか。そこで、NTTグループが総力をあげて研究・開発に取組んでいるIOWN構想について、前編と後編に分けてわかりやすく解説します。今回の前編では、NTT東日本でIOWN構想の事業を牽引している瀧野祐太が解説します。
IOWN構想で、現状におけるネットワークの課題を解決する
─日々の生活で私たちはネットワークを使っていますが、通信速度も十分速く、現状のままでも問題ないと思えます。このまま使い続けることで何が問題になるのでしょうか?
瀧野:動画コンテンツ配信に代表される大容量通信の高まりと、IoT(Internet of Things)の広がりやサービスの多様化を受け、インターネットの通信量はここ十数年で増大してきています。それにともなって、消費電力も増加し続けています。
また、今後ますますデータ量の増加が見込まれるなかで、それら通信を支える情報処理基盤の性能向上が、半導体技術の進歩における物理的な限界から、頭打ちとなってきているのです。
これら「増加する通信量への対応」「消費電力の抑制、削減」「情報処理能力の拡大」などが、現状のネットワークの課題です。
─このまま何も対応しなければ、近い将来、ネットワークは通信量、電力消費量、情報処理能力など、あらゆる課題が原因となってパンクするということですか?
瀧野:現状のネットワークで捌くためには、多くのネットワーク機器を設置しなければいけなくなるので、消費電力がより大きくなってしまうでしょう。さらに、機器を設置する場所の問題もあります。
IOWN構想では、新技術を用いて通信機器の増設を抑え、低消費電力で省エネにつながる、より環境に配慮した通信環境を提供することを計画しています。
そもそもIOWN構想とは?2030年の実現をめざして研究・開発に取組む
―そもそも、IOWN構想とはどういった計画なのでしょうか?
瀧野:NTTグループがパートナーのみなさまとともに、2030年頃の実現をめざして研究・開発を進めている「次世代のネットワーク基盤」・「次世代の通信・コンピューティング融合インフラ」の構想で、「Innovative Optical and Wireless Network」の単語の頭文字を取って「IOWN」と呼んでいます。日本語にすると「革新的な・光と・無線の・ネットワーク」となり、これにより、前述の社会課題の解決をめざしています。
─端的にいうと、ネットワークのどこからどこまでを指しているものですか?
瀧野:IOWN構想は、お客さまの拠点と別の拠点を結ぶネットワークの範囲だけではなく、その先のコンピューティングの部分までを含んでいます。 端的にいえば、「革新的なネットワークを使って、拠点間のサーバ同士の連携もスムーズに行える基盤をつくること」が、IOWN構想です。
─現在のネットワークにも、同じような役割をしている部分はあるのですか?
瀧野:NTT東日本が提供しているフレッツ光や、主に法人のお客さまに提供している専用線のようなネットワークの部分と、データセンターやクラウドなどのサービスの部分を組み合わせたものと考えていただければよいかと思います。
─IOWNの名称のなかに「光(オプティカル)」と「無線(ワイヤレス)」とありますが、それぞれを活用するネットワークということですか?
瀧野:はい、そのとおりです。IOWN構想ではこの「光(オプティカル)」の部分が最も重要で、光回線と電気回路を融合させ、光技術による高速な伝送と電子技術による信号処理を組み合わせる「光電融合」という技術を使っています。この技術によって、格段に低消費電力での信号処理が可能となるのです。
もう一方の「無線(ワイヤレス)」の部分については、IOWN構想のネットワークが次世代の無線通信ネットワーク「6G」の基盤となることを期待されているので、「無線」という言葉を使用しています。
具体的には、IOWN構想による光通信で無線の基地局間を結び、無線の基地局から先の部分については現状の5Gや将来的な「6G」を用いる、といったイメージです。そしてユーザの端末に近いところまでこの技術を普及させていき、みなさまに高速・低遅延な通信環境を提供することを考えています。
IOWN構想には欠かせない、3つの主要な技術分野
─「次世代の通信ネットワーク基盤」とのことですが、既存のものからガラッと変わるのでしょうか?
瀧野:既存のケーブルなども使えるものは使えますし、変えていくものは変えていきます。
IOWN構想を構成する主要な技術分野は、大きく3つあります。1つ目が「通信」の部分である「オールフォトニクス・ネットワーク」で、私たちはAPNと呼んでいます。
2つ目が「コンピューティング」の部分である「デジタルツインコンピューティング(DTC)」で、これは実世界とデジタル世界のかけ合わせによる、未来予測や最適化を実現するものとなります。
そして3つ目が、IOWN構想につながるICTリソースをより効率的に制御していく「コグニティブ・ファウンデーション(CF)」です。
NTTグループをはじめ多くのパートナーのみなさまとともに実現をめざしているIOWN構想では、この3つの革新的な技術を使って、より便利な社会づくりを計画しています。
目的地まで全て光で通信する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」
─IOWN構想を構成する3つの技術分野について、もう少し教えてください。まずは1つ目の「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」からお願いします。
瀧野:「オールフォトニクス・ネットワーク(以下、APN)」は、拠点と拠点を全て光(フォトニクス)で通信していくものです。
─現在の光通信とは違うのですか?
瀧野:現在もフレッツ光などのサービスを提供していますが、それとは少し異なる部分があります。
具体的には、現在のサービスは、お客さまの拠点の端末、たとえば、パソコンやスマートフォンなどの端末側の電気の信号を一度、光の信号に変えてNTT東日本の通信局舎まで光ケーブルで運んできています。
この部分で光が使われているので光通信といわれていますが、じつは通信を中継する通信局舎のなかでは電気信号が使われている部分も多いんです。
これがAPNの世界では、エンドトゥーエンド、つまり、お客さまの端末から別のお客さまの端末、目的地までをすべて光で通信していきます。ここが新しいポイントです。
現実世界の情報をコピー?「デジタルツインコンピューティング(DTC)」
─では、2つ目の「デジタルツインコンピューティング(以下、DTC)」は、どういったものなのでしょうか?
瀧野:DTCとは、現実世界と仮想世界を組み合わせて、より良い未来を実現していく技術です。
具体的には、現実世界の情報をデジタル世界にコピーしてつくりあげます。そのコピーした世界のなかで、さまざまなデータをもとにしながら、現実世界では実現できないような将来を予測した計算をします。その結果を現実世界に反映することで、今後の未来をより良い世界に導いていく。そういった技術がDTCです。
─「デジタル世界にコピー」と表現されていましたが、具体的なイメージを教えてください。
瀧野:医療を例にお話しすると、自分の体にたくさんのセンサーをつけ、収集した生体情報をもとにして、自分の生体データを持った「もう一人の自分」を仮想空間上につくりあげていくイメージです。
そして、仮想空間の「もう一人の自分」にさまざまな条件を当てはめます。たとえば、どういった生活を続けていけば健康を保てるのか、いまの生活習慣ではたして10年後も健康なのか、それとも病気になるのか。さまざまなシミュレーションを行い、その結果を現実世界へフィードバックすることで、対策を行うことが可能となるのです。
─医療以外の分野にも使えそうですね。
瀧野:そのとおりです。たとえば、河川の氾濫の情報など災害対策にも使うことができます。ほかには自動運転や渋滞の予測などとも組み合わせながら、よりみなさんが生活しやすくなるような交通環境をつくっていく「交通整流化」にも使えるのではないかと期待しています。
接続したものを簡単・快適に利用できる「コグニティブ・ファウンデーション(CF)」
─では、3つ目の「コグニティブ・ファウンデーション(以下、CF)」について、教えてください。
瀧野:CFについては、IOWNの推進・普及にあわせて具体化していくものですが、CFをつくりあげる構成要素はたくさんあります。先ほど説明したAPNを進めていくうえでのパーツとパーツをつなぐ部分や、DTCを実現するためのコンピューター同士を連携する部分など、自動連携や最適なリソース配分を行う部分で活用が期待されています。
たとえば、1台のコンピューターで処理を行うとすごく時間がかかる作業があったときに、空きのコンピューターを探してきて2台で作業すれば、作業時間は半分になるでしょう。このコンピューターの空きを探してきて適切に作業をさせる、といった最適な状態を自動でつくる場面などで、CFの活用が期待されています。
─私たちの実生活では、どのような場面で役立つのでしょうか?
瀧野:CFについては、まずネットワークを運用する通信事業者側のメリットとして期待されています。CFが導入されれば、人で行われていたオペレーションがすべて自動でできるようになります。
たとえば、現在はオペレーターが常時監視し、異常がないかを確認しているネットワーク運用の現場にCFが導入されるとします。そうなると監視を自動化することができ、より効率的な運用を行うことが可能です。われわれ通信事業者側の運用がスムーズになることで、これまで以上に安定したサービス提供につなげることができる、このような点がメリットになると考えています。
3つの技術が連動することで、IOWN構想の実現へ
─IOWN構想は、APNとDTCとCF、それぞれが連動するようなイメージでしょうか?
瀧野:CFが、DTCとAPNをうまく結びつけてくれる、接着剤のような役割だと認識いただければと思います。
─どれか1つでも欠けると、最大限の機能、能力を発揮できないのですか?
瀧野:APNを通じて、大容量、低遅延、低消費電力な通信を実現し、その通信環境によってDTCによるコンピューティングを行います。さらにその制御をCFが担うことで最大限活かしていくことができると思っています。
ですので、どれが欠けても、このIOWN構想の実現は成し得ないと考えています。
─IOWN構想は「APN」「DTC」「CF」の3つの大きな柱で構成されているということがわかりました。この3つのうち、NTT東日本で、特に力を入れている技術はありますか?
瀧野:IOWN構想の実現に向けた最新の商用サービス「All-Photonics Connect」(2024年12月より提供開始)で活用しているAPNの部分にNTT東日本の強みが活かせると考えています。
APNは、現在の光通信をより高度化していく、より発展させていくものと考えていただければと思います。「APN」に関しては、後編でより詳しく説明してきたいと思います。
今回の前編では、次世代の通信ネットワーク基盤として、NTTグループが多くのパートナーのみなさまとともに研究・開発を進めているIOWN構想の概要について説明しました。後編では、IOWN構想の主要技術分野の1つであるAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)をさらに深堀りします。IOWN構想のなかで、どのような役割を果たすものなのか? 次回も、IOWN推進室の瀧野がわかりやすく解説していきます。お楽しみに。
この記事は2023年4月25日にNTT東日本グループの社内報にて取材・制作した記事を、本メディア用に再構成し、掲載しております。
Credits
- 取材・執筆
- クロスコ株式会社
- 撮影
- クロスコ株式会社
- 編集
- 篠崎奈津子(CINRA, Inc.)