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クリスマスマーケットは「社会のリビングルーム」?ドイツに学ぶ、都市デザイン

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近年、日本でもさまざまな場所で開催されるようになったクリスマスマーケット。人々の心に華やぎを与えてくれますが、「季節限定のイベント」として消化されてしまうイメージが強いのではないでしょうか。

一方、本場・ドイツのクリスマスマーケットは、単なる観光や買い物の場としてだけでなく、人々が自由に集まり、語り合い、音楽や文化を楽しむ──そんな「社会のリビングルーム」のような存在として小都市に深く根づいています。

この記事では、ドイツバイエルン州・エアランゲン市のマーケットを例に、人々の交流から生まれる自発的なつながりや、地域コミュニティの仕組みを紹介。

今回は、「都市発展」のテーマに長年取り組むドイツ在住のジャーナリスト・高松平藏さんに、ご自身の視点と考えで綴っていただきました。

ドイツのクリスマスマーケットとは? 中心市街地が「社会のリビングルーム」になる瞬間

近年、日本でもさまざまな場所でクリスマスマーケットが開かれるようになりました。本場・ドイツのクリスマスマーケットはどのようなものなのでしょうか?

ドイツでは毎年、全国3,000か所でクリスマスマーケットが開催されています。小さな街では12月のある週末にだけ、大規模なところでは11月後半からクリスマスにかけて。歴史的建造物に囲まれた広場にマーケットが設えられると、夜はまるで「メルヘンの世界」のようで、われわれ日本人の目から見ると、その非日常感に心が躍ります。

しかし実は、クリスマスマーケットの主眼は観光ではありません。日本で紹介される有名なクリスマスマーケットは、観光資源としての性格も強いと思われます。ですが、ドイツで開催されているクリスマスマーケットの大半は、小さな自治体で開かれており、観光だけを目的としているわけではありません。

まず、一つ言えるのは、マーケットが地域経済の活性化に一役買っているということ。小規模事業者や生産者にとって、クリスマスマーケットは重要な収入源となっています。

そしてもう一つ。今回クローズアップしたいクリスマスマーケットの「本当の価値」を紐解くためには、ドイツにおける都市のイメージや物理的構造、日本とは異なる歴史的な過程や経過を踏まえる必要があります。

中央手前にあるクリスマスツリーの背景に、ライトアップされたクリスマスマーケットの店舗や小さな観覧車が見える

クリスマスマーケットのはじまりは、中世に遡ります。当初は冬のクリスマスに向けた食料や日用品の供給が主な目的でしたが、近代の都市化にともない、「都市社会の余暇を楽しむ時間」へと変化していきました。

マーケットが開かれる場所は、多くの場合、人がたくさん集まる中心市街地。現代のドイツにおいては、マーケットに限らず中心市街地の開発を行う際「滞在の質」の向上を重視する傾向があります。つまり、買い物などの「経済活動」の充実だけでなく、その中心市街地に滞在すること自体に価値を感じられる公共空間をめざしているのです。

カジュアルに言えば、マーケットを都市における「社会のリビングルーム」にすること。

自宅のリビングルームでは、映画を見たり、本を読んだり、あるいは家族や友人とお茶や食事をともにしたりする人も多いと思います。これらの過ごし方をまとめると、リビングルームは「文化体験」と「社交」の場、と言えるのではないでしょうか。

だからこの一帯は、ゆっくりと楽しめるように複数の広場が設けられ、歩行者専用ゾーンになっているところが多いのです。

建物に囲まれた広場に小さなお店が立ち並び、たくさんの人で賑わうクリスマスマーケット

これに照らし合わせると、クリスマスマーケットは「社会のリビングルーム」の冬バージョンといったところでしょうか。

クリスマスマーケットでは、買い物そのものより、人々が友人や家族と集い、他愛ない会話を楽しむことにこそ本質があります。玩具や菓子、工芸品の屋台はそのきっかけにすぎません。寒空の下、ホットワイン片手に人々が集う「おしゃべりのホットスポット」なのです。

クリスマスマーケットがつくる街の賑わいと交流の空間。エアランゲン市を例に

ここからは、筆者が住むエアランゲン市(人口約12万人)のケースを見ていきましょう。

エアランゲン市のマーケットは、「中心市街地」3か所の広場に設えられます。中心になるのが、最も広い宮殿広場(約39メートル×91メートル)の「森のクリスマスマーケット」。森をイメージし、広場の石畳の上には木材チップが敷き詰められています。簡易舞台がつくられ、菓子や工芸品、軽食、ホットワインなどを販売する屋台が立ち並びます。

夜のクリスマスマーケットで、帽子を被り温かい格好をした親子がお店の前で楽しんでいる

親子連れで賑わうクリスマスマーケット(画像提供:高松平藏さん)

中央に、クリスマスマーケットに登場したニュルンベルクのクリストキント(クリスマスの天使とされている)。大きな王冠をかぶり、金色の長いマントを着ている。管楽器を持ったひとたちに囲まれている

エアランゲンのマーケットの簡易舞台に登場した「クリストキント」。「クリストキント」とは、ドイツ・ニュルンベルクのクリスマスマーケットでシンボルとして親しまれている、クリスマスの天使(画像提供:高松平藏さん)

ドイツ・エアランゲン市の夜のクリスマスマーケットに設置された、光り輝く回転木馬

エアランゲン市のクリスマスマーケットに設置された、カルーセル(回転木馬)はレトロでかわいらしい雰囲気。毎年小さな子どもを連れた親子たちを楽しませてくれる(画像提供:高松平藏さん)

広場にはあちらこちらにテーブルが置かれ、ここが「おしゃべりのホットスポット」になるのです。普段は「仕事のあとの一杯」という習慣がないドイツですが、職場の有志や友人同士、家族や趣味の仲間などが誘い合って集まります。

夕方以降は「満員御礼」の状態となり、あちこちで小さな談笑の輪が広がります。無数の会話が重なり合い、空間全体がざわめきに満ちているのを見ていると、「どうしてこんなに話題が尽きないのだろう」と感心するほどです。

寒空の下、帽子をかぶり、あたたそうな服装でクリスマスマーケットの出店に集い、ホットワインを片手に話し込むたくさんの人々

ホットワイン片手に語り合う人々(画像提供:高松平藏さん)

このように会話が盛り上がる環境を、選挙運動に活用した例もあります。市長候補の一人が、クリスマスマーケットの開催中に、「ある日の決まった時間に来るので、自由に話をしましょう」と呼びかけ、場を設けたのです。

ドイツの選挙はそもそも対話が重視されており、選挙カーでマイクを使って一方的に呼びかけるようなスタイルは見られません。そうした文化的背景もあって、クリスマスマーケットの強みが十分に発揮されたかたちとなりました。

選挙に出る候補者が、クリスマスマーケットの一角で飲み物を片手に市民と対話している様子。男性と子どもを連れた女性が話している

「おしゃべりのホットスポット」を選挙活動にも活用。候補者(写真中央)がクリスマスマーケットで市民と対話している様子(画像提供:高松平藏さん)

そしてマーケットの一角には、「ボランティアスタンド」と呼ばれるコーナーもあります。30を超える非営利組織(NPOや財団のような法人)のスタッフが日替わりで立ち、情報発信や募金活動を行うのです。

また、マーケット内にある簡易舞台では、合唱団や楽団が音楽を披露し、その家族や友人も観客として訪れます。こうした音楽演奏をきっかけに、心温まる出来事が生まれることも少なくありません。たとえば、18歳の誕生日を迎えたばかりの友人のため、舞台上の演奏者にあらかじめ「ハッピバースデー」の演奏を仕込んでおくといったことがありました。演奏がはじまると、そこに観客たちも加わって大合唱(ドイツでは、18歳の成人の誕生日を盛大に祝う習慣が根づいています)。こうした場面は、まさに「社会のリビングルーム」の真骨頂と言えるでしょう。

エアランゲン中心市街地の3か所のクリスマスマーケットはすべて歩行者ゾーンと接続しており、徒歩での移動が可能です。街を歩きながらマーケットを巡るこの仕組みは、ドイツのクリスマスマーケットが単なるイベントではなく、自然に都市の「インフラ」として機能していることがわかります。

このようにエアランゲン市のような中小規模の自治体を見ていると、クリスマスマーケットが「都市社会を生きたものにする装置」であることが際立つように思えます。

クリスマスマーケットに見る、ドイツ流「都市最適化」の視点

ここで強調したいのは、ドイツのクリスマスマーケットの根底にある精神です。日本でよく耳にする「まちづくり」というような概念に対応するドイツ語は存在しません。それは、ドイツにおける都市のとらえ方が、独自の歴史と思想に根ざしているためです。

クリスマスツリーに飾られた青や赤のクリスマスボール

ドイツの都市は、市壁で囲まれた中世の都市のづくりにルーツがあり、「どこまで整えると、最適な都市がつくれるか」という、「都市全体の最適化」をめざしています。人工的に「壁で囲む」ことが、都市の範囲を最初から明確に決め、「みんなの空間(公共空間)」とする考え方につながっているのです。

そして、かつては市壁で囲われていたエリアの多くが、現代の中心市街地として受け継がれています。そこに、自治体が歩行者ゾーンやベンチ、緑を整備し、歴史的建造物を残しながら「滞在の質」を追求しています。こうして生まれる空間は、単なる商業の場ではなく、市民が集い、交流し、街の文化や歴史を感じられる「都市の心臓部」として代表的な公共空間として機能しているのです。

小さな三角屋根に星が設えてある店舗が並ぶドイツのクリスマスマーケット

ドイツでは、「連帯」という言葉がよく使われています。それは、血縁や地縁を超え、市民が自発的にかかわり合い、互いに助け合う精神を含むと私は考えています。クリスマスマーケットの「ボランティアスタンド」もその象徴で、自由意志による連帯が自然に生まれることで、都市社会のつながりを豊かにしているのです。

そもそもドイツには、「都市は見知らぬ他人の集まりである」という考え方があるのです。都市化を前提に設計されたドイツ社会では、まさにクリスマスマーケットのような社交機会を数多く設けることで、「他人同士でも共生可能な空間」を育んできました。つまり、「知り合うこと」と「社交」が都市において重要とされているのです。

また、ドイツではコミュニティの多くが(NPOに相当するような)非営利組織を基盤としており、その数は約60万に上ります(日本は約5万余り)。人口12万のエアランゲン市でも、800もの非営利組織が存在しており、これは市民が営利目的や義務に縛られず、自発的・自律的に集まり活動するコミュニティが豊富であることを示しています。こうした構造が、「自由意志によるコミュニティ」の存在を裏づける一例となります。

サンタクロースやスノーマン、トナカイのクリスマスオーナメントが並んでいる

クリスマスマーケットに学ぶ、「自由に集う」コミュニティのつくり方

ドイツでは、都市化が進んだ19世紀に、すでにコミュニティデザインが社会的な要請となっていました。だからこそ先ほど述べたような、見知らぬ他者同士が共存することを前提とした都市構造が確立しているのです。

その延長に、中心市街地を「社会のリビング」とするデザインが存在しています。クリスマスマーケットはその「冬バージョン」であり、夏には「夏バージョン」があり、文化を活用した催しが多彩に展開されています。

以上を踏まえると、地域に根づいた助け合いの精神を大切にしながら、「地縁にはこだわらない、自由意志に基づく目的指向のコミュニティ」という考え方には、これからの社会でのつながり方を考えるうえで、学べる点がありそうですこうした新しい関係性のあり方が、ともに生きる社会をかたちづくるヒントになるかもしれません。

日本でクリスマスマーケットのような催しを行うときには、まずは気軽に人が集まり会話が生まれる、そんな居心地のよい「リビングルーム」をつくるところからはじめてみるのはいかがでしょうか? なぜなら、ドイツの事例が示唆するように、賑わい」はイベントでつくるものではなく、人々の交流をとおして日常から蓄積するものだからです。

こうした場を「おしゃべりのホットスポット」として継続的に開いていくことで、地域の安定性とダイナミズムを支える「地力」が培われていくのではないでしょうか。

建物に囲まれた石畳の広場にライトアップされた大きなクリスマスツリーがあり、まわりで賑わう人々。夜のドイツのクリスマスマーケット

この記事の内容は2025年11月20日掲載時のものです。

Credits

執筆
高松平藏
編集
篠崎奈津子(CINRA, Inc.)

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