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「IOWN」とは?大阪・関西万博で使われている事例から未来のネットワーク構想を学ぶ

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「これまでと比べて消費電力を100分の1、通信容量は125倍、さらに通信遅延は200分の1!?」。そんな夢のような通信環境が実現できるものとして注目されているのが、NTTの提唱する次世代情報通信基盤構想「IOWN(アイオン)」です。2025年の大阪・関西万博でも実際に導入されていることを、皆さんはご存じでしたか?

「大好きな地元に貢献したい」という想いが強い中学生コンビ、めぐり&カンタによる連載「基礎から学ぶ、地方創生にまつわる単語帳」。地方創生について猛勉強中の二人が、地域の未来を輝かせるためのヒントになりそうなキーワードを学んでいきます。

今回、二人が学ぶ単語は「IOWN(アイオン)」。未来の社会インフラ基盤として期待がかかる次世代情報通信基盤構想について、NTTの佐藤優さんにお話を聞きました。

消費電力が1 / 100に! NTTが提唱する未来の情報通信基盤構想「IOWN」とは?

地元を愛する中学生・めぐりのイラスト

めぐり

この前ニュースで、大阪・関西万博に「IOWN(アイオン)」が使われているって聞いたんですが、どういったものなんでしょうか?

佐藤:IOWNとは「Innovative Optical and Wireless Network」の略称で、NTTが提唱している次世代を担う情報通信基盤の構想のことです。一つの技術を表す言葉ではなく、複数の先端技術を統合して構成されています。

万博で導入されているIOWNの、主なテクノロジーを解説

万博で導入されているIOWNの、主なテクノロジーを解説

地元を愛する中学生・カンタのイラスト

カンタ

難しい単語が並んでいるなぁ……。いままでとなにが違うんですか?

佐藤:これまでのインターネットでは、「電気信号」を使って情報の処理や通信が行われてきました。一方、IOWNではこれらの処理や通信を「光信号」で行うことをめざしています。

情報を伝える仕組みに光信号を使うと、大きく3つのメリットが生まれます。

<IOWNが叶える3つのメリット>

1. 大容量のデータを一度に高速で送れる
2. 通信の遅延がほぼなくなる
3. 通信に必要な電力を大幅に削減

佐藤:理想的な環境が整えば、従来と比較して一度に送れるデータの容量は最大125倍、通信の遅延は1 / 200、消費電力は1 / 100にまで抑えられると推計されています。

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めぐり

たくさんのデータ量を送れるのに、遅延や電力消費は減るの!?

IOWN構想が生まれた社会的な背景とは?

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めぐり

IOWN構想が立ち上った背景には、どのような課題感があったのですか?

佐藤:近年、スマートフォンの普及やIoT機器の拡大、生成AIの台頭などの影響で、人々が使用するデータ通信量が爆発的に増えています。インターネットの1秒あたりの通信量を見てみると、世界では2010年からの約15年間で90倍(*1)、日本では2006年からの約20年間で190倍(*2)になったと推計されています。

インターネットの1秒あたりの通信量の比較(日本 / 世界)

佐藤:このようなデータ通信量の急増は、今後も深刻な問題になっていくと予想されています。たとえばIEA(国際エネルギー機関)の調査では、2030年に世界のデータセンターの電力消費量が約9,450億キロワットアワー(1キロワットの電力を1時間使った場合の電力量)に達する見込みとされており、これは現在の日本全体の年間総電力消費量を上回る規模なんです(*3)。

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めぐり

データセンターって、検索エンジンや生成AIを動かすためのサーバーなどが置かれている施設ですよね。

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カンタ

データセンターの電力消費量、とんでもないな……。

佐藤:データの通信量も消費電力も、これからさらに増え続けていく見込みです。もし通信インフラが膨大なデータ量に対応できなくなれば、IoT化が進む社会基盤──交通、医療、エネルギーなど──に深刻な影響をおよぼす可能性があります。こうした社会課題を解決するために立ち上げられたのが、IOWN構想なんです。

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カンタ

大きな問題を解決するために立ち上げられたなんて、ヒーローが登場したみたいでかっこいいな!

空間まるごと転送できる!? 大阪・関西万博で体感できる「IOWN」のスゴさ

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めぐり

実際に万博ではどんなふうにIOWNが使われているんですか?

佐藤:万博では、IOWNを活用したさまざまな体験を提供しています。なかでも、主な事例を4つ紹介しますね。

事例① NTTパビリオン「IOWN × Perfume」

佐藤:2025年4月に音楽ユニット「Perfume」が、夢洲の会場から25キロメートルほど離れた万博記念公園内でライブパフォーマンスを実施しました。そのパフォーマンスを、IOWNの仕組みを用い、リアルタイムで、空間まるごとNTTパビリオンへと伝送。この「リアルタイム3D空間伝送」が成功した事例は、世界で初めてです。

NTTパビリオンに伝送されたパフォーマンスの様子

佐藤:大阪・関西万博のNTTパビリオンでは、「リアルタイム3D空間伝送」を追体験できるコーナーがあります。ここでは、Perfumeの映像データはもちろん、パフォーマンスで発生する床の振動や照明の演出もふくめ、空間の臨場感そのものがすべて体感できます。

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カンタ

空間すべてって、実物が目の前にいるかのように感じられるってこと?

佐藤:そうですね。実際に体験した方々からは「ライブを最前列で見るような贅沢さを感じた」といった感想もいただいています。映像だけではない、「空間まるごと」という膨大な情報量を遅延なく届けられるのは、IOWNの技術ならではですね。

パフォーマンスは3Dメガネをかけて鑑賞。Perfumeのダンスに合わせて発生する振動も感じられる(触覚振動音場提示技術)

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めぐり

もしかしたら将来、海外でやっているアーティストのライブやスポーツの試合を、日本でも同じ場所にいるような感じで観られる体験が増えそうですね。

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カンタ

え、めっちゃスゴいなそれ……! プロ野球選手のホームランとか間近で観られるような体験がしたいなぁ!

事例② 「ふれあう伝話」

佐藤:万博会場の数か所と関西国際空港に設置している「ふれあう伝話」は、映像と音声に加えて振動を送り合うことができるコミュニケーションツールです。こちらもIOWNを用いることで、リアルタイムでの振動伝送を可能にしています。

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めぐり

振動まで伝わるんですか!?

佐藤:そうなんです。ハイタッチなんかもできるんですよ。実際に体験している方々を見ていると、はじめて会う人同士でも、手を合わせながら話しているうちに不思議と打ち解けていく感じがあって。テレビ電話とは異なる新しいコミュケーションになっていますね。

ふれあう伝話
ふれあう伝話
ふれあう伝話
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カンタ

離れて住んでいるばあちゃんとかと、こういうやり取りができたら、なんかうれしいかも。

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めぐり

面会が難しい病気で入院したときでも、これで家族と触れ合う感じがあったら、すごく安心できそう。

事例③ 「Remotouch」を用いたリモートセラピー

佐藤:NTTパビリオンの応接コーナーに設置している「Remotouch(リモタッチ)」は、トヨタ紡織株式会社が開発した、遠隔からタッチセラピーが受けられるリラックスシートです。IOWNを活用して、遠隔地にいるセラピストの人の繊細な力加減や動き、手の温もりをリアルタイムで再現する「リモートセラピー」の実証実験を行っています。

リモートセラピーの様子
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カンタ

手の温度まで再現されるの!? これならばあちゃんに肩揉みしてあげられるぞ!

佐藤:伝わる要素に温度が加わると、よりリアルに「人に触ってもらっている感覚」に近づいて、癒やしの効果が高まるようですね。将来的には「Remotouch」が車のシートに組み込まれて、移動中でもセラピーを受けられるような体験ができるようになるかもしれません。

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めぐり

車のシート以外でも、いろんな場所でニーズがありそうですね。映画館や銭湯とか、教室の椅子にもあったらいいな!

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カンタ

教室の椅子にあったら授業中に眠くなっちゃいそう(笑)

事例④ スマート農業技術展示・遠隔農機操作

佐藤:これは期間限定だったのですが、IOWNの技術で、約1,200キロメートル離れた万博会場と北海道大学間をつなぎ、北海道大学の農場にあるロボットトラクターを万博会場で遠隔操縦する体験も提供しました。

スマート農業技術展示・遠隔農機操作
万博会場から札幌にあるロボットトラクターを操縦している様子
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めぐり

遠隔操作自体はいままでの技術でもできそうな気がするのですが、IOWNを活用するとどんなメリットがあるんでしょうか?

佐藤:いままでの環境下では、大容量の映像、長距離伝送といった部分で通信に負荷がかかり、どうしても遅延が起きてしまいます。遠隔での機器の操作って、この遅延がものすごくストレスになるんですよ。止まってほしいときに止まらなかったり、曲がってほしいタイミングで曲がらなかったりするので。

今回はそこにIOWNの技術を導入したことで、体感的な遅延がほぼゼロになっています。体験した農家の方々から「実際に現場で乗って動かしている感覚とほぼ一緒」「違和感なく操縦できる」といった感想をもらいました。

地元を愛する中学生・カンタのイラスト

カンタ

これが実現したら僕にも使えるの? ウチにいながら親戚のおっちゃんの畑仕事が手伝えたら、お小遣い稼ぎがはかどるぞー!

「IOWN」で変わる農業、建設業、医療、そしてメタバース

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めぐり

IOWNは、これからの私たちの生活にどのようなメリットがあるんでしょうか?

佐藤:たとえば、IOWNが広く使われるようになると、先ほど紹介したように遠隔操作の精度がぐっと高まります。そうなると、農業や建設などの現場で、人手不足の解消につながるでしょう。それだけではなく、危険な作業や重労働を、離れた場所から操作できる機器が担ってくれるようになると、結果として働く人の安全性も高まります。それに、手術を含む遠隔医療にも応用できるので、医療のあり方も大きく変わっていくでしょうね。

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めぐり

IOWNの実用化に向けて、いま課題になっていることってあるんですか?

佐藤:一番の課題は、IOWNで実現できる価値を実感できるところや、実感した人がまだ少ないことです。導入される場所が増えていけば、技術の真価をもっと発揮できるし、コストも下げられるようになります。

だからこそ、万博のような場で多くの方々に「IOWNってすごいな、便利だな」と感じてもらうことが大事だと思っています。

どこにいても、あらゆる選択を諦めなくていい。そんな世界を「IOWN」とともに

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めぐり

IOWNが世界中に広まった未来はどう変わっているんでしょうか?

佐藤:IOWNの技術が当たり前になれば、空間伝送や遠隔操作がもっと身近に活用できるようになります。たとえば、日本にいながら東南アジアの農場で作業したり、メタバース上のオフィスに「出社」して働いたり……なんてことも普通になってくるのかなと。

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カンタ

場所に関係なく、なんでもできるようになるのか! 夢があるなぁ。

佐藤:場所の制約がなくなると、教育や学校のあり方も大きく変わりそうですね。子どもたちはどこにいても、自分の興味に合わせて、世界中のプロフェッショナルたちから、学びたいことを学べるようになっていくでしょう。

そうなれば、地方と都会の差も自然となくなっていくと思うんです。どこに住んでいても、誰もが自分のしたいことを諦めないでいい。IOWNが当たり前にある未来で何をするか、ぜひめぐりちゃんやカンタくんのような若い世代の皆さんが、どんどん考えてほしいなと思っています。

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カンタ

よーし! めぐりちゃん、作戦会議しようよ!

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めぐり

うん! 佐藤さん、いろいろ考えてから「IOWNがあれば、こんなこともできますか?」って、また相談させてもらってもいいですか?

佐藤:もちろんです! 僕らの想像を超える明るい未来を、描き出してくださいね。

「IOWNとは?」を簡単にまとめると……

  • 電気から光へ。通信遅延ほぼゼロを可能にする次世代情報通信基盤
  • 大容量で高精度のデータ処理を消費電力1 / 100で可能に
  • 医療・教育・交通・エンタメなど、あらゆる分野での活用が期待されている

*1 経済産業省「グリーンITイニシアティブ」(2007年)
*2 IDC「November 2018 The Digitization of the World From Edge to Core」
*3 IEA「AI is set to drive surging electricity demand from data centres while offering the potential to transform how the energy sector works

この記事の内容は2025年8月7日掲載時のものです

Credits

執筆
西山武志
イラスト
ヘロシナキャメラ
編集
森谷美穂(CINRA, Inc.)

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