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「アニメ×町おこし」の成功例7選。聖地巡礼の歴史や地域活性化を実現する方法
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持続可能な地域社会を築くために、自治体や地元企業らによる町おこしの取り組みが重要性を増すなか、昨今注目されているのが「アニメツーリズム」です。
アニメツーリズムとは、アニメ作品の舞台やモデルとなった地域を訪れてもらう「聖地巡礼」などを軸に据えた観光のあり方のこと。各地域にとっては、観光誘致や地域のイメージ向上を通じた町おこし・地域活性化のチャンスだといえます。
今回は「アニメ×町おこし」の7つの成功例を挙げ、アニメツーリズムを活かした地域活性化の可能性を紹介。失敗例や課題もふまえたうえで、取り組みを成功に導くためのポイントについて解説します。
アニメと町おこしの関係をおさらい

アニメの舞台やモデルとなった地域を訪れる「聖地巡礼」は、アニメファンにとって定番の「推し活」として親しまれています。こうした動きから観光や産業振興を実現した事例が生まれたことにより、アニメツーリズムは町おこし・地域活性化に有効な観光施策として注目されるようになりました。
現在、アニメと聖地巡礼を軸とした町おこしに取り組むアニメツーリズム協会が、先進的な地域と連携しながら情報発信を強化するなど、「アニメ×町おこし」というテーマは広がりを見せています。
アニメファンが「聖地巡礼」に惹かれる理由

アニメ『Free!』のロケ参考地となった鳥取県岩美町をファンが訪れる様子(画像提供:岩美町観光協会)
アニメファンの間で聖地巡礼が人気となっている大きな要因としては、「アニメ作品の世界観を実際に体験できること」が挙げられます。
実際に作品にまつわる風景や建物・施設、イベントなどに訪れることで、自分の好きな作品の世界に入り込んだかのような感覚を味わうことができます。その特別な体験が、作品に対する愛着をさらに深めることにもつながっているのではないでしょうか。
ほかの観光と比較したアニメツーリズムの特徴とは?
アニメツーリズムの大きな特徴は、アニメ作品というコンテンツが意外な地域やスポットに新たな観光資源をもたらす点です。
一般的な観光では多くの場合、知名度のある観光地の訪問を目的として人々が足を運びます。これに対し、アニメツーリズムでは訪問の目的が必ずしも従来の観光名所であるとは限りません。
聖地巡礼をはじめとしたアニメツーリズムでは、これまで観光地とは見なされていなかった地域であっても観光の「目的地」になり得ます。その土地独自の自然や文化、イベントなどはもちろん、何気ない町並みや風景も、新たな観光資源になるのです。
アニメ×町おこしの歴史|最初の「聖地巡礼」はどこから広まった?

アニメを活かした町おこしの取り組みはいつからはじまり、どのように変化し広まっていったのか。「アニメ×町おこし」の歴史を簡単に振り返ります。
黎明期(1990年代〜):自然発生型のファン訪問
聖地巡礼のはじまりは明確ではないものの、「聖地巡礼」という名称が使われはじめたのは、1991年以降と考えられています(※)。
聖地巡礼という名称が使われた最初のケースとして可能性が高いといえるのが、『美少女戦士セーラームーン』(1992年〜)の舞台、氷川神社への探訪です。
黎明期の特徴は、ファンが主体となった聖地巡礼であることです。ファンが作品に対する愛着を持って舞台となった地を訪れ、その様子をブログや掲示板などインターネットを通じて発信し、情報を見たほかのファンがまた聖地巡礼を行う……。そうした自然発生的な流行だったため、意図した「町おこしの取り組み」ではありませんでした。
2000年代の代表的といえる聖地巡礼の事例が、『おねがい☆ティーチャー』(2002年〜)、『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年〜)、『らき☆すた』(2007年)です。アニメ化を機に、舞台である兵庫県西宮市を中心とした地域において、作品に描かれた高校や喫茶店、公園、駅などのスポットをファンが巡る動きが広まりました。
※聖地巡礼という言葉自体は、1991年以前から使われていた可能性もある。ファンがアニメの舞台を訪ねるといった、コンテンツツーリズムに通ずる行動自体は、『アルプスの少女ハイジ』(1974年)が公開された1970年代にも見られ、具体的な起源については今後さらなる検討が必要とされている。
転換点(2011年〜):自治体が施策として動き出す
黎明期の「ファン主体の聖地巡礼」からの転換点となったのは、2011年。この年、テレビアニメ『花咲くいろは』(2011年)の舞台である温泉街のモデルとなった湯涌温泉(石川県金沢市)において、作中に登場する架空のお祭り『ぼんぼり祭り』が、実際に現地で開催されました。
観光協会によるイベント開催という湯涌温泉の事例を起点に、地域が積極的にアニメの聖地巡礼を盛り上げる動きも広がっていきます。『君の名は。』(2016年)など、全国各地でアニメを切り口にした町おこしが盛り上がっていきました。
現在(2020年代〜):アニメと地域が「共創」する時代へ
地域が参加してファンとともに聖地巡礼を盛り上げる動きは次第に活発となり、2020年代のいまも盛んです。
地域が地元企業などとタイアップし、ツアーやスタンプラリーといったイベントの開催やグッズの企画・販売など、アニメ作品を活かしたさまざまな施策や事例が生まれています。
さらに、現代ならではのSNS発信や、地域によるデジタルツールの活用(AR技術やデジタルマップの導入など)も進み、アニメと地域がともに価値をつくり出す「共創型」の取り組みが浸透しつつあります。
アニメの活用で町おこしに期待できる効果

町おこしの取り組みにおいて、アニメ作品の活用による効果としては、主に以下の3つが挙げられます。
- 訪問者数や関係人口の増加
- 経済効果のインパクト
- 地域のイメージ向上とブランディングへの貢献
訪問者や関係人口の増加
国内外で日本のアニメ作品が人気を博しており、潜在的な観光客は、国内・国外のファンを含めて多く見込まれます。さらに、ファンによるSNSを通じた情報発信・拡散が新たな観光客を呼び込んだり、そこから熱心なファンが同じ地域を繰り返し訪れたりするケースもあります。
その結果、地域に愛着を抱いてもらうことで、ゆくゆくは「関係人口の増加」につながり得るという効果も期待できます。
経済効果のインパクト
アニメのファンは単にその地を訪れるだけでなく、交通機関を利用しての複数スポットへの「巡礼」、舞台となるお店での飲食、アニメ作品にまつわるグッズの購入などさまざまな場面で消費活動を行います。
町おこしにアニメを活用することで、経済効果の観点でも大きな成果を挙げ得るといえるでしょう。
地域のイメージ向上とブランディングへの貢献
アニメツーリズムを活かした取り組みは、これまで観光地や観光資源として意識されていなかった地域の魅力に光を当て、地元のブランドを確立・強化することにも貢献します。
地域のイメージ向上やブランディングは、観光客を呼び込み経済を活性化させるのはもちろん、「地域住民の地元に対する誇りや愛着を育てる」という点でも町おこしにつながります。
【監修・岡本健先生コメント】アニメを活用した町おこしの効果とは

岡本先生
アニメツーリズムの振興において重要なのは「アニメ」です。観光客は作品が好きで、そのゆかりの地を訪れます。うまくいけば、作品をきっかけにして、地域に注目が集まり、経済効果や移住の促進につながる可能性があります。
とはいえ、まず大切なのは観光客の観光体験を満足のいくものにすること。そのために地域側がすべきことは、アニメについて、そして、アニメファンについて理解することです。
観光資源について知らずに、観光振興ができるでしょうか。それは、アニメツーリズムでも同じです。アニメに登場する風景はどのようなシーンでどのように描かれているのか、登場キャラクターの名前は、どんなお話なのか、ファンはどんなグッズを求めているのか…。「アニメの舞台になれば観光客が来てお金を落としてくれる」といった粗い解像度ではなく、作品やファンに真摯に向き合うことが求められます。
アニメの「聖地巡礼」を活用した町おこし成功例7選と成功要因

アニメ『Free!』のロケ参考地となった鳥取県岩美町をファンが訪れる様子(画像提供:岩美町観光協会)
ここからは、「聖地巡礼」を活用した取り組みのうち、町おこしに貢献した成功例といえる事例を7つピックアップし、それぞれの概要と成功要因とされる点の分析(※)を紹介します。
※町おこしの成功要因についての分析は、あくまで取り組みから考えられる可能性の一例として示しており、確定的な評価ではありません。
下の表は横方向にスワイプできます
取り組み地域 | 概要と成果 |
---|---|
長野県大町市 | 『おねがい☆ティーチャー』(2002年〜) ファンによる自然発生的な聖地巡礼が、インターネット上での発信・共有によって継続的な巡礼行動として定着した |
埼玉県鷲宮町 | 『らき☆すた』(2007年〜) ファンによる自然発生的な聖地巡礼の広がりを受け、町や商工会が主体となってグッズ製作やイベントなどを実施。地域一体となった取り組みが、経済効果につながった |
滋賀県豊郷町 | 『けいおん!』(2009年〜) 町おこしの活動主体を立ち上げ、ファンの要望に応えるイベントや展示を実施した。ファンや地元有志が主体となった取り組みも多数。一連の動きを通じて旧校舎が新たな観光資源として定着し、観光誘致とリピーターの獲得に成功した |
鳥取県岩美町 | 『Free!』(2013年〜) ファンによる自然発生的な訪問の広がりを受け、作品公式ライセンスによるロケ地マップを作成。コラボイベントも実施し、地域全体を楽しんでもらう仕組みをつくった |
静岡県沼津市 | 『ラブライブ!サンシャイン!! 』(2016年〜) 作品とのコラボによる地域PRを通じて「ラブライブ!の聖地」というイメージが定着。また地元企業や商店とも連携した多様な施策によって、経済効果が生まれるとともに、地域全体とファンの関係も築かれた |
岐阜県飛騨市 | 『君の名は。』(2016年) 市による「作品の世界観を体験できる環境づくり」が話題を呼び、また地域一体となったおもてなしでファンとの関係が深まり、多くの聖地巡礼リピーターが誕生。映画の海外でのヒットを背景に、海外からの聖地巡礼も増加している |
群馬県前橋市 | 『前橋ウィッチーズ』(2025年〜) 舞台めぐりを後押しするガイドブックの制作や市内の装飾、イベントの企画などでファンの訪問を歓迎。今後もファンとのつながりの拡大が予想される |
1.おねがい☆ティーチャー(長野県大町市)|ファンの「レポ」記事による聖地巡礼のはじまり

(c)Please!/バンダイビジュアル(画像提供:バンダイナムコフィルムワークス)
はじめに紹介する「アニメ×町おこし」の成功例は、宇宙人の先生との交流を描いたラブコメディ『おねがい☆ティーチャー』(2002年〜)とその続編である『おねがい☆ツインズ』(2003年〜)の舞台となった長野県大町市の事例です。
大町市では、2000年代前半頃から、作品で描かれる木崎湖やJR大糸線・海ノ口駅などを訪れるファンの姿が見られるようになりました(*1)。アニメツーリズムの黎明期の特徴的として挙げた「ファンによる自然発生的な聖地巡礼」の一例です。
インターネット上では当時から現在に至るまで、大町市を訪れたファンが聖地巡礼の様子を記録・公開する「レポ(レポート)」記事が多く見られ、こうしたファンによる情報発信がたくさんの人々を地域に呼び込んだことが想像されます。
2024年には、同シリーズの放送20周年を記念するイベントが開かれました。開催資金の募金では、開始後わずか数十分で目標金額の150万円を達成。イベント当日には県内外からファンが木崎湖周辺まで駆けつける(*2)など、アニメ放送終了後でも変わらず地域とファンの間に関係が築かれていることがわかります。
<大町市の町おこし成功要因>
- ファンによる自然発生的な聖地巡礼が生まれたこと
- 聖地巡礼として地域を訪れたファンがインターネットを通じた発信を行い、情報がファンの間で共有されたこと(*3)
2.らき☆すた(埼玉県鷲宮町)|ファンと地域がともに築いた聖地

毎年7月に開催される鷲宮の夏の例祭『八坂祭』で渡御される「らき☆すた神輿」(画像提供:久喜市商工会鷲宮支所)
次に紹介する「アニメ×町おこし」の成功例は、女子高生の日常を面白おかしく描く4コマ漫画を元にしたアニメ『らき☆すた』(2007年〜)の舞台となった埼玉県鷲宮町(わしみやまち:現 久喜市)の事例です。アニメ雑誌で同町の鷲宮神社などが舞台として紹介されたのを機に、ファンが聖地巡礼として訪れはじめます。
この様子に、鷲宮町や地元の商工会などが版元と連携し、キャラクターと地元の伝統工芸をかけ合わせたグッズの製作・イベントの開催も実施。各種メディアにも頻繁に取り上げられ、正月の鷲宮神社への参拝客数は従来の数倍にまで増加しました。日本政策投資銀行の2017年の調査によると、10年間で旧鷲宮町を含む久喜市にもたらされた経済効果は約31億円(*4)に及ぶとされています。
放送終了後もキャラクターの誕生日を祝うイベントが毎年開催され、国内外からファンが訪れるなど、『らき☆すた』の聖地巡礼は変わらず人気を博しています(*5)。
<鷲宮町の町おこし成功要因>
- 地場産業を活かしたグッズの販売やイベント開催など、作品に対する愛着が深まる取り組みを継続的に行っていること
- 地元商店限定でグッズを販売したり、ファンの一部がボランティアとしてイベントの運営に携わったりと、地域住民や地元商店とファンの連携・交流を生み出したこと
3.けいおん!(滋賀県豊郷町)|旧校舎をアニメファンの聖地へ

豊郷小学校旧校舎の外観(画像提供:豊郷町観光協会)

豊郷小学校旧校舎内の廊下(画像提供:豊郷町観光協会)
次の「アニメ×町おこし」成功例は、軽音部に所属する女子高校生たちの日常を描いたアニメ『けいおん!』(2009年〜)の舞台とされる滋賀県豊郷町の事例です。
『けいおん!』のモデル地とされているのは、町の教育複合施設として活用されている豊郷小学校の旧校舎で、アニメ公開後1か月のタイミングに、リニューアル一般公開の記念式典を目がけて熱心なファンが駆けつけたことが、聖地巡礼の起点となりました。当時、人口約7,400人の豊郷町には、観光客が訪れることはほとんどなかったものの、すぐに変化を実感したそうです。
その後、商工会青年部、町役場や観光協会の人が有志で集まり、「けいおんでまちおこし実行委員会」が発足。ファンの要望に応えるかたちでカフェを開業するなど、アニメ×町おこしの取り組みがスタートしました。
地元有志が関連グッズを製作したり、豊郷町にてファン主体で同人誌即売会を開催したりする動きも生まれるなど、町とファンが協力しながら、豊郷町や旧校舎を「ファンの居場所」として育てる取り組みが進められていきます(*6)。
アニメ公開から5年ほどで、豊郷町にはおよそ30万人に及ぶファンが足を運びました。その後もリピーターを含む多くのファンにとっての聖地として親しまれています(*7)。
<豊郷町の町おこし成功要因>
- 町や旧校舎を「聖地」として育む動きに、青年会議所や町役場、地域住民・地元の店舗が一体となって取り組んだこと
- 町が一方的に施策を行うのではなく、ファンを巻き込み、ともに聖地巡礼を盛り上げていく仕組みを築いたこと
4.Free!(鳥取県岩美町)|地域全体でのおもてなしがファンとの関係を構築

Free!と鳥取県岩美町がコラボしたパンフレット(画像提供:岩美町観光協会)
次に紹介する「アニメ×町おこし」の成功例は、男子水泳部の日々を描いたアニメ『Free!』シリーズ(2013年〜)のロケハンに協力した鳥取県岩美町の事例です。
放送開始以来、ファンが作品内に登場する漁港や神社に似た景色を求め訪れる様子が自然発生的に見られるように。そこで町はアニメ製作委員会の許諾を得て、作品公式ライセンスによるロケ地マップを作成し、イベントを開催した時には地元の民宿がキャラクターの好物を使った料理を独自で提供。観光協会や地域の人々が連携した取り組みをはじめるようになりました(*8)。
放送開始から10年以上が経つ現在でも多くのファンが町を訪れており(*9)、2025年5月に初めて開催されたシリーズとのタイアップ公式イベント(*10)には、約3,000人のファンが集結。キャストと巡る周遊バスツアーや遊覧船の乗船、飲食店でのコラボメニューやコラボドリンク、岩美町限定のオリジナルグッズ購入など、多彩な地域イベントを楽しみました。
地元宿泊施設では急きょ新たに客室を設けたり、駅舎を地元高校の生徒や職員が装飾したりと、地域一体となったおもてなしでファンを歓迎し、高い満足度を実現しています(*9)。
<岩美町の町おこし成功要因>
- タイアップイベントを開催し、バスツアーや遊覧船、地域限定グッズなどを販売することで、地域全体を楽しんでもらう取り組みにしたこと
- 自治体や観光協会だけでなく地域の住民や施設・店舗までが一体となってファンを歓迎するムードづくりをしたこと
5.ラブライブ!サンシャイン!!(静岡県沼津市)|地域一体でのブランド戦略
声優・高海千歌さんがナレーターを務める、沼津市×『ラブライブ!サンシャイン!!』観光プロモーション動画
次に紹介する「アニメ×町おこし」の成功例は、9人の少女たちがスクールアイドルをめざして成長するアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(2016年〜)の舞台となった、静岡県沼津市の事例です。
『ラブライブ!サンシャイン!!』の聖地がある沼津市へは、アニメの放送開始直後から多くのファンが来るように。市はアニメの舞台となる地域で事前に説明会を開き、「若い人たちが訪れるようになるので、温かく迎え入れてあげてほしい」と地域住民に理解を求めたといいます(*11)。
その後、沼津市は毎年行われる夏祭りのポスターにコラボイラストを採用したり、作中のキャラクターがナレーションを務める観光PR動画も制作したりなど、積極的に地域のイメージづくりを行いました。
放送終了から時を経ても、市内ではキャラクターの生誕祭などのイベントが頻繁に開催されています。大きな経済効果が生まれているのはもちろん、町の関係人口や移住者が大幅に増加した事例です(*11)。
<沼津市の町おこし成功要因>
- 地域住民の理解と協力を得るための事前説明やコミュニケーションを丁寧に行ったこと
- プロモーション動画の制作や、PR大使への任命などを通じて、地域一丸となって「ラブライブの聖地」というイメージを打ち出したこと
- 地元の商店街や企業・店舗、地域も連携して多様な施策を行っていること
6.君の名は。(岐阜県飛騨市)|海外観光客にも大人気に

アニメ作中に登場する、飛騨古川駅の冬の様子
次に紹介するアニメ×町おこしの成功例は、新海誠監督のアニメーション映画『君の名は。』(2016年)の舞台のひとつとなった岐阜県飛騨市の事例です。
試写会から公開までの1か月間で、市では作中で取り上げられた地元のマスコットキャラクター「ひだくろ」のボード設置や、地域住民の関心を高めるためのポスター制作など、さまざまな取り組みをスタートさせました。
ほかにも地域住民や地元商店などが一体となり、作中と同じバス停の標識を設置したり、伝統工芸品の製作体験を提供したりと工夫。ファンが作品の世界観を体験できるような環境づくりに力を入れました。訪れたファンは、映画のワンシーンを再現して写真を撮影し、SNSで発信。その評判が広がり、高い満足度に支えられてリピーターを含む多くのファンが飛騨市を訪れ、関係人口の増加にもつながりました。
映画が公開された 2016年には、観光客が前年よりも3.5万人増加(*12)。さらに、作品が世界各国で公開され話題となったことを背景に、海外から訪れる観光客も増加しています。
<飛騨市の町おこし成功要因>
- 映画公開前に取り組みをスタートさせたこと
- ファンが作品の世界観を実際に体験できるような環境づくりを行ったこと
- 市や地域住民、地元商店などが一体となって訪問者を歓迎したこと
7.前橋ウィッチーズ(群馬県前橋市)|地名が入ったタイトルでファンを呼び込む

(c)PROJECT MBW(画像提供:バンダイナムコフィルムワークス)
最新の「アニメ×町おこし」の事例として、魔女をめざす5人の少女たちの日々を描いた『前橋ウィッチーズ』(2025年)の舞台となった群馬県前橋市の取り組みがあります。
アニメの放送が開始されると、市では舞台となった市街地などを作中のシーンとあわせて紹介するガイドブック「舞台めぐりBOOK」を制作。キャラクターの等身大パネルや歓迎フラッグの設置など、舞台めぐりに訪れるファンを歓迎する施策も実施しました。
ほかにも、コラボグッズの製作・販売や地元の飲食店や商店と連携したプレゼント企画などが実施されており(*13)、今後も県外からのファンを呼び込むきっかけとなることが予想されます。
アニメ×町おこしに失敗例はある?
本記事では、観光誘致の規模や経済効果などの細かな基準を設けず、広く「町おこしへの貢献」という尺度で成功例を紹介しました。
しかし、何をもってアニメ×町おこしの取り組みを成功・失敗とするか、その基準をひとつに定めることはできません。一般に失敗例と考えられている事例のなかにも、別の基準に照らせば成功したといえるものがあります。
たとえば、ロボットに乗って宇宙人と戦うことになった女子高生の姿を描いたテレビアニメ『輪廻のラグランジェ』(2012年)の舞台となった千葉県鴨川市の取り組みは当初、失敗例として見られてしまう場合もありました。
しかし、逆風によって製作陣・地域・ファンがより密に交流を行うようになり結束を強めたことで、結果的にコアなファンからの高い満足度を実現しました。また、アニメの放送終了後もファンと地域の関係が続いている点などから見れば、「アニメ作品を通じて鴨川市に新たな魅力を確立し、町おこしに成功した」ともいえます。
取り組みを評価するにあたっては、ひとつの側面から成功・失敗と判断せず、さまざまな側面から成果や課題を見極めることが重要です。
アニメ×町おこしを成功させるために必要なポイントとは?

各地域における町おこしの成功例をふまえ、「アニメ×町おこし」を成功させるために重要なポイントとして挙げられるのは以下の2点です。
- 地域一体での連携
- 継続的なファンとの関係構築
地域一体での連携
「アニメ×町おこし」を成功させるためには、自治体だけでなく住民や地元の店舗・企業など地域全体が連携し、一体となって取り組みを推進することが重要です。そのためには、地域住民の理解と協力を得ることが欠かせません。
取り組みの例としては、飲食店や商店を巻き込んだコラボキャンペーンや、作品の世界観の再現、地元住民によるおもてなしやファンとの交流など、地域ぐるみの活動が大きな効果を生んでいます。ファンの満足度が高まることで、SNSを通じた口コミや情報発信が広がり、リピーターの増加にもつながります。
継続的なファンとの関係構築
関係人口の増加や経済の活性化、コミュニティの構築といった観点で町おこしを成功させるには、「アニメ×町おこし」の取り組みを一過性のブームとせず、繰り返し地域を訪れるリピーターの獲得が欠かせません。
訪れたファンの体験の満足度を高めるのはもちろんのこと、継続的に魅力あるイベントや施策を打ち出し、ふたたび地域に訪れる動機を生み出すことも求められるでしょう。さらに、地域とファンが双方向にコミュニケーションを取れる仕組みを整えることで、より強いつながりが生まれていくはずです。
アニメ×町おこしの課題

「アニメ×町おこし」の取り組みを持続可能なものにするには、成果だけでなく課題にも目を向ける必要があります。特にアニメツーリズムにおいて課題となりやすい点のひとつが、訪問者と地域住民との関係です。
観光客の著しい増加によって、騒音やゴミをはじめとした問題が生じて地域住民の生活などに支障をきたす「オーバーツーリズム」が昨今着目されていますが、一般の観光と同様に、アニメツーリズムにおいても、この点は課題になります。
アニメの聖地は、住民の生活圏に近接しているケースも多くあります。そのため、観光客が急増して特定のスポットに集中すると、地域住民とのあいだで摩擦が起きる可能性も出てきます。
地域住民の理解を得て町おこしの取り組みを続けていくためには、マナーの啓発やルールづくり、観光客の過集中を避ける仕組みづくりなど、適切なマネジメントを行うことが欠かせません。
まとめ|アニメ×町おこしの今後はどうなる?
町おこしの重要性が各地で高まるなかで、観光誘致や経済効果に加え、地域住民が地元に対する誇りを持つきっかけになるアニメツーリズムへの期待は、今後ますます高まっていきそうです。
オーバーツーリズムなどの課題を解消し、地域住民を巻き込みながら、地域全体とファンが持続的な関係を築けた地域からは、新たな「アニメ×町おこし」の成功例が生まれていくでしょう。
*1:信濃毎日新聞デジタル「「聖地」をこの目で、想像超える美しさ アニメ「おねがい☆」放送終了後も巡礼続々 舞台となった大町市の海ノ口駅(2003年12月21日付朝刊掲載)」
*2:信濃毎日新聞デジタル「”聖地”木崎湖で祝う「おねがい☆」20年 大町市にファン集結 続編示唆する監督のトークにどよめき」
*3:「アニメ聖地巡礼を活用した地域振興の課題と可能性-全国アニメ聖地アンケート調査と事例調査を通じて-」
*4:日本政策投資銀行「コンテンツと地域活性化〜日本アニメ100年、聖地巡礼を中心に〜」
*5:YAHOO!JAPANニュース「「らき☆すた」放送10周年 聖地巡礼は今も大人気」
*6:財団法人中部産業・地域活性化センター 客員研究員 坂口香代子「ファンの“居場所”を観光資源に 豊郷小学校旧校舎群への聖地巡礼を育てる町」(中部圏研究 2011.9)
*7:PUBLIC RELATIONS OFFICE「「聖地巡礼」の文化財」
*8:トラベルニュース「うれしい異変?理由はアニメ 鳥取県岩美町」
*9:日本海テレビ「人気アニメ「Free!」と岩美町がコラボ! アニメの聖地に全国各地からファンが集結 町全体が一丸となってイベントを盛り上げる 鳥取県岩美町」
*10:岩美町観光協会「テレビアニメ「Free!」シリーズ×鳥取県岩美町」
*11:朝日新聞「ラブライブの聖地・沼津市 作品と地元、ファンが生んだ幸せな好循環」
*12:飛騨市「平成28年 飛騨市観光客入込数等について」
*13:前橋まるごとガイド「全国で絶賛放送中!TVアニメ『前橋ウィッチーズ』」
この記事の内容は2025年9月18日掲載時のものです。
Credits
- 執筆
- 永田遥奈
- 編集
- 牧之瀬裕加(CINRA,Inc.)