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地域ブランドの伴走者、金谷勉。「ものづくり」の底力を引き出すデザインの視点とは?

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日本のものづくりを支えてきた中小企業の強みを活かして、愛されるブランドをつくる。

全国各地に根づいてきた伝統工芸や技法。現在、そうした地域産業のなかには、後継者不足や人々の生活様式の変化による需要の減少などにより、古くから受け継がれてきた歴史に幕を下ろす事業者も少なくありません。

そんななか、地域産業のビジネスに正面から向き合っているのが、デザイン会社「セメントプロデュースデザイン」の代表取締役を務める金谷勉さんです。

年間200日以上、日本各地の町工場や工芸の現場を巡り、事業者の悩みに耳を傾けるという金谷さん。「新事業開発ゼミ」や「商品開発プロデュース」などの取り組みをとおして、地域でものづくりを行う企業に伴走し、商品開発から販売までをトータルに支援しています。こうした活動が、中小企業の持続的な成長を後押ししているのです。

そんな金谷さんに、伝統工芸をはじめとした地域産業の課題を解決するにあたって必要となる視点をうかがいました。

地域の職人とデザイン事務所。小さな者同士がタッグを組んだ

―金谷さんが地域の中小企業と協業してものづくりに取り組むようになったきっかけを教えてください。

金谷:セメントプロデュースデザインはもともとグラフィックやウェブ、プロダクトのデザインを主に手がけていたので、ゼロから商品を生み出すという意味での「ものづくり」は行っていませんでした。ただ、地域の中小企業から相談をいただくうちに、みなさんが困っているのは商品のデザイン面に限らないことがわかってきました。

地域のものづくり企業はどこも優れた技術を持っていて、依頼に対して素晴らしいクオリティの製品を生み出すことができます。一方で、こうした中小企業が受注するのは下請けとして任される仕事が多く、コスト競争に飲み込まれるリスクが大きく、持続可能な経営が難しいという課題を抱えていました。

こういった背景から、せっかく素晴らしい技術があっても、その強みを存分に活かしたものづくりができずにいるのではないかと感じました。

そこで私は、デザインだけではなく、商品を「作る」ところから「売る」までを一貫してプロデュースしたいと考えるようになりました。地域の職人さんとタッグを組んでものづくりを行うことで、単なる下請け会社という位置付けから脱却し、持続可能なビジネスとして自立するサポートができればと思ったんです。

金谷勉

セメントプロデュースデザイン代表の金谷勉さん

金谷:そこで、2011年より「みんなの地域産業協業活動」と銘打ち、全国の地域の中小企業や事業者と一緒にものづくりをする取り組みをはじめました。

わかりやすくいうと、伝統ある中小企業の技術を活かして、新しい商品をつくる。それをどのように世の中に伝え、販売するかについて、みんなでアイデアを出し合い、一緒に考えることでビジネス全体をプロデュースする取り組みです。

金谷勉・みんなの地域産業協業活動

「みんなの地域産業協業活動」この活動を通じて、700種類の商品の開発および流通の伴走支援を進めてきた。(画像提供:金谷勉さん)

会社の強みを活かしてビジネスをブランド化していく

―今回は墨田区にある「コトモノミチ at TOKYO」におうかがいしていますが、この店舗はどのような経緯でつくられたのでしょうか。

金谷勉・コトモノミチ at TOKYO

「コトモノミチ at TOKYO」

金谷:このコトモノミチは、日本各地の工場や職人さんとワークショップやものづくり体験を通じて交流できるショップとして、2019年にオープンしました。お店を持たない職人さんや工場の方たちにとって発信拠点となる場をつくりたい、という発想から生まれたものです。そのため、店舗やオンラインストアでは「つかい手がつくり手の想いを買うことで応援する」という流れをつくることができるように、商品のストーリーを丁寧にお伝えすることを大切にしています。

なぜ墨田区を選んだかというと、墨田区はいち早く中小企業振興に取り組んだ行政区で、私自身も2014年に墨田区が主催しているものづくり支援プロジェクト「ものづくりコラボレーション」(2021年に「すみだモダン」にリニューアル)にコラボレーターとして参加したことでご縁が生まれたんです。

それを機に、墨田区の職人さんや製造業者の方々との交流も増えました。そうした交流のなかで2018年に墨田区の「新ものづくり創出拠点」に採択され、「コトモノミチ at TOKYO」のオープンにつながりました。

このような中小企業振興事業を行うときは、どうしても外郭団体に一任せざるをえない行政区も多いと思うのですが、墨田区は専門部署をつくって直接取り組んでいたんです。そこに私は驚きました。だからこそ墨田区はどの行政区よりも地域のものづくり産業の魅力や内情を理解していると感じますし、地域のなかでものづくりに参加したい人同士をつなぐ体制も充実していると感じています。

―これまで金谷さんが手がけた地域産業における商品開発のなかで、特に印象的な事例をご紹介いただけますか。

金谷:印象的な事例でいうと、福井県鯖江市にあるメガネ素材加工メーカーと共同開発した「Sabae mimikaki(鯖江耳かき)」ですね。これは『GOOD DESIGN AWARD 2013』でGOOD DESIGN賞を受賞しました。

金谷勉・Sabae mimikaki

「Sabae mimikaki(鯖江耳かき)」パッケージにプリントされている顔にメガネがかかる、遊び心あふれるデザイン

金谷:鯖江市はメガネの産地として有名ですが、実は「メガネ」そのものをひとつの会社が生産しているわけではありません。素材の仕入れや加工技術に特化している600社以上の小さな会社が集まり、それぞれが分業してメガネの各パーツを製造しているんです。

「Sabae mimikaki(鯖江耳かき)」をつくった株式会社キッソオさまはメガネ素材の総合商社です。イタリア、フランス、ドイツからメガネのフレームやレンズの素材を輸入していたのですが、当時はメガネ業界が低迷しはじめ、取り扱っていた素材の注文が減少していました。そこで、自社の特徴であるカラフルな素材を活かしたアクセサリーの企画・製造など、新たなビジネス展開によって活路を見出そうと、さまざまな方法を模索されていました。

そうしたなかでご相談をいただき、社内で商品開発に向けたいろいろなアイデアを出し合いました。材料であるセルロースアセテートは原価が高いため、できるだけ使用量を抑えながらも、メガネという枠組みにとらわれず、この素材の魅力を最大限に引き出せるものは何かと考えました。そこで、「何か出張に持って行けるようなグッズがいいな。耳かきなんかどうだろう」と閃いて。

耳かきは1本の棒ですから、素材の使用量が少なくて済み、原価も抑えられます。何より、メガネのテンプル部分の加工技術を活用できるため、新たな設備投資も特別な技術も必要ありません。1枚の板から効率よく削り出すことができ、素材の無駄がない点も決め手になりました。

メガネのテンプル部分を耳かきに発展させるには、従来の「当たり前」からちょっと外れて、これまでのやり方を別の角度から見直す必要がありました。そういうとき、私たちのようなその業界に属していない第三者の視点が、案外役に立つことがあります。

そこから商品化を進めていったのですが、小さな工場・ロットで品質やデザインにこだわって製造しようとすると、コスト高になり、一般的な耳かきの相場よりも高額となる4,000円以上の販売価格になることが判明しました。

であれば、その値段でも買っていただけるようなブランディングをしようと。パッケージからメガネの産地でつくられた耳かきであることを知ってもらえるように、遊び心を入れたデザインを施しました。これがヒットしたのをきっかけに、その技術を応用した爪切りや靴べらも開発し、「Sabaeシリーズ」としてブランド化、担当部署であるアクセサリー事業部の売上は5年で12倍に拡大しました。

正直、生み出す商品はどんなものでもいいんです。ただ、その会社が持つ技術や伝統といった強みを打ち出すことで、ビジネスをブランド化していくことが重要だと考えています。

金谷勉・Sabaeシリーズ 爪切り

「Sabaeシリーズ」メガネの素材「セルロースアセテート」を活用したカラフルな爪切り(画像提供:金谷勉さん)

―墨田区の「ものづくりコラボレーション」で生まれた事例もご紹介いただけますか。

金谷:今日の私のジャケットに合わせている、香りを楽しむアロマピンズ「ALMA(アルーマ)」は、東京都葛飾区でゴム成形用金型の設計製造会社として、金型の成形・製造を行ってきた株式会社石井精工さまと共同開発した商品です。

金谷勉・アロマピンズ「ALMA(アルーマ)」

香りを楽しむアロマピンズ「ALMA(アルーマ)」

金谷勉・アロマピンズ「ALMA(アルーマ)」

ALMAの着用イメージ(画像提供:金谷勉さん)

金谷:この会社は精巧な削り出しの技術を得意としているのですが、食器などの大きな商品で技術を活かそうとすると、素材費や加工のコストが上がってしまうんです。そこで、小さなサイズの商品を開発できないかと考えたところ、ボタンモチーフのピンズが思い浮かびました。ただのピンズではなく、中にコットン玉を入れて、アロマオイルや香水を染みこませて香りを楽しめるアクセサリーにしたら好評となり、同じ構造で女性向けのピアスもつくりました。

さらに、「商品バリエーションを増やし、販売機会を広げられないか」という考えから、この現場ではできないアルマイト加工(着色技術)を、隣接する葛飾区の工場と連携して実現し、多彩なカラー展開が可能となりました。

このプロジェクトは、株式会社石井精工さまにとって初の一般消費者向け商品開発でもあり、金型職人たちの新たな挑戦の第一歩でもあります。

会社の「顔」になるフラッグシップ商品を開発することがカギ

―数々の商品開発に携わられてきたなかで、どのような困難や課題がありましたか?

金谷:先ほどお話ししたように、地域産業は、技術は優秀であるものの、会社の顔となるようなプロダクトのデザインが難しい点は大きな課題でした。

そのほかにも、二つの課題がありました。ひとつは地域の企業では、先代が新しい取り組みに消極的で、後継者とのあいだに軋轢が生まれてしまうケースです。もうひとつは採算面において、技術をビジネスとして成り立たせる力が欠けていたことです。

その問題を実感したのは、京都府の若手職人育成プロジェクト「京都職人工房」でのことでした。このプロジェクトは2012年から2021年まで10年間実施されましたが、私がはじめて担当した2013年のゼミには15名が参加しました。内容としては、われわれが手がけた商品開発の流れを職人さん向けに教えてほしいという依頼だったのですが、私にとってもはじめての商品開発ゼミだったので、手探りで進めていきました。

金谷勉・京都職人工房

京都府染織工芸課と開催している実践形式の事業講義「京都職人工房」。主にものづくり企業の職人さんを対象に、現状の事業分析から自社のブランディングに必要なプロセスを辿り、自社のPRや課題解決の伴走を行う。(画像提供:金谷勉さん)

金谷勉・SOMEA

京都職人工房をきっかけに誕生した革友禅ブランド「SOMEA」(画像提供:金谷勉さん)

金谷:ゼミに参加している職人さんと交流するなかで、商品の価格を設定する際に、原材料費は原価に組み込んでいるけれど販売管理費を組み込めていないケースなどもあり、ほとんど利益が出ていないこともあると知りました。

それまで、私は伝統工芸品といえばデパートで高い価格で販売されているのを目にすることが多く、「儲かっている」というイメージがあったのですが、実際は採算が取れていないケースも多かったんです。

―そうした課題に対して、金谷さんはどのようにアプローチしていったのでしょうか。

金谷:一旦ものづくりをする手を止めて、職人さんたちに自社の従業員数や売上といった、事業に関する具体的な数字や状況を整理するカルテの作成をお願いし、事業の採算面を「見える化」しました。

その結果、事業を持続的に運営する視点でものづくりを行う職人さんが少ないということが明確になりました。そこで、自分たちで商品をプロデュースする際に、工程を減らしたりコストを抑えたりする工夫を自分たちで模索し、持続可能な事業を展開できる方法を一緒に考えながらゼミを進めていきました。

こうした取り組みを長年行うことで、私も地域の方々と伴走しながら商品開発するというプロセスを自分の強みとして構築することができたと思います。

金谷勉・江戸切子小物入れ「切匣(きりはこ)」

墨田区の廣田硝子による江戸切子の小物入れ「切匣(きりはこ)」

―そうした経験から得た知見などをお聞かせください。

金谷:商品をどう売るかも大事ですが、目の前の商品の売上だけにフォーカスを当てていても、会社を持続的に経営していくのは難しいんですよね。新商品をきっかけに、その会社の本業に結び付く資金流入を生み出すことが大切なんです。先ほど例に挙げた鯖江市の株式会社キッソオさまでいえば、「Sabaeシリーズ」だけで売上が増えたわけではなく、その商品が「顔」になり「旗印」になることで、その会社の得意な技術が世間に認知され、新たな仕事が入ってくるようになったんです。

また、地方企業の場合は、高齢化や後継ぎ不足などの課題が深刻です。そこで企業の技術力をPRしつつ、若年層にリーチできる商品開発にも注力し、Uターン・Iターンを含む働く世代を獲得することも、会社が存続するうえでは大切なポイントです。

もちろん、すぐに結果が出るわけではありません。たとえ商品がヒットしたとしても、継続的な会社の未来を見据えていないと、商品開発を通じて得られたノウハウや哲学が定着しないということです。

金谷勉

―商品開発を通じて会社の士気も上げるということですね。

金谷:はい。そのために、私は開発した新商品でデザイン関連の賞や地場産業関連の賞などを獲ってもらうことも重要視しています。客観的な評価が見えないと、自分たちがどういう動きをしているのかが社員にはわかりませんから。賞を受賞することによって、自分の会社の価値を知ることができるんですよね。

そうすると、次はこういうことをやってみようと新たな動きも出てくるし、社内の期待値も上がる。ふるさと納税品にも選ばれやすくなるし、ときにはローカルのテレビ局や地元の映画館で自社のCMが流れることもあります。

それを見た人たちが、地元でこんな取り組みをしているんだと知ることによって、思わぬところからイノベーションや共創の輪が広がる。仕事内容を伝えるのが難しい職人さんたちも、賞やCMをとおして家族に会社のことを知ってもらえることでQOL(クオリティ・オブ・ライフ)も上がる。また、会社のブランド価値の向上にもなり、雇用にもつながっていくんです。そうした、自分たちの活動が何につながったかという結果を社員全員にわかるようにしてあげるのも、デザインの仕事のひとつだと思います。

金谷勉・STEN FLAME

熊本県の丸山ステンレス工業の自社アウトドアブランド「STEN FLAME」。焚き火台としても、グリルとしても使え、災害時には人々の希望の灯になるようにという願いを込めたプロダクト。世界に発信したい日本ならではの魅力あふれる製品として『OMOTENASHI Selection(おもてなしセレクション)2021』を受賞(画像提供:金谷勉さん)

異業種の「熱」をかけ算することで、新しいものづくりが生まれる

―これから、地域産業を未来につなげていくためにカギとなる具体的な取り組みは何だと思われますか?

金谷:会社同士の横のつながりも必要だなと思います。ただ、地域内の同業種同士って、ライバルでもあるので仲良くしにくいんですよね。その一方で「近くの異業種」や「遠くの同業種」ならパイの取り合いにならないので、仲良くなりやすい傾向があります。そういう方たちのコミュニケーションの場を大切にするために、われわれは各地で異業種交流会を開いています。異業種のかけ算をして、熱量の高い人同士をつないでいく。それがきっかけで新しい取り組みやものづくりが生まれているんです。

金谷勉・LOBBY

異業種交流会「LOBBY」での懇親会の様子(画像提供:金谷勉さん)

―最後に、ご自身としての今後の目標や、めざしていることがあればお教えください。

金谷:地域産業の活性化を考えるうえで、現状では圧倒的に現場を取り仕切るプレイヤーが足りていないと感じています。個人的にこれから特に期待しているのは、金融の力です。事業を興すにも拡大するにも資金援助は不可欠であり、その要となるのが金融機関です。だからこそ、大手企業と中小企業をつなぐプロデューサー的な人材を金融機関に増やしていけたらいいなと思っています。

金融機関も地元企業が潤わないと、将来的に自分たちも苦しくなるじゃないですか。信用金庫などは地元のことにも詳しいですし、資金提供だけでなく多角的な視点を持ったプレイヤーを増やすことで共創する。そうやって地域の困りごとは地域で解決して、資金を活かすやり方を模索していきたいですね。

ただ、これをやればという正解はありません。まずは自分たちの技術を知ってもらうために、新しい視点で出口やきっかけを生み出す。それによって共創が生まれて、地元も盛り上がる。そのすべてがデザインプロデュースなんです。そうやって、いろんな人を巻き込んでいける人材や場を増やして、地域を強くしていく土壌づくりを進めていくことが今後の目標ですね。

金谷勉

この記事の内容は2025年5月20日の掲載時のものです。

Credits

取材・執筆
猪口貴裕
写真
二瓶彩
編集
exwrite、CINRA, Inc.