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ドローンで地域の魅力を再発見。ドローングラファ田口厚が語る地方創生の可能性
街のミライを見守る「ドローン」特集
物流や災害救助、農業、エンタメ、観光などさまざまな分野で活用が進められている「ドローン」。そんな多岐にわたるドローンの活用ですが、近年では地方創生につながるツールのひとつとして注目を集めています。実際にドローンで撮影された地域の景色や「ここにしかない絶景」が、SNSやインターネット上で話題になる事例も増えてきているのです。
「街のミライを見守る『ドローン特集』」の第2回でお話をうかがうのは、空撮のスペシャリスト「ドローングラファ」として活躍中の田口厚さん。「ドローン×地方創生」をテーマにしたプロジェクトに数多くかかわってきた田口さんが語る、ドローン活用の現状と新たな可能性とは?
ドローンで「隠れた絶景観光地」を見つけ、地域の魅力を再発見する
─現在、田口さんは「ドローングラファ」という職業でご活躍されていますね。ドローングラファとは、どういった職業なのでしょうか?
田口:ドローングラファは「ドローン」と「ビデオグラファー」をかけ合わせた造語です(※)。ドローンでの表現力を活かして、地域の魅力が伝わる動画を撮影し、WebサイトやSNSに載せる映像コンテンツを制作しています。
※「ドローングラファ」は登録商標です。
─田口さんが地方創生のプロジェクトにかかわるようになった背景は?
田口:私はいろんな場所へ旅行するのが好きで、旅先でもよくドローンを飛ばして撮影していました。ドローンを使えば日常生活では目にすることができない、俯瞰した角度から映像が撮れるので「新しい発見」が得られるんです。
そこで「前から知っている場所でも、ドローンを使って撮影すると、全く違った魅力を引き出せる」ことに気がつきました。つまり、観光誘致や地域活性化に悩む地方の課題解決につながるのではないかという視点を持ったことが、さまざまなプロジェクトにかかわるようになったひとつのきっかけですね。
─なるほど。では、「ドローン×地方創生」に取組むなかで得られた効果について教えてください。
田口:これまで、大小さまざまなプロジェクトにかかわってきました。それらをとおして気がついた私たちの役割は、地元の人でも知らない「隠れた絶景観光地」を見つけることだと思っています。
地方へ行くと、よく地元の人に「うちには何もないんです……」と言われます。そういう方に、ドローンで上空から撮影した映像を見せると、そこには見慣れたはずの景色ではなく、思わぬ絶景が映っていて、「うちにもこんな絶景が!」と驚かれることは結構あるんです。
地元の人にとって「古ぼけたような街並み」に見えていても、私たちや観光に来た外部の人からすれば、非日常を感じられる場所といえる。そんな場所をドローンによって日常的に見ている風景とは違った視点で撮影し、観光PRのお手伝いをしています。ドローン映像は、建物や街並みをちょっと上から俯瞰して眺めることができるので、観る人に「この街を歩いてみたい」という期待感を醸成できると感じています。
また、ドローンの映像は、地元の人にとって新たなスポットや観光導線の発見にも役立っています。お話ししたように「ドローンを活用すると地域の魅力を再発見できる」という意識を、地元の人に持ってもらえるようになるんです。そういう意味では、平凡だと感じていた自分の街にそれまで気づいていなかった魅力があると「意識が変わる」ことが、一番得られた効果なのではないでしょうか。
「地方創生×ドローン」で自治体を巻き込んだ3つのプロジェクト
─田口さんがこれまで取組まれてきたプロジェクトのうち、特に印象に残っているものはありますか?
田口:印象的な事例は3つありますね。1つ目は、 2019年に実施した「ドローンジェニックな旅をしよう!in 静岡県」です。
これは弊社の手がける事業のひとつである「ドローン空撮ツアー」で取組んだ事例でした。普段目にすることができないアングルからドローンで撮影した写真や映像をとおして、壮大な風景を楽しんでもらい、そこに映し出される驚きや感動を得ていただくという日帰りの空撮ツアーで、自治体と一緒に企画したプロジェクトです。このときは、ドローンに興味を持つ旅行系インフルエンサーの方々にも来ていただきました。
田口:場所は浜名湖やヴァンジ彫刻庭園美術館(現在は閉館)などの観光地で、ツアー参加者に基礎的なドローン操作のレクチャーや撮影指導を行い、実際にドローンを飛ばしてもらったんです。そして、「絶景のなかに映る自分」を撮影いただき、SNSで発信してもらう内容を企画しました。
この企画は、もともとドローンを使い「いつもと違った角度から美しい景色を撮影する」という、ただの空撮ツアーでした。でも、実際に取組んでみると、単に空撮を楽しむことよりも「絶景に自分が映り込んだ画が撮れる」という点に、より大きな魅力を感じる人が多いこと、そういうニーズがあることを知りました。この静岡の事例は、そんな気づきを実践に移した印象的な取組みです。
─まさにSNSでの「映え」が刺さった企画ですね。2つ目はどんな事例でしょうか。
田口:2つ目は、岡山県高梁市の備中松山城と吹屋ふるさと村を舞台に、現地の旅行会社と組んだドローン空撮ツアーです。このときは、ドローンによる空撮体験のみならず、現地のガイドさんや役所の史跡担当職員にお願いして地域の歴史を解説していただくという、観光としても楽しめるような企画をしました。
私自身、お城が好きなので、ずっと「歴史的なもの(史跡)×ドローン」という企画をやりたいという思いがありました。お城は「要塞」として、敵に攻められにくくするため、迷路のような設計になっています。なので、実際に歩いて見てまわっても全体像を把握することが難しいんですよね。
ですが、ドローンを使って上空から撮影することで、迷路状のお城のなかで自分が立っている位置やどこに何があるのかが鮮明になり、まるで3Dマップのように、頭のなかで位置関係を整理できます。つまり、お城を実際に歩きまわって見ること以上に構造を理解でき、お城という観光資源をより楽しめるのが面白いと思っています。
実は、文化財保護の観点から、お城や史跡の周りでは「ドローンを飛ばすなんて……」という声もあり、飛行許可が下りないことが多々あります。でも備中松山城の事例のように、ドローンによる空撮によって、これまで気づかなかったお城の魅力を発見することができたんです。
─長年のお城好きにとっても、新たな発見が得られそうな企画ですね。では、最後の事例を教えてください。
田口:3つ目は、三重県明和町にある史跡「斎宮跡」で実施した、新しいかたちの歴史観光を提案する「観光実証企画」です。この企画ではインフルエンサーを招待し、「斎宮跡を実際に見ていただく通常の観光体験」に加えて、「学芸員の生解説付きで史跡全体を把握できるドローン映像の体験」や、「ドローンでの自撮り」も体験いただきました。併せて、斎宮のPRを目的とした動画制作を弊社で行うなど、弊社で提供可能な観光プロジェクトのメニューをフルで提供させていただきました。
こちらは天皇に代わって伊勢神宮の天照大神に仕えた「斎王」の御所で、観光資源としての価値や認知度の向上を狙った取組みです。具体的には、200倍ズームが可能な産業用ドローンを使用し、90メートルの高さから斎宮全体を見渡す体験をしていただきました。これにより、広大な斎宮跡の全貌や祓川(はらいがわ)、寝殿跡、古代伊勢道のルート(伊勢神宮への導線)など、点在する史跡の位置関係を、空撮と地元博物館の学芸員による解説と併せることで、斎宮の全体像を把握できます。より深い知識を持った上で史跡を巡ることによって、歴史観光をさらに充実したものにすることが可能になります。
さらに、本格的な十二単(じゅうにひとえ)の着付け体験も組み合わせ、平安時代の女官になりきった姿をドローンで自撮りしていただいたんです。加えて、イベント後にはInstagramでの投稿コンテストを行いました。
斎宮跡の周りは畑や住宅地が広がっていて、いわゆる観光地らしい雰囲気は感じられないかもしれません。しかし、ドローンを使って斎宮跡やその周りの風景全体を見渡すと、実際の斎宮跡はとても広大で、佇まいはとても神秘的。かつて斎王が住んでいたとされる寝殿跡地や、禊の場として知られる祓川が静かに流れています。
田口:この広大な斎宮跡や周辺の史跡、さらには当時から流れる川や木々を、ドローンで一望する経験は、まさに「未知の魅力の発見」です。この新たな魅力が、歴史へのロマンを醸成し、文化資産の価値向上につながることを期待して企画しました。
また、この取組みでは、歴史観光をドローンでより充実したものにするための試みの第一歩として「ドローン活用の仕組み化」をめざしています。私たちが関与しなくても、地域の皆さんが主体となって、ドローンを活用した空撮や自撮りをしてもらうなどの企画を自立的に運営できるようにすることが狙いです。
地域の皆さんが懸念する主な不安は、安全面と法律面のふたつ。そこで私たちは、法律に適合した軽量で安全性の高い“99グラム”のドローンを使用し、地域の皆さんに対してドローンを使って自分で撮影を行う方法や安全管理の手法をレクチャーするアプローチを取っています。こうしたレクチャーを通じて、それぞれの地域にドローン活用の“仕組み”として残すことができれば、地方創生の取組みとして、地元主導で積極的にドローンを活用できるようになるのではないでしょうか。
そのようなアプローチを通じて、リスクに適切に対応できれば期待以上の効果を得られ、 ドローンは地域の魅力を効果的に発信できるツールとなることを伝えられるように尽力しています。今後も、新しい史跡の楽しみ方や観光のあり方を模索していきたいですね。
ドローンはあくまで「旅を楽しむための増幅器」
─田口さんが描く、ドローンを活用した地方創生のビジョンについて教えてください。
田口:「地方創生×ドローン」の取組みは、全部で4つのフェーズに分けられると私は思っています。
最初のフェーズでは、入り口として地域関係者へ向けたアプローチを行います。私たちのような専門企業がドローンで撮影した素材や映像を編集し、地域関係者に提供することにより、その地域の再発見した魅力を発信していく支援を行います。
次のフェーズでは、私たちがその地域でプロジェクトに取組み、それに参加いただいた旅行者やインフルエンサーなどの体験者へアプローチします。私たちがドローンを操縦し、リアルタイムでフライトするドローンからの空撮映像を、体験者の方々に共有します。このフェーズでは、アプローチする対象が異なり、外部の方である体験者に新しい発見や気づきを得てもらい、地域に潜むさらなる魅力を見つけるお手伝いをします。
3つ目のフェーズは、私たちの監督の下、体験者の方ご自身がドローンを操縦し、自分の意思で観たいところを観たり、絶景のなかにいる自分を撮影したりする体験をしていただきます。このフェーズは、あくまで操縦者が別にいる2つ目の受動的なフェーズとは異なり、能動的にドローンを使う絶景体験となります。
そして、最後のフェーズでは、斎宮のプロジェクトでも取組んでいるように、地域関係者へのドローンの基本的な操作方法や撮影技術、安全管理の手法などのレクチャーをとおしてドローン活用を仕組み化します。ここでいう「仕組み化」とは、地域関係者の方だけでドローンを活用できる状態を構築すること。これにより、地域関係者が自立的に、その地域の魅力を発信する機会が増えます。ドローンを活用した取組みが定着すれば、それをきっかけのひとつとして「人が集まる=地方創生につながる」ようサポートしていくのです。
このような仕組みづくりに、地域関係者の方々と一緒に取組んでいきたいと考えています。
─最後に、地方創生に関心を持つ読者に向けて、ドローンを活用することの魅力や可能性についてメッセージをお願いします。
田口:私たちがドローン活用で気をつけているのは、ドローンは「旅を楽しむための増幅器」であるという意識を持つことです。
たとえば先ほどお話ししたように、高梁市のプロジェクトではドローンによる空撮体験に加えて、現地のガイドさんにご協力いただき地域の歴史を解説していただきました。さらに、斎宮のプロジェクトでは、地域博物館学芸員の方にご協力いただくだけでなく、十二単の着付け体験とその姿を平安時代の復元施設を背景にドローンで自撮りできるという観光実証企画を実施しました。空撮・自撮り体験を目的に観光に訪れていただくようプロジェクトを企画するのではなく、あくまで「旅行体験を充実させるツール」としてドローンを活用しています。
私たちの役割として一番大切にしているのは、地元の方に「自分が暮らす地域にはこんな魅力があるんだ!」と意識の変化を起こし、その地域に誇りを持ってもらうことだと思っています。そのためにドローンを活用して、地元の人が普段とは違った角度から地域を見つめ直したり、自分の暮らす地域をもう一度好きになってもらったり、ひいては地方創生のきっかけとなるようなプロジェクトをこれからもやっていきたいと思います。
※この記事の内容は2024年12月19日掲載時のものです。
Credits
- 取材・執筆
- 古田島大介
- 写真提供
- 田口厚
- 編集
- exwrite、CINRA, Inc.