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地域住民をつなぐ「新しいお祭り」の力。現代における祭りの意義とにぎわいのつくりかた
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神奈川県・葉山町にある真言宗のお寺・玉蔵院(ぎょくぞういん)。約1250年の歴史を誇るこのお寺で、5年前から移住者や地域住民がともに手がける『花まつりWEEKEND』というお祭りがはじまりました。
近年、こうした地域コミュニティが主体となり、世代や立場を越えて一緒につくりあげる新しいスタイルのお祭りが、全国各地で生まれ、その存在感が高まっています。
今回は、そんな『花まつりWEEKEND』を主催する玉蔵院住職・本多法仁さんと堀出隼さん、そして、全国500件以上のお祭りを支援してきた株式会社あっぱれ・代表取締役の山本陽平さんの3人に、地域におけるお祭りの役割と未来について、じっくりと話を聞いていきます。
歴史あるお寺からはじまったお祭り、『花まつりWEEKEND』

『花まつりWEEKEND』の入口風景(撮影:ニシウラエイコ)

来場者でにぎわう『花まつり WEEKEND』会場の様子(撮影:ニシウラエイコ)
【『花まつり WEEKEND』とは】
天平勝宝年間(749~757年)に創建された真言宗のお寺・玉蔵院で、2021年からはじまったお祭り。ブッダ(釈迦)の誕生日(4月8日)を祝う伝統行事『花まつり』を、現代風にアレンジしている。
会場では、「甘茶かけ」など花まつりにちなんだ体験のほか、本多法仁住職による紙芝居や、煩悩にちなんだ映画を上映する「煩悩シネマフェス」、さらには切り絵やお面づくりのワークショップなどが行われる。個性豊かなショップも出店していて、仏教に親しみながら楽しめるお祭りとなっている。

本多法仁住職によるイベント「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」で紙芝居を上演する様子(撮影:ニシウラエイコ)

「煩悩シネマフェス」で『はじめての映画(2021年)』を鑑賞する来場者(撮影:ニシウラエイコ)
―『花まつり WEEKEND』は、歴史ある玉蔵院での新しいお祭りですが、どのようにしてはじまったのでしょうか。
堀出:玉蔵院では、5年前にはじめた『花まつりWEEKEND』以前からおもしろいイベントを多く開催されていました。そのうちのひとつ「おてらヨガ(お寺本堂でプロ講師の指導によるヨガを楽しめるイベント)」に参加したときに、私と本多住職が知り合ったのが最初のきっかけです。
本多 住職:僕はその少し前から副住職として玉蔵院にいたのですが、「おてらヨガ」の参加者のみなさんとは自然とお話する機会が多くて。堀出さんとも何度か話をするうちに、「お寺の『花まつり』をもっといろんな方に知ってほしいんですよね」とポロリとこぼしたところ、「お寺で新しくお祭りをやるのはどうですか」という話になってスタートしました。
―お寺における『花まつり』とは、そもそもどういった仏教行事なのでしょうか。
本多 住職:『花まつり』は、お釈迦さま――つまり仏教の開祖・ブッダの誕生日をお祝いする行事で、毎年4月8日に行われます。多くのお寺で法要が行われ、小さなブッダの像に、無病息災をもたらす甘茶をかけたり飲んだりする風習があります。

『花まつりWEEKEND』主催者で、玉蔵院住職を務める本多法仁さん

玉蔵院の本堂で小さなブッダの像に甘茶かけをおこなう子ども(撮影:ニシウラエイコ)
堀出:僕は本多さんから『花まつり』について教えてもらうまで、ブッダの誕生日がいつってことも知らなかったんです。きっと、この記事を読んでいる人もそういう方は多いんじゃないかな。
本多 住職:たしかに、一般的な知名度は低いかもしれないですね。でも、4月8日の花まつりはお寺にとっても檀家さん方にとっても大切な日。
もうちょっと世間一般の方にも知ってもらえたらなぁ、という気持ちを、PTA会長を務めていた流れで、地元小学校のオリジナルグッズのデザインを長年担当するなど、葉山でいろいろな活動をしている堀出さんに伝えたところ、「やりましょう」と即答してくれて。そこからあっという間にパンフレットができ、出店してくださる方々が集まっていきました。

『花まつりWEEKEND』の歴代チラシ。親しみを持てるように、それぞれ開催回数にダジャレをかけたコピーを制作している
―『花まつりWEEKEND』の第一回は、2021年4月に開催されたそうですね。当時はコロナ禍の真っ只中で、開催にあたって壁もあったのではないでしょうか。
本多 住職:堀出さんの力もあって、準備自体は意外とスムーズだったんです。準備期間も3か月〜4か月くらいで、運営チーム4人がぎゅっと濃密に動いていたので。とはいえ、やっぱりコロナ禍だった当時は「人が集まるお祭り」をつくることに批判の声もありました。
あの頃って、楽しいことがほとんど制限されていましたよね。もちろん、人は楽しくなくても生きてはいけます。でも、やっぱり生きていくうえで、人は楽しい場所に惹かれるものだと思っていて。
もちろん、公共の場でのイベントとなると、少しでもリスクを避けなくてはいけないという状況でした。ただ、ここは「地元のお寺」という、半分公共で、半分プライベートのような場所。お寺ならほんの少しくらい人々に楽しい場所を提供してもいいかなと思い、開催を決めました。
堀出:僕が感じた壁でいうと、そもそも「お寺で新しいお祭りをやっていいの!?」という驚きがありました。
玉蔵院は、葉山で一番の歴史があるお寺です。移住者である自分が、そこで「新しいお祭り」をやらせていただくなんて、少しおそれ多いなと。しかも、僕が出すアイデアは結構現代的でポップなイメージでした。でも、本多住職はすぐ「いいですね、やりましょう」と受け入れてくれて、結果的にすぐかたちになりました。

『花まつりWEEKEND』プロデューサーの堀出隼さん
本多 住職:そもそもお寺って、法要やお参りのときにだけ行く場所だと思っている方も多いと思うんですよね。でももっと日常的に、地域の人に気軽に足を運んでもらいたいと考えていました。
堀出:『花まつりWEEKEND』には、そうした「お寺=ハードルが高い」というイメージを少しでもやわらげたいという想いも込めています。玉蔵院の持っている、心地いい空気感を、もっと地元の人に感じてほしいなと思いますね。

『花まつりWEEKEND』出店者の前で朝礼の話をする堀出さん(撮影:ニシウラエイコ)
新しいお祭りは地域をつなぐきっかけになる
―『花まつりWEEKEND』のように、最近は各地域で「新しいお祭り」が誕生することも増えていると聞きました。さまざまな地域のお祭りや無形文化を支援する山本さんとしては、この流れをどのように見ていますか?
山本:そうですね、やはり新しいお祭りの立ち上げは近年増えていると感じます。僕はこれまで、規模の大小や伝統の長さを問わず、500件以上のお祭りを支援してきましたが、昔から続く伝統的なお祭りと新しいお祭りには大きな違いがあるんですよね。
もともと、太古におけるお祭りは「神さまとの交流」を目的に行われていました。五穀豊穣や子孫繁栄のために祈り、時代が進んで人口が増えたことで疫病が流行ったら、それを鎮めるために『祇園祭』のような祭りができて……みたいに、宗教的な意味合いが強かったんです。

株式会社あっぱれ 代表取締役 山本陽平さん。 NTT東日本 地域循環型ミライ研究所の客員研究員も務めている
山本: しかし、近代に入ると、神さまとの交流を目的とするお祭りは、少しずつ減っていきます。その代わりに、地域経済の活性化や住民同士の交流を目的とした、より現代的なお祭りが生まれてきました。
たとえば、『阿波踊り』や『よさこい』。あれらは神事ではなく、人のつながりや地域のコミュニティづくりを目的としています。いわば「神さまのいないお祭り」ですが、そうしたお祭りも、いまではすっかり定着していますよね。
―なるほど。お祭りそのものの開催意義が変わってきているということですね。
山本:そうなんです。本来は「狂気に近い熱狂」こそが、お祭りの原点であり、地域住民にとって特別なものでした。たとえば、危険性が伴う昔のお祭り……だんじりや火祭り、裸祭りなどももちろん素晴らしいのですが、こうしたお祭りを現代に新しくはじめる、となるとなかなか難しいともいえます。

大阪府岸和田市で毎年9月に開催される「岸和田だんじり祭」の様子。重量約4トンの「だんじり(山車)」を氏子たちが一丸となって曳き回し、狭い街角を勢いよく曲がる「やりまわし」では、観客から大きな歓声が上がる。江戸時代中期にはじまったとされ、五穀豊穣を願う秋の祭礼として、いまも受け継がれている(画像提供:岸和田市)
本多 住職:たしかに。やり手の募集も大変そうですね。
山本:おっしゃるとおりです。そういった全国各地に残っている伝統的なお祭りに対して、いまの時代に合わせて、現代ならではのコミュニティづくりを目的にした、いわゆる「市民まつり」と呼ばれるような、新しいお祭りも共存しているのがいまの日本。それぞれの目的や良さがあるので、どちらも地域で存続してほしいと思っています。
ちなみに、現代ならではのお祭りでいうと、タワマンの夏祭りのような新しい需要も高まっているんですよ。
堀出:それは、同じタワーマンションに住む住民同士のつながりを生みたい、という目的なんですか?
山本:そうですね。都会のタワーマンションでは特に、隣に誰が住んでいるのかもわからない、なんてことも珍しくありません。でも、夏祭りのようなイベントがあることで、はじめて顔を合わせる機会ができたり、それがきっかけで仲良くなれたりする。住民同士の関係性をつくる「潤滑油」として機能しているんですね。
特にいまは、転勤などで新しく地域に入ってきた人が「どうやって地域に入っていけばいいかわからない」と感じることが多いかと思います。そういうときに、入り口としてのお祭りがあるのは、地域コミュニティをつくるうえでも非常に有効だと思います。

『花まつりWEEKEND』内のイベント「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」で、本多法仁住職が絵本の読み聞かせを行う様子(撮影:ニシウラエイコ)
―ちなみに、お祭りと似たもので「イベント」があるかと思いますが、どのような違いがあるのでしょうか?
山本:よくある商店街のイベントや音楽フェスなどがイベントにあたると思いますが、私としては「継続性」と「地縁性」が、お祭りとの大きな違いだと考えています。
イベントは、たまたまその場所を借りて開催されることも多く、地元の人が十分に関われないこともありますし、単年度で終わってしまうことも少なくありません。多くの場合、商業的な前提があり、資金が尽きれば終わってしまうこともあります。
一方でお祭りは、基本的には損得を超えたところで行われるものです。経済合理性や資本主義とは切り離されたところで続いてきた、そうした営みこそがお祭りで、イベントとは大きく違う点だと考えています。
お祭りをはじめるにあたって重要なのは、「境界」に立てる存在
―山本さんから見て、新しくお祭りをはじめるときに、壁になりやすいものはなんでしょうか?
山本:お祭り開催において、一番の壁になりがちなのは、やはり「資金繰り」です。もともと昔から続くお祭りの多くには、必ずといっていいほど、行政や政界にも通じている地元のパトロンがいました。財をなした人が周囲に対して見栄を張る目的もあって、地域文化に投資をしていたんですよね。
しかし、新しいお祭りの多くにはパトロンがいません。また、お祭りそのものにあからさまに商業性があったら、それは営利イベントになってしまう。そのため、特に新しくはじめるお祭りにおいては、金銭面以外の部分に意味を見出す必要があると思います。
実際に、開催を続けることが目的になってしまっているお祭りが、コロナ禍を経て「終活に踏みきる」という事例も多かったんです。楽しさよりも苦しさが上回ってしまった地域が、この機に「なるべくハッピーエンドで解散しよう」と。人手や予算といった、限られた地域のリソースを、他の地域活動に回すこともできます。

本多 住職:お祭りの終活ですか……。私も『花まつりWEEKEND』を主催して気づいたのですが、たしかに、お祭りの開催ってとてもめんどくさいんですよね(笑)。時間も手間もかかりますし、もちろん金銭面は大きな課題ですよね。
うちの場合は、お祭りをお寺を知ってもらうための「広告」ととらえて資金を工面していますが、お祭りにおいては資金集めに奔走できる、ある程度地域で顔が知られている方も必要だなと感じます。
山本:おっしゃるとおりです。昔から続いている地域の小さなお祭りで、資金集めを担っていた高齢の方が「そろそろ代替わりしたい」となっても、結局後継となる方が見つからず、お祭りが途絶えてしまうということもよくあるんですよ。無理してやっても地域のリソースなんて決まってるので、なんかそこ分散しちゃうだけですから。

堀出:新しいお祭りならなおさら、その部分で挫折してしまう方は多いでしょうね。
―そういった壁を乗り越えるために、どういった要素がカギになるのでしょうか?
山本:新しいお祭りをはじめるにあたって、まず必要なのは、「地元とのつながりを持ちつつ、地域住民と外から来た人とのあいだに立てるキーマン」なのだと思います。
地域におけるすべての決定権がなくても、ある程度声をかけて人を巻き込めるような立ち位置にいることが大切なんです。イメージとしては、地域の「内」と「外」のちょうど境界あたりに立っているような人ですね。
『花まつりWEEKEND』の場合、まさに堀出さんがその存在だったのではないでしょうか。葉山への移住者でありながら、地域に根ざして活動しているので地域とのつながりが強い。そのバランス感があったのが大きかったのではないかと思いますね。
堀出:僕自身、葉山には移住してきた立場なんですが、そもそも葉山は僕のような移住者が多い街なんです。
『花まつりWEEKEND』も、もし地元に昔から住んでいる「内」の人だけでやっていたら、排他的で近寄りがたい雰囲気になっていたかもしれない。かといって、「外」の人である移住者だけで盛り上がってしまったら、それは葉山という地域に向けたお祭りではなくなってしまう。地域に根づいた歴史あるお寺で、地元の人と移住者が自然に交ざり合うようないいブレンド感でできているのが『花まつりWEEKEND』なのかもしれませんね。
本多 住職:玉蔵院としても、「地元で最も古いお寺」というローカルな場所を地域に開くことで、どんな人でも参加・活躍しやすいお祭りになるのではないかと思っています。

お寺の敷地が開かれた、『花まつりWEEKEND』の様子(撮影:ニシウラエイコ)

地域にちょっとした「ハレの日」を届ける存在になれたら
―5年目を迎えた2025年4月の『花まつりWEEKEND』も、大盛況のうちに終えられたとうかがっています。来年も開催は予定しているのでしょうか?
堀出:僕はやりたいですね(笑)。ただ、『花まつりWEEKEND』は、僕と本多さんを含め、4人の少人数で主催していて、毎年準備をはじめる前に、お互いの気持ちをたしかめているんです。「今年はどうする?」といった風に、お祭り開催に対する4人のモチベーションや状況を確認しあったうえで、そこでやりたいとなったらやろうと思って。

本多住職と仲が良く、HOJIN(本多さんの下の名前・法仁より)オリジナルTシャツをつくったという堀出さん

HOJINオリジナルステッカーも制作して配っているとのこと
―やはり主催者側も楽しい、ということがお祭りにおいては重要なのかもしれませんね。
本多 住職:そうですね、日本古来の世界観において「ハレとケ」というものがあります。「ハレの日(非日常)」のために「ケの日(日常)」がある。みんなやっぱり「ハレの日」を楽しみにするのですが、それよりも大事なのは「ケの日」なんです。
お祭りの準備期間、つまり「ケの日」において、楽しさよりつらさが勝ってしまったら、それはせっかくの「ハレの日」であるお祭りそのものもネガティブなアウトプットになってしまう。僕らはいま、すごく楽しんで『花まつりWEEKEND』をやっているけれど、続けること自体が目的になってしまわないようにしようと思います。
山本:『花まつりWEEKEND』はその点で、非常にうまくいっている例なのではと感じますね。楽しんでお祭りを開催できているうちは、それこそ「ハレの日」の楽しさを伝える目的が達成できているとして、存続していけるのだと思います。
自分たちでお祭りをつくりあげる楽しさを都度確認したり、地域性や多様性の共存をあらためて楽しんで、『花まつりWEEKEND』が長く続いていくといいなと思っています。
本多 住職:そうですね。これからも『花まつりWEEKEND』が、葉山に長く住まう人や移住者、また外からいらっしゃるみなさんに、ちょっとした「ハレの日」の楽しみを届けられる存在でありたいですね。
山本:地域にとって、お祭りは特別な日ではあるけれど、日常に寄りそう存在でもあると思います。規模が小さくても、自分たちで「楽しい」と思えて、続けていけるお祭りこそが、地域に寄り添い長く続いていけるお祭りなのかもしれませんね。

この記事の内容は2025年8月5日掲載時のものです。
Credits
- 取材・執筆
- 山口真央
- 撮影
- 佐藤翔、ニシウラエイコ
- 編集
- 牧之瀬裕加(CINRA,Inc.)