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「ご当地アイドル」が地域を変える。青森・弘前のりんご娘が示す地域経済への力

  • 公開日

日本のポップカルチャーを象徴する存在のひとつであるアイドル文化。その活動は、エンターテインメントの枠を超え、ときに経済を動かす力を持っています。なかでもご当地アイドルは、地域経済を大きく動かす存在といえるかもしれません。

本記事では、「農業活性化アイドル」として活動する、青森県弘前市のご当地アイドルグループ・りんご娘の現メンバー4人と、生みの親でありプロデューサーの樋川(といかわ)新一さんにインタビュー。2025年に結成25周年を迎えたこれまでの軌跡や地域とのつながり、さらには地域産業に対する熱い想いについて聞きました。

ご当地アイドルは、地域の人々や経済にどのような影響を与えられるのでしょうか?

活気を失っていく地元に対する「悔しさ」が、りんご娘誕生の原点

それぞれりんごを手に持って微笑む、りんご娘メンバー4人

青森県弘前市のご当地アイドルグループ・りんご娘。左からスターキングデリシャスさん、金星さん、はつ恋ぐりんさん、ピンクレディさん

【りんご娘とは?】
2000年7月に青森県弘前市で誕生たご当地アイドルグループ。デビューから26周年を迎え、現在は9期生として「ピンクレディ」「スターキングデリシャス」「はつ恋ぐりん」「金星」の4人が活動している。
音楽や芸能活動を通じ、「農業活性化アイドル」として、地元・青森県の活性化をめざすとともに、日本全国や海外の第一次産業にエンターテインメントの力で元気を届けることを目標としている。

—りんご娘のプロデューサーである樋川さんは、なぜ弘前でご当地アイドルを立ち上げようと考えたのでしょうか?

樋川

僕は弘前市で生まれ育ち、大学進学をきっかけに上京しました。27歳で実家を継ぐためにUターンしたとき、目にしたのはかつての賑わいを失った街の姿でした。聞こえてくるのは「人口減少」や「若者の流出」といったネガティブなニュースばかり。

僕自身、上京するまでは、正直なところ弘前を「何もない街だな」と思っていました。でも、あらためて生活してみて気づいたんです。「青森県には本当はたくさんの魅力があふれているのに、それをうまくアピールできていないだけだ」と

—Uターンして、あらためて青森県の魅力に気づいたんですね。

樋川

はい。青森県の魅力が伝わっていない当時の状況を僕は「悔しい」と感じたんです。状況に対してただ愚痴を言うだけではなく、悔しさを晴らすために自らアクションを起こさなければいけない、と思いりんご娘を立ち上げました。

ジャケットを着て、手振りを加えて話す樋川新一さん

りんご娘のプロデューサー・樋川新一さん。1970年弘前市生まれ。大学を卒業後、自動車メーカーへ入社。27歳のときに弘前にUターンし、家業の自動車会社を継いだのち、芸能スクール「弘前アクターズスクールプロジェクト」を設立。2000年7月にご当地アイドルの先駆けとなる「りんご娘.」を誕生させた。現在は、有限会社リンゴミュージックの社長として「りんご娘」に加え「ライスボール」「アルプスおとめ」などのアイドルグループをプロデュースしている

—当時は、まだ「ご当地アイドル」という言葉すら定着していない時代でした。なぜアイドルを選んだのでしょうか。

樋川

若い人たちがこの地域を好きになり、一度外に出ても「また戻ってきたい」と思えるような面白いことを仕掛けようと考えました。その手段として有効だと思ったのが、エンターテインメントであり、アイドルだったんです。「青森県といえばりんご」というイメージと、地域の産業を応援したいという想いを込めて、「りんご娘.」(当時名称)と名付けました。

コンセプトは「地域経済に貢献するアイドル」

—りんご娘のメンバーは地域に根ざしたアイドルとして活動することに、どのような想いを持っていますか?

スターキングデリシャス

りんご娘は私が小さい頃から活動していたので、よく家族でライブを見に行っていました。その姿を見て、子ども心に青森県を背負って頑張っているアイドルがいるんだ」と感動したことを覚えています。

金星

青森県の小中高生にとって、芸能人やアイドルは遥か遠い存在で、間近で見ることはまったくありません。一方で、りんご娘は憧れの存在でありながら、とても身近な存在でした。

小さい頃、家族で地元のショッピングセンターに行くと、りんご娘がライブをしていることがよくあったんです。その姿がとてもキラキラしていて。青森県で生まれ育つ子どもたちにとって、りんご娘はとても大きな存在だと思います。

青森の伝統工芸品「津軽びいどろ」の柄をイメージした衣装を着て、笑顔で話をしているスターキングデリシャスさんと金星さん

小さい頃を思い出す、スターキングデリシャスさん(写真左)と金星さん(写真右)

ピンクレディ

私たちりんご娘は、「地元・青森県の魅力発信」を第一の目的として活動しています。

私たちの楽曲は、青森県の文化や名物、風景、四季について歌っているものが多いんです。タイトルに「りんご」がついた曲もたくさんありますし、歌詞には普段私たちが話している津軽弁がたくさん使われています。

2025年3月にリリースされた、りんご娘の28thシングル“North End All Stars”。⻘森県40市町村の応援ソングとして書き下ろされており、歌詞には「はちすけ南部町」「十和田のバラ焼」といった地名や名物が登場する。

ピンクレディ

「アイドルとして成功したい」という想いももちろんありますが、それと同時に「私たちが愛する弘前市と青森県をアピールする」という目的を持っていることが、りんご娘の特徴であり、やりがいだと思っています。

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活動について語るピンクレディさん

—りんご娘は当初から地元・青森県の魅力発信を目標に掲げていました。樋川さんはどのような想いがあったのでしょうか。

樋川

最初から明確に、「地域産業・経済へ貢献できるアイドル」になることをめざしていました。
ここ、青森県弘前市の地域経済は一次産業、とりわけりんごに支えられています弘前市は、市町村別の果物産出額で全国トップを誇り、その額は約470億円*1そのほとんどをりんごが占めています。

第2位と第3位の地域はいずれも、桃やぶどうといった多品目の果実を生産しています。それをふまえると、ほぼりんご単体で全国1位となっている弘前のりんご産業の大きさ、地域産業にとっての重要性がわかると思います。

そして当然ながら、りんご産業は農業だけで完結するものではありません。輸送業、加工業、農機具の販売・整備など、さまざまな業種・業界がかかわり合いながら、弘前ならではの「りんご経済圏」をかたちづくっているのです。

僕はリンゴミュージックに加えて、親から継いだ自動車会社の経営もしているのですが、りんご農家さんの景気がいいと、軽トラックなどの車が飛ぶように売れるんです。逆に、りんごが不作だと車も売れないし、夜の街や繁華街も賑わないんですよね。

—一次産業を盛り上げることは、地域を盛り上げることにつながるわけですね。

樋川

そのとおりです。だからこそ、この地域のりんご産業や一次産業を応援するアイドルグループを立ち上げれば、農家さんにも喜んでもらえるし、結果として地域経済全体に波及効果が生まれると考えました。

農家さんを元気づけ、応援もしてもらう——そんな「Win-Win」の関係をつくり、最終的には経済効果を出す。最初から、弘前でアイドルグループを立ち上げる意味は、まさにそこにあると考えていました。

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りんご娘が地域経済に貢献するまでの歩み

—これまでりんご娘は、特産品や地元企業とのコラボレーション、ふるさと納税企画への参加など、まさに「地域経済を盛り上げる」活動を展開しています。当初から順調に進んでいたのでしょうか?

樋川

2000年のスタート当初からしばらくは、正直どこからも声がかかりませんでした。

転機が訪れたのは2011年です。東日本大震災により、東北の農家のみなさんは甚大なダメージを受けました。弘前も例外ではなく、地域経済は大きく落ち込みました。

そんなとき、弘前市役所の農林部長から「弘前りんごのために力を貸してもらいたい」と声をかけられたんです。当時のりんご娘メンバーが、行政主導のりんご販売促進キャンペーン『パワーアップる!弘前産りんごPRキャラバン』に同行して、全国9か所で実施されたPRイベントのお手伝いをさせていただきました。

このお話をいただいたとき「やっと使命を果たすときが来た」と、心の底から嬉しかったことを覚えています。

りんごPRイベントに登壇した当時のりんご娘のメンバー4人

『パワーアップる!弘前産りんごPRキャラバン』イベントの様子。当時の弘前市長と、当時のりんご娘メンバー(2011年撮影)

—まさに「一次産業に貢献できる」機会がやってきたわけですね。

樋川

そうですね。このイベントをきっかけに、農業やりんご産業を盛り上げるキャンペーンへの参加依頼など、行政からさまざまなご相談をいただくようになったんです。

また、青森県の民間企業さんにも「地元・青森県のアイコンとしてりんご娘を起用しませんか?」とお声がけしました。その結果、納豆やお豆腐メーカー、IT企業など、幅広い業種の地元企業から、コラボレーションの機会をいただくことができました。

こうして徐々に知名度を高め、いまでは県内外で「青森県を代表する存在」として認知していただいていると自負しています。

青い空の下で大勢の観客の前でパフォーマンスをするりんご娘

2025年9月、青森市内の青い海公園で開催された『RABまつり』に出演した際の様子

夜のステージで観客の前でパフォーマンスをするりんご娘

2025年8月、青森県板柳町の『りんご灯まつり2025』に出演した際の様子

ご当地アイドルだからこそできる地域での活動

—メンバーのみなさんは、活動をするなかでどんなときに地域に貢献できていると感じますか?

はつ恋ぐりん

リンゴミュージックでは、りんご農園地「スマイルファーム」を運営しているのですが、そこでファンの方と一緒にりんごの収穫体験をしたことが印象的でした。みなさんに、りんごの魅力や農業のおもしろさを知っていただくきっかけがつくれたのではないかと思っています。

あと、「りんご娘を見て、青森県を好きになった」「県外から移住した」という声を聞くと、地域から必要とされる存在になれているのかなと嬉しく思います。

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地域貢献について話をするはつ恋ぐりんさん

ピンクレディ

私は学校を訪問し、授業を実施しているときですね。これまでも文化祭などにお邪魔する機会はあったのですが、昨年度からは弘前市内の小中高校でSDGsに関する授業を実施しています。

—具体的に、どのような授業を実施しているのでしょうか?

ピンクレディ

主に、環境と生活のつながりに関する授業です。

たとえば、弘前市内のりんご産業の現状や農家の減少、それが地球環境や私たちの生活にどのような悪影響を及ぼすのかを、クイズなどを交えながら教えています。

教員免許などの特別な資格があるわけではありませんが、こうして子どもたちの前に立ち、お話をすることができているのは、地域の方々にこれまでの活動を認めていただいている証なのかな、と感じています。

樋川

先ほども申し上げたとおり、りんご産業の衰退は、弘前の経済全体の衰退を意味すると言っても過言ではありません。

そうした「弘前におけるりんご産業の重要性」や「経済の仕組み」を、りんご娘が子どもたちに教えることで、身近なりんごや弘前という街に誇りを持ってもらう。それも重要な活動の一つです。

小学校の体育館で、子どもたちの前で授業をするりんご娘

弘前市内の小学校で、りんご娘がSDGsの授業を行っている様子

—学校訪問はまさに、地域の人々とのつながりを実感できそうですね。

金星

こういった活動はぜひこれからも続けたいです。小さい頃に「青森県は面白くない場所だ」と思ってしまうと、大人になってからそのイメージを変えるのは難しいと思っていて。だからこそ、子どもたちにこそ地域に誇りを持ってもらいたいんです。

学校訪問では、青森県の魅力と課題の両方を伝えることで、「どうしたらこの地域を未来につなげていけるか」を考えてもらいたいそうすることで、これまで考えもしなかった将来の選択肢を見つけるきっかけになればと思っています。

胸の前で両手を握り、笑顔で話す金星さん

金星さん

移住や就農も促進。「役に立つアイドル」の真価と今後

—メンバーのみなさんとしては、今後、どのように活動していきたいですか?

金星

私はりんご娘の役目は、青森県にまだ来たことがない人に来てもらうきっかけをつくることだと思っています。

県外でのイベントやフェスに出演する機会はまだ限られていますが、ライブパフォーマンスなどを通じて魅力を伝えて、実際に青森県に足を運んでもらうきっかけを提供したいです。

ピンクレディ

私はご当地アイドルならではの「距離」を大切に活動を続けていきたいです。憧れの存在であったとしても、心は近くにありたくて。家族や親しい友人のように、この地域で生活をともにする存在でい続けたいですね。

パフォーマンスをしているりんご娘

青森県の伝統工芸「津軽びいどろ」の柄をイメージした衣装。赤や黄色、緑・ピンクといったりんごを意識したメンバーカラーになっている

—樋川さんとしては、どのようなアイドルグループに成長してほしいと考えていますか?

樋川

立ち上げ当初から変わらず、「役に立つアイドル」ですね。たくさんの方に曲を届け、元気になってもらうことも大切ですが、僕はプラスアルファの価値を届けたいんです。

たとえば、副業や移住。実際、りんご娘のファンになったことをきっかけに弘前を訪れるようになり、移住を決めたという人も数多くいます。

—りんご娘の活動が、移住者を呼び込むきっかけになっているんですね。

樋川

そうですね。コロナ禍を機に立ち上げたりんご農園地「りんご娘スマイルファーム」では、未経験者でも取り組みやすい「高密植栽培」という最新の農法を取り入れていて。この手法を取り入れれば、副業としてりんご栽培をはじめることができるんです。

これを私たちが実践して発信することで、リモートワークをしている方や、移住を考えている方に「自分もやってみたい」と思ってもらえればと思っています。

りんごの木が並んだ農園地で、作業着を着て作業をしているメンバー

りんご娘スマイルファームで、メンバーが木の手入れ作業を行う様子

—最後に、樋川さんが青森県で実現したい目標を教えてください。

樋川

2026年5月16日、弘前市の運動公園野球場(はるか夢球場)で『りんご娘 はるか夢スタジアムライブ“Dream Of Diamond”』を成功させることです。

青森の方々は、エンターテインメントを渇望しています。僕が若い頃、青森県では有名アーティストのライブは見られませんでした。2024年には、約5,000人を収容できるアリーナもできましたが、全国からファンが来るため、地元の人はなかなかチケットが取れません。

だからこそ、地元のスタジアムで1万人規模のライブを行い、地元の方々にその光景を見せたい。そして子どもたちに「青森県でもこんなことが実現できるんだ」と、夢を感じてほしいんです。

「りんご娘が1万人のスタジアムライブをやるなんて無謀だ」と言われることもあります。僕がりんご娘を立ち上げた頃も、「青森県でアイドルなんて、無理に決まっている」と言われ続けましたが、僕たちの挑戦は25年も続き、ここまで来ました。だからこそ、今回必ず地元・青森県で1万人スタジアムライブを成功させたいと思っています。

おまけ:りんご娘が紹介する、青森県のここが「推し」!

ピンクレディ

雄大な自然です! 白神山地や十和田湖などの有名スポットはもちろん素晴らしいですし、それ以外にも豊かな自然に触れられるスポットがたくさんあります。

青森県はいまでも四季がはっきりしていて、春夏秋冬、それぞれのよさを実感できるんです。それに、季節が次の季節へと移ろっていく際の「匂い」もちゃんと感じられるところが大好きです!

スターキングデリシャス

なんといっても、ご飯がおいしいところが「推し」です。仕事柄、全国各地を訪れる機会がありますが、しばらく青森県を離れていると、気づけば「青森県のご飯が食べたいな」と思っています(笑)。特に私が好きなのは、郷土料理の「けの汁」と「イガメンチ」です! 青森県にお越しの際は、ぜひ食べてみてください!

はつ恋ぐりん

どの季節に来ても、素晴らしいイベントがあることです! 春は『弘前さくらまつり』や『田舎館村田んぼアート』、夏はなんといっても『青森ねぶた祭』や『弘前ねぷたまつり』。秋のおすすめは『弘前城菊と紅葉まつり』、冬はぜひ『弘前城雪灯篭まつり』に行ってもらいたいです!

金星

私の推しは、青森県の「人」です。2024年に初開催した、リンゴミュージック主催の野外音楽フェス『RINGO MUSIC FES.』には、県外からもたくさんのアーティストに参加していたいたのですが、たくさんの方から「青森県の人たちは本当に温かいね」と言っていただきました。

地元の人からすると気づきにくいことかもしれませんが、青森県の「人のよさ」は本当に誇るべきものだと思っています。

この記事の内容は2026年1月27日掲載時のものです。

Credits

執筆
鷲尾諒太郎
撮影
三輪卓護
編集
牧之瀬裕加(CINRA, Inc)

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