全国47都道府県のなかからひとつの地域を取り上げ、ゆかりのある方にその地域の魅力を聞く「47 Local Stories」。
第2回は「熊本県」。今回は熊本県出身/在住の3名──ミュージシャンの寺中友将さん、俳優の芋生悠さん、料理家の細川亜衣さんがアンケートに答えてくれました。地元の思い出や、何気ない日常のなかで生まれたインスピレーションとは? 観光情報サイトやSNSには載らない、実体験をとおして見える熊本県のリアルを教えてもらいます。
寺中友将[ミュージシャン:熊本市出身]
寺中友将さん
ミュージシャン。KEYTALKのボーカル&ギターを担当。2024年8月の活動休止以降はソロとして、ライブやフェスに精力的に出演している。熊本出身のアーティストとして、地元にまつわる発信も折に触れて届けてきた
―地元で好きな場所はどこですか?
寺中
地元、熊本市東区の健軍という地区から秋津レークタウンに向かう県道です。
友達がレークタウン方面に多かったこともあり、よくその道を歩いたり、自転車で走ったりしていました。進むにつれてだんだんと視界が広がっていく、開放感のある道です。
いまでも地元に帰省したときは、ランニングやウォーキングコースとして、当時の思い出とともに楽しんでいます。
―熊本のカルチャーや地域の人々とのかかわりは、ご自身の音楽活動にどのような影響を与えていると思いますか?
寺中
たくさんの人が忘れられないので、ひとりに絞るのは難しいですね(笑)。
いま仕事として続けている「歌うこと」のきっかけをくれたのが、同級生のH君でした。当時、「ゆず」が大好きになった2人ですが、一緒にギターを弾こうと誘ってくれたのは彼でした。
学校の文化祭も含めて地元のいろいろなイベントに出演させていただきました。一緒に体育祭の団長(H君)、副団長(寺中)をやったのもいい思い出です。

寺中
いままでも、そしてこれからも、熊本という場所、友達、家族に、パワーをもらいながら生きていきます!
―これからどんな地元になってほしいですか?
寺中
「これから」の前に、いま、健軍にある商店街「ピアクレス」が空前の盛り上がりを見せています!
僕が小さい頃から続いているイベント「夜市」*の人出が、とんでもない数になっているのです。今年の夏、実際に夜市を歩いたのですが、信じられない光景でした(笑)。
同級生が出店していたり、それを支えている仲間がたくさんいたりして、僕も自然と「一緒に盛り上げていきたい!」という気持ちになります。
みなさま、ぜひぜひ健軍にお越しください。
* 2026年度は4月から全12回、毎月第2日曜日に開催
熊本市健軍商店街・ピアクレスで開催されている「夜市」の様子(画像提供:健軍商店街振興組合)
芋生悠[俳優:山鹿市出身]
芋生悠さん
俳優。主演を務めた映画『ソワレ』(2020年)、ヒロイン役を演じた映画『次元を超える』(2025年)は、『くまもと復興映画祭』の上映作品に選ばれ、同映画祭にゲストとして登壇。俳優・小沢まゆと共同で、熊本地震復興支援チャリティーを目的とした企画「熊本に虹を架ける映画館」を立ち上げるなど、上京後も熊本と接点を持ち続ける
―地元で好きな場所はどこですか?
芋生
山鹿市にある、国の重要文化財の芝居小屋「八千代座」です。
色鮮やかな天井広告が壮観で、枡席に座って見上げるのがとても好きでした。小学6年生のときにこの八千代座で演劇に出演する機会があったのですが、舞台からの景色も煌びやかで、満ち足りた思い出の場所になっています。
八千代座の舞台上から見える景色(画像提供:芋生悠さん)
―地元を思い出す作品はありますか?
芋生
坂東玉三郎さん主演のドキュメンタリー映画『書かれた顔』です。
八千代座を舞台に撮影された作品で、女形としてのリアルに迫りながら、観る者を「演ずること」の世界へ静かに引き込む作品です。玉三郎さんが八千代座の奈落で語る姿と、舞台上で歌舞伎・日本舞踊の演目『鷺娘(さぎむすめ)』を舞うその美しさが、鮮烈な印象として残っています。
―地元を離れて暮らすなかで、あらためて感じた「地元の魅力」はありますか?
芋生
東京で知り合った大切な人たちに、地元を案内したくなる瞬間があります。
おいしいご飯やお酒、歩くだけで楽しい豊前街道、八千代座や温泉。なかでも、夏に行われる『山鹿灯籠まつり』の千人灯籠踊りは、幻想的で妖麗です。
大人になり、暮らしの素養を身につけるうちに、こうした地元の魅力をあらためて感じられるようになりました。
山鹿市の大宮神社に展示されている「金灯籠(かなとうろう)」と呼ばれる和紙製の灯籠。『山鹿灯籠まつり』の千人灯籠踊りでは、約1,000人の女性がこの灯籠を頭に載せ、優雅に舞う(画像提供:芋生悠さん)
山鹿市の「平山温泉豆富屋やまと 食事処わらび」の食事(画像提供:芋生悠さん)
細川亜衣[料理家:熊本市在住]
細川亜衣さん
料理家。東京都出身。熊本市の旧跡・泰勝寺跡に「taishoji」というスペースを構え、熊本の自然に囲まれた暮らしのなかで、料理や工芸など多分野にわたる企画を手がけている
―熊本で好きな場所はどこですか?
細川
熊本市の立田自然公園内にある「泰勝寺跡」です。
自宅と仕事場である「taishoji」があるこの場所は、もともとわが家・細川家の菩提寺があった場所です。四季折々の彩りや香りがあり、鳥の声や葉擦れの音だけがこだまする。ここで暮らす幸せは、何ものにも代え難いと日々感じています。
泰勝寺跡(画像提供:細川亜衣さん)
―熊本に暮らすなかで感じる「熊本らしいおいしさ」や「この土地ならではの味わい」は、どのようなものでしょうか。
細川
熊本でつくられる食材は海や山の恵み、畑の恵み、どれをとっても素晴らしいものです。
清らかな水や火山があることで生まれるみずみずしさや味や香りの濃さには、何年暮らしても驚かされます。また、四季をとおして食材に恵まれており、その数や種類も非常に豊富です。これまでいろいろな土地で料理をしてきましたが、食材のおいしさは随一だと思います。
筍(画像提供:細川亜衣さん)
フキノトウ(画像提供:細川亜衣さん)
─熊本の郷土料理や食文化から受けたインスピレーションが、細川さんご自身の料理やレシピづくり、おもてなし、料理教室などの活動に影響を与えていると感じることはありますか。
細川
郷土料理や食文化という点では、影響を受けたものはごくわずかだと思います。
私が料理するうえで一番のインスピレーションは素材、そして旅です。
料理とは、素材が持っているおいしさを生かし切ること。
その点で熊本の食材は本当に理想的で、日々素材から教えてもらうことばかりです。レシピありきではなく、素材ありきの料理教室を行っているのもそれが理由です。
画像提供:細川亜衣さん
画像提供:細川亜衣さん
地域のストーリーは、一人ひとりの記憶のなかに
ゆるやかに視界がひらけていく県道、芝居小屋の舞台からの景色、そして、清らかな水や火山の恵みが育む、熊本の食材の豊かさ──。そうしたゆかりのある場所や恵みと向き合うなかで重ねてきた時間が愛着となり、いまの暮らしや表現、活動へとつながっていることが伝わってきました。
地域に根づく記憶をたどると、ただ訪れるだけではわからない、その地域のリアルな魅力が見えてくる。次回はどの地域のどんな記憶と風景に出会えるでしょうか。どうぞお楽しみに。
この記事の内容は2026年1月20日掲載時のものです。
Credits
- 編集
- 包國文朗、森谷美穂(CINRA, Inc.)