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企業テーマソング『めぐれ』に込めた想い。歌手・葉音が菅野よう子に共鳴した「循環」

  • 循環型社会

「地域循環型社会の共創」をパーパスとするNTT東日本グループ。その企業テーマソングとして、楽曲『めぐれ』が2023年4月にリリースされました。2024年3月には、プロモーションビデオが公開されたほか、NTT東日本グループのラジオCMやWeb動画、関連イベントでの活用などを通して、楽曲が起用される機会も増えています。

本作の作曲を担当したのは、さまざまなアーティストに楽曲を提供し、アニメ、ゲーム、CM、ドラマ、映画などでも数々の名曲を残してきた菅野よう子さん。作詞はコピーライターや脚本家としても活躍されている麻生哲朗さん。そしてボーカルは、アコースティック・セッションユニット「ぷらそにか大阪」のメンバーでもあり、いま注目のシンガーソングライター・葉音(はおと)さんが務めました。

今回は葉音さんをお招きし、インタビューを実施。面識のなかった菅野さんから突然、直々にオファーが届いたとき、葉音さんはどう思ったのでしょうか? 『めぐれ』に込めた想いや菅野さんとの制作秘話、さらには葉音さんの普段の活動などを語ってもらいました。

楽曲『めぐれ』から感じるのは「自然」と「命」の循環

―楽曲『めぐれ』は、さまざまな地域の課題解決や新たな価値創造の実現によって、夢や希望が持続的に感じられる「循環型社会の共創」をめざすNTT東日本グループの企業テーマソングとしてリリースされました。葉音さんのみずみずしく伸びやかな歌声と、ドラマチックに展開される曲調が印象的で素敵でした。

葉音:嬉しいです! ありがとうございます。

葉音さんが歌う『めぐれ』のフルバージョンMV

―葉音さん自身がこの楽曲のなかで特に気に入っているポイントはありますか?

葉音:最初に楽曲のデモをぱっと聴いた印象としては、大自然に対峙したときのような壮大さを感じたのですが、聴き込むほどに日常と結びついていくというか、身近に感じられるところが印象的だなと思いました。

そして、歌詞の言葉がとてもきれいで。日本語特有の表現や音の響きがメロディーとマッチしていて、歌っていて気持ちがよかったです。特に中盤からサビにかけての、水中から地面へ、そして空中へと清々しく開けていくような展開が気に入っています。

―メロディーと歌詞から「自然」の循環を感じたのですね。

葉音:はい。ただ、それだけではなく「命」の循環も感じました。最初は美しく豊かな自然を歌詞から感じて、そこに私がいる姿をイメージして歌ったんです。でも繰り返し聴いていくうちに、そのとき、その場所にある、自然や人だけに限らない多様な命がこの星にはあるんだなと感じるようになって。

いま生きている命だけじゃなく、現代につなげてくれた過去の命たち、これからをつなぐ未来の命をひっくるめた、愛にあふれた歌詞だなという印象に変わりました。

菅野よう子さんから直々に届いたオファー。経緯とレコーディングの制作秘話

―今回、作曲を担当された菅野よう子さんから、直接ボーカリストのオファーがあったそうですね。どういった経緯だったのでしょうか?

葉音:私が参加している「ぷらそにか」のYouTubeチャンネルの動画で知っていただき、声をかけてくださったそうです。最初にお話をいただいたときは、すごく嬉しかった反面、「本当に私でいいのかな?」という不安もありましたね(笑)。抜擢の理由を細かくうかがったわけではないのですが、本当に光栄なことだなと、いまでも思っています。

―レコーディングはどのように進めていったのでしょうか?

葉音:デモをいただいてからは、「この曲に見合う歌を歌わないと」と、レコーディングに向けてたくさん練習をしました。実際に初めて菅野さんにお会いしたときは、すごく緊張しました。

そんな私に菅野さんは気さくに接してくださって。当時、私は高校生で、そのときにしていたアルバイトのことや地元のおいしいご飯屋さんの話、私がつくっている楽曲や将来の音楽活動のことまで、いろいろなお話で盛り上げていただいたんです。おかげさまで、レコーディングには自然体で挑むことができました。

―レコーディングの際に、菅野さんからはどのようなアドバイスがありましたか?

葉音:歌詞の解釈については私に委ねてくださって、歌唱については「言葉をしっかりと伝えてほしい」「『めぐれ』というところに気持ちを込めて歌ってほしい」といった指示をいただき、まっすぐに言葉をのせていこうと考えました。実際にレコーディングをしているときも、バックミュージックから浮かぶ景色に合わせて、素直に、感じたままに、祈りを込めて歌うことができたと思います。

それから、聞き手の方を意識した「歌を届ける距離感」について、お話してくださったのも印象に残っています。「ここは距離感を意識して、壮大に景色が広がるような感じで」「ここはぐっと距離を縮めるイメージで、目の前にいる人に歌うように」などのアドバイスをいただきました。それが、先ほど言った「壮大さも感じるけれど、日常と結びつく身近さ」につながっているように感じます。

『めぐれ』を歌ったから得られた、新しい気づき。楽曲リリース後の反響

―YouTubeでは、メイキングミュージックビデオのほかに、一発録りのセッションビデオがアップされていて、そちらも楽しそうに歌われている姿が印象的でした。

葉音:楽しかったです。このセッションは、菅野さんのご提案で急遽やることになって。ピアノ演奏は、もちろん菅野さん。前奏が聴こえてきて「こんな素敵な音色は初めて!」と、思わすニヤけてしまいました(笑)。ピアノと声というシンプルなものなので、歌詞がより入ってくるのではないかなと思います。こちらもぜひ、いろんな方に観ていただきたいですね。

菅野よう子さんがピアノを伴奏し、葉音さんが歌った『めぐれ』のセッション動画。レコーディング作業後に一発撮りで収録


―楽曲がリリースされてからは、どんな反響がありましたか?

葉音:はじめて私の歌を聴いてくださった方から、「森のような歌声ですね」というコメントをいただきました。『めぐれ』を歌ったから得られた新しい気づきがあって、とても嬉しかったです。ファンの方も自分ごとのように喜んでくれて、温かいコメントをたくさんくれました。

ライブ終わりに『めぐれ』をBGMで流したときも、「あ、この曲!」と反応してくれたり、口ずさんでくれたりして、特別な曲としてみんなと共有できていると感じます。同級生や身近な人たちからは、「サブスクで葉音の歌が偶然流れてきてびっくりした!」とか「ラジオで聴いたよ!」とか、耳撃情報をもらうことが多いですね(笑)。

―今年に入ってからは、『めぐれ』がバックミュージックで起用されているNTT東日本グループのプロモーションムービーも公開されました。この動画からは、どのような印象を受けましたか?

葉音:はじめて見たとき、映像が伝えるメッセージと『めぐれ』の楽曲が本当にぴったりだなと思いました。実は私自身、いま大学で社会学を学んでいるのですが、その内容とNTT東日本グループの取り組みに親和性を感じたので、とても興味深かったです。

「NTT東日本グループ Purpose Movie」の動画

葉音さんが大事にしている「循環」とは? 音楽活動のモチベーション

―NTT東日本グループがめざす「地域循環型社会の共創」や『めぐれ』にちなみ、「循環(めぐる)」に関する質問もさせてください。葉音さんが普段の生活や音楽活動において、大事にしたい「循環」はありますか?

葉音:難しい質問ですね……(笑)。やっぱり音楽活動において、ほかの誰かから影響を受け、そこから私も誰かになにかしら影響を与えていきたいという「循環」ができたらいいなと思います。

私はよく、尊敬するアーティストのライブへ行ったり、小説を読んだりして、純粋に感動し、自分にはない視点や考えをもらったりするんです。そこからインスピレーションを得て曲づくりして、ライブで披露し、それを聴いた人がまた感動してくれることもあって。だから、ファンの方から「お風呂で葉音さんの曲を鼻歌で歌っています」なんて言ってもらえたときは、その方の日常に私の音楽が溶け込んでいることを感じられて、すごく嬉しいですね。

―ファンの方々にとって、葉音さんの歌が活力になり、そのコメントをもらった葉音さんもまた、ファンの方々から活力をもらっているのですね。

葉音:はい。誰かに自分の歌を聴いてもらえること自体がモチベーションになりますし、さらに温かいコメントをいただけることでもっと勇気づけられて、新しい音楽を生み出していける。ありがたいなと思っています。

―「地域循環型社会の共創」とは、各地域が持つ資源や魅力を循環させながら、持続していく社会をつくることです。現在、葉音さんは大阪を拠点に活動されていますが、お住まいの地域にはどんな魅力を感じていますか?

葉音:私は生まれも育ちも大阪ですが、いま住んでいる地域は郊外のほうなので田んぼや畑があるんです。そんな自然豊かな風景にホッとしますね。一方で、コンビニや商店など便利な場所もあるので、住み心地のいい場所だなと感じます。

あとは、地域の人たちも温かくて、ギターを背負って歩いていると「音楽、頑張っとるんやな」とご近所さんに声をかけてもらえることもあります。大阪のファンの方々も、親戚のように親しみをもって接してくれるので、そういう温かい人たちが多いところは大阪の魅力だと個人的に感じています。

音楽などの「楽しみ」が溢れる社会こそ、夢や希望が持てるミライだと思う

―NTT東日本グループは地域循環型社会によって、多くの方が夢や希望を持てるミライの実現をめざしています。葉音さんにとって、夢や希望を持てるミライとはどんな社会ですか?

葉音:極論をいえば「音楽」というのは、食べる、寝るといった生命の維持に必要なものではなく、楽しみのひとつにすぎません。でも、それがある環境って、すごく幸せなことですよね。音楽を含め、さまざまな楽しみが溢れる社会であり続けることが「夢や希望を持てるミライ」だと思うし、私もそういうものを生み出す一員になっていきたいなと思います。

―今後、より多くの方々にご自身の音楽を届けていくために、挑戦したいことや展望などがあれば教えてください。

葉音:この曲のメロディーが好きとか、歌詞や歌い方でもいいので、直感的に「好きだな」と感じてもらえる方がいたら嬉しいです。私の楽曲が流れたときに「いいな」と思ってくれる人が少しずつ増えていって、歌が誰かの日常に溶け込んでいるような実感をより得られるようになったら幸せですね。

私自身も楽曲をつくっていますが、一人では楽曲を行き渡らせ、影響を大きくしていくことはできません。今後も仲間や誰かと一緒に曲をつくり上げていきたいですし、積極的に発信し続けていきたいです。

この記事の内容は2024年12月19日掲載時のものです。

Credits

取材・執筆
宇治田エリ
写真
寺内暁
編集
吉田真也(CINRA,Inc.)