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鶏ふんも地産地消? 岩手県住田町が「循環型農業」でめざす地域経営のモデルケース
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岩手県の山間にある、人口5,000人未満の住田町。少子高齢化が進み、労働人口が減少していくなかで、町の経済や暮らしを維持するための取り組みが進められています。
その軸となるのが、町の基幹産業であるブロイラー事業を中心とした、「循環型農業」の推進。具体的には、鶏などの畜産から排出されるふん尿を肥料として再生産し、地域の農業に活用しています。この資源循環の輪を広げることで、「自給できる地域」をめざしているのです。
本記事では、「日本の地方のモデルケースをつくりたい」と語る神田謙一町長と、鶏ふんから肥料を製造する気仙環境保全の佐藤充さんのお話を中心に、持続可能な畜産業と農業について考察。さらに、ブロイラー業を営む住田フーズの外国人従業員、ファン・ティ・ビックさんを交えて、地域社会のあり方について考えます。
鶏ふんから生まれる低コスト・高品質の農業用肥料「バイオ炭」とは?
【住田町はこんな町】
- 岩手県の東南部に位置し、四方を山々に囲まれた町。
- 中山間地域で平地が少なく、面積の9割を森林が占める。
- 少子高齢化が進み、人口は5,000人未満。近年は若年層だけではなく、高齢者も減少している。
- 町の主要産業は林業と農業。特に、畜産業は農業全体の生産額の9割にのぼり、その半分強がブロイラー産業で、長年にわたり町の経済を支える主軸の事業となっている。
住田町役場の庁舎。住田町で育った天然木がふんだんに使用されている
農業と並ぶ住田町の主要産業である林業。看板には「森林・林業日本一の町づくり」の文字が
住田町役場のエントランスロビー。中央の柱は、町民から寄贈された樹齢100年を超えるスギ
―住田町では古くからブロイラー産業が盛んです。神田町長におうかがいしますが、この産業が町にとってどれほど重要なのか、あらためて教えてください。
神田
岩手県は養鶏業の生産額が米を上回るほど、養鶏が盛んな地域です。なかでも住田町産のブロイラーは国内シェア1.3%を占め、町の規模を考えればかなり大きいです。また、町の人口の2割にあたる約1,000人が養鶏業の関連事業に従事しており、住田町としても重要な産業であるととらえています。
住田町長の神田謙一さん。2017年の住田町長選挙で初当選し、現在3期目を務める
―では、気仙環境保全の事業概要について、佐藤さんからご説明いただけますか?
佐藤
私たち気仙環境保全は住田町でブロイラー業を営む住田フーズ*1の関連会社で、鶏を育てる農場から発生する「鶏ふん」の処理業務を行っています。処理といっても単に廃棄するのではなく、資源として活用できる製品へと生まれ変わらせるのがわれわれの仕事。具体的には、「鶏ふん炭(以下、バイオ炭)」「醗酵鶏ふんペレット」を製造し、地元の農家さんなどに販売しています。
*1 住田フーズは全農チキンフーズグループの企業です。
気仙環境保全の佐藤充さん。鶏ふん由来の肥料「バイオ炭」「醗酵鶏ふんペレット」の製造・販売を手がける
―「鶏ふん炭(バイオ炭)」「醗酵鶏ふんペレット」とは、それぞれどのような製品なのでしょうか?
佐藤
バイオ炭は、鶏ふんを焼却・炭化したもので、農地の肥料や土壌改良剤、融雪剤として利用されます。2006年に操業を開始した自社の炭化工場が24時間稼働し、年間1,500トンのバイオ炭を製造しています。
醗酵鶏ふんペレットは、農場から運ばれてきた鶏ふんと炭化工場で処理しきれなかった微粉炭(製品にならない細かい炭)を混合し、2、3か月かけて発酵処理したのちに加工した製品で、農地で肥料として使用されます。2021年に完成した堆肥センターで、年間3,500トンの醗酵鶏ふんペレットを製造しています。
「鶏ふん炭(バイオ炭)」(右)と「醗酵鶏ふんペレット」(左)のサンプルと資料
―畜産業の課題でもある排泄物を地域で処理し、肥料として再利用することで循環させているわけですね。
佐藤
そうですね。炭化工場に運ばれてくる鶏ふんは、1日あたり約60トンにものぼります。鶏は生き物ですから、毎日必ずこの量の排泄物が発生するわけです。これを道端に野積みするなど不適切に管理すれば、近隣に悪臭を撒き散らしたり、河川や地下水に流出して水質汚染を招いたりする可能性もあります。環境汚染を防ぐという観点からも、適切な処理による堆肥化は大事なことなんです。
また、化学肥料が世界的に高騰するなか、低コストで製造できる肥料を地元農家に安く提供するという点でも、非常に意義があると考えています。
鶏ふんから「バイオ炭」ができるまで
気仙環境保全の炭化工場
工場内には、毎日約60トンもの鶏ふんが次々と運び込まれる。処理が止まれば公害につながる可能性もある。熱と発酵の匂いが混じる独特な空気のなか、地域の循環と環境保全を支える作業が続く
乾燥工程を経てベルトコンベアで運ばれる鶏ふん
600〜700℃の高温に熱したロースター(熱処理炉)で、鶏ふんを炭化処理する。工場全体としても24時間体制で稼働している
炭化が完了した鶏ふん(バイオ炭)。熱処理によって匂いは消え、手に取るとさらさらと軽い
バイオ炭の製品パッケージ
耕畜連携による循環型農業を確立し、「肥料の自給率」を高めていく
―住田町では2012年から「耕畜連携事業」を掲げ、畜産から発生する堆肥を活用して野菜や米などの飼料用作物を育てる循環型農業を推進しています。
神田
先ほども申し上げたとおり、住田町は地域全体として畜産の比重が大きい地域です。そのため、事業を営むうえで必ず発生する鶏ふんに関しても、廃棄物ではなく「有価物」としてとらえる必要があります。
鶏ふんを肥料として活用できれば、地元農家にとっても大きなメリットになります。佐藤さんがおっしゃっていたように、現在、化学肥料の高騰が農家さんの経営を圧迫するなかで、気仙環境保全さんが手掛ける「地元産の肥料」にかかる期待も高まっているんです。
―単に環境によいというだけでなく、肥料としても優れているということですね。
神田
肥料の3要素とされる窒素、リン酸、カリウムのうち、バイオ炭にはリン酸とカリウムが、醗酵鶏ふんペレットには窒素が豊富に含まれています。これを活用しない理由はありません。
しかも、地元産ですから輸送コストもかかりません。特にバイオ炭は「炭」なので非常に軽量で、多くの量を近隣の農家さんに安く提供することができる。低コストの肥料でより多くの作物が収穫できれば、農家の方のモチベーションもさらに上がるはず。鶏ふんの「地産地消」は、地域における循環型農業の大きな軸といえます。
―現在は、肥料原料のリン酸やカリウムの多くを輸入に頼っていると聞いたことがあります。肥料の自給率を上げるという点でも重要な取り組みですね。
神田
食料自給率の問題はよく取り上げられますが、実は肥料の自給率はさらに低い水準にとどまっているのが現状です。これを変えていく必要がありますし、それを実現できるのは耕畜連携の基盤を持つ住田町のような地域ではないかと思います。
やはり食料や肥料は、いのちを守る基本ですからね。東京一極集中といわれますが、その点で都市部は大きなリスクを抱えています。長い目で見れば、食料や肥料を自給できる地域が存在感を高める時代がやってくるのではないでしょうか。
―耕畜連携による循環型農業を推進するために、行政のバックアップなどはありますか?
神田
鶏ふんの処理事業を推進するうえでは、近隣住民の方の理解が欠かせません。特に、においの問題ですね。事業者の方々に環境基準を遵守していただくだけでなく、行政が地域の住民の方々と公害防止協定*2を結ぶなど、トラブルを防ぐための働きかけも必要です。
*2 地方公共団体と企業の間で交わす公害防止に関する約束のこと。最近では住民団体も関与するケースがある
佐藤
そのほかにも、工場を建てる際には補助制度を活用していますし、町内の農家さんにご協力いただき、バイオ炭の実証実験を行う際にも行政がバックアップしてくれています。住田町には多方面でサポートしていただいていますので、われわれとしてもさらに多くの農家さんに利用していただけるよう、販売に力を入れていきたいと考えています。
―ちなみに、バイオ炭や醗酵鶏ふんペレットを使っている農家の方からの評判はいかがですか?
佐藤
実証実験では、実際にバイオ炭を畑に撒いて、従来の化学肥料と比較していただいているのですが、「従来と変わらない収量を確保できた」、あるいは「増えている」といった声が多く、収量が減ったというケースはいまのところ報告されていません。また、私自身も田んぼで米をつくっていますが、バイオ炭で土壌改良した田んぼでは、稲が倒伏しにくいという実感がありますね。
「バイオ炭」活用の現場を訪ねて
住田町のピーマン農家・佐藤修一さん。現在、圃場の半分で、バイオ炭を活用した新しい栽培方法に挑戦している
バイオ炭を使用して育てられたピーマン。表面にはツヤとハリがあり、みずみずしくおいしそう

佐藤さん
まだ実験段階ですが、もし収量や味に問題がなければ全部の圃場で試したいですね。「バイオ炭ピーマン」としてブランド化できれば、という期待もあります
バイオ炭による土壌改良を実施した佐藤充さんの水田
実りを迎えた稲穂。倒伏することなく丈夫に育ち、収穫期を迎えた
「幻の鶏肉」の開発も。住田産鶏肉の需要を広げる取り組み
―気仙環境保全として、新しく取り組んでいることがあれば教えてください。
佐藤
いくつかありますが、まずはバイオ炭の「融雪剤」としての利用拡大です。特に北海道や東北、北陸など雪の多い地域ではドローンを使った散布実験も進んでいます。また、昨今の肥料の原料価格高騰を受けて、肥料メーカーに混合肥料の原料としてバイオ炭を使っていただけるような取り組みも進めているところです。
―そうやってバイオ炭の利用シーンが拡大すると、製造量を増やす必要も出てきそうですね。会社としても、鶏ふん由来の肥料を増産していく方針なのでしょうか?
佐藤
そうですね。先ほど町長からもお話があったように、「肥料の自給率」を上げるためにも、可能な限り製造していきたいと考えています。
ただ、原料となる鶏ふんをさらに確保するには、そもそも鶏の生産量を増やさなくてはいけません。そのためには、住田産の鶏肉をもっと多くの消費者の方に選んでいただけるような働きかけが必要です。
神田
町としても住田産の鶏肉をより多くの方にPRするため、食イベントへの出展や鶏肉を使った新商品の開発など、さまざまな取り組みを行っています。その代表例が、「幻の鶏肉」と呼ばれる鶏ハラミの商品化です。鶏1羽からわずか10グラム程度しか採れない希少部位で、もともとは廃棄されていたものを住田フーズさんと一緒に商品開発してきました。
消費者の方からは「こんな鶏肉は食べたことがない」とご好評をいただいていて、夏のバーベキューシーズンには品切れが続くほどの人気となっています。
住田町役場近くの食堂・松嶋家の人気メニュー「とりハラミ焼き定食」。香ばしく焼き上げたハラミは、噛むほどに旨みが広がる

神田さん
鶏ハラミは、住田町が誇る特産品です。ふるさと納税の返礼品にも採用しています
外国人を単なる労働力ではなく、地域でともに暮らす仲間として受け入れる
―住田町では外国人労働者の受け入れや、地元住民との交流を活性化させるための多文化共生事業にも力を入れています。こうした取り組みの背景を教えてください。
神田
住田町の総人口に占める外国人の方の割合は2.9%(2024年12月31日時点)で、これは岩手県33の自治体のなかで最も高い水準です。少子化・人口減少が進む住田町において、技能実習生を含む外国人労働者の方々は、大事な地域の担い手であると考えています。
もちろん来日の目的は人それぞれで、いずれは母国に帰られる方もいらっしゃるでしょう。それでも住んでいる間は町の一員として不自由なく暮らし、大いに活躍していただきたい。そんな思いから、外国人労働者の受け入れを推進するとともに、住田町でともに暮らす仲間として迎えるために、多文化共生事業として住民の方々との交流の機会を積極的に提供しています。
―具体的に、どのような交流の機会があるのでしょうか?
神田
住田町ではスウェーデン発祥の「クッブ」というスポーツの大会を年に2回開催しているのですが、外国人の住民にも積極的に参加を呼びかけています。また、最近は中学校、高校の語学教育の一環として、外国人と生徒たちが交流できる機会をつくろうと、教員の方々と調整を進めています。
住田町にはベトナムやインドネシア、ミャンマー、ネパール、フィリピンなど、さまざまな国から来ている方々がいます。わざわざ海外へ語学留学やホームステイに行かなくても、地元で外国語が学べる環境があるのだから、活かさない手はありません。
住田町で開催されたクッブの大会『クッブ・ジャパン・オープン in 岩手住田町』。クッブ(KUBB)は、スウェーデン語で「薪」を意味し、木の棒を投げて木の的を倒す競技。バイキングたちが生み出したといわれ、600年以上の伝統がある(画像提供:住田町)
クッブ大会参加者のみなさん。多くの外国人の住民が参加した(画像提供:住田町)
―ファンさんは2017年に母国のベトナムから留学生として来日し、現在は住田フーズで働いているそうですね。地域のイベントに参加したことはありますか?
ファン
予定があるとき以外はほとんど参加しています。10月に行われるクッブの大会にも、最近住田町へ来た会社の実習生と一緒に出る予定です。イベントがあるたびに声をかけていただいていますし、日本人と外国人の区別なく機会を与えてくださるのは本当にありがたいですね。
仕事でも生活でもわからないことがあれば、みなさん親切に教えてくださいます。夫婦で暮らす家を紹介してくれたり、結婚式の会場探しを手伝ってくれたり。さまざまなサポートのおかげで、安心して生活ができています。
住田フーズのファン・ティ・ビックさん。2017年にベトナムから留学生として来日。現在は、住田フーズの従業員として働いている
神田
ファンさんはこうおっしゃってくれていますが、そうはいっても、異国での暮らしには不安や困りごとが少なからずあるはずです。日本人だって仕事や留学で海外に出たら、同じ思いをするかもしれません。私たちがめざすのは、日本人と外国人がお互いを理解し、同じ住民として楽しく暮らせる住田町をつくることです。そのために必要なサポートは惜しまずに行っていきたいと考えています。
「新しい地域社会のあり方」を住田町で構築していく
―最後に、佐藤さんには今後の畜産業や循環型農業について、神田町長には住田町の未来について、それぞれの展望をお聞かせいただけますか?
佐藤
まずは、さまざまな課題をクリアしながら持続可能な畜産業を確立していくこと。そのためには鶏ふん由来の肥料のさらなる普及拡大はもちろん、カーボンクレジットを活用するなどして、農地や地域に還元できる仕組みをつくっていくことも重要です。少しずつ体制が整いはじめたところですので、今後は取り組みをさらに発展させていきたいと思います。
神田
行政の役割は短期・中期・長期の各視点で国や地域の課題を考え、よりよい社会をつくること。そのうえで、次の世代や、将来のビジョンへとつなげていくことが重要です。
短期・中期的には現在の住田町の主力産業であるブロイラーを中心に、新しいパートナーを迎え入れながら事業の枝葉をどんどん広げていく。たとえば直近では、アグリテック系スタートアップのTOWINGさんや気仙環境保全さん、JAさんと包括連携協定を結び、高機能バイオ炭の普及拡大に向けた実証などを進めています。
また、中長期的には、ここ住田町で理想的な「地域経営」のモデルケースをつくりたいと考えています。かつては地方にも潤沢な予算が回ってきましたが、いまは地域住民一人ひとりが「自分たちで町を維持・発展させるにはどうすべきか」を考えなければ、日本も地域も運営が成り立たなくなってきています。
そのため、地域経営という考え方が重要で、町内外のさまざまな人がつながり、多様な視点を持つ住民同士がコミュニケーションを密に重ねていくことが求められます。住民一人ひとりが意見を出し合い、地域の課題と主体的に向き合う社会をつくることをめざすべきだと考えています。
これを実現するには、コミュニティの力が欠かせません。ですから、これからも年齢や出身地に関係なく地域の人たちがつながり、お互いに活力を得られるような機会をつくっていきたい。そうやって醸成されたコミュニティを基盤に、住田町で新しい地域社会の姿を構築していきたいと考えています。それが、町長としての私の夢ですね。
この記事の内容は2025年11月25日掲載時のものです。
Credits
- 取材・執筆
- 榎並紀行
- 写真
- 松浦奈々
- 編集
- 包國文朗(CINRA,Inc.)