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メタバースとデータ活用で横浜市の教育DXを支援。海外へ羽ばたく人材育成を

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教育分野でもデジタルトランスフォーメーション(DX)が進むなか、NTT東日本グループと横浜市の取組みとして、子どもたちに多様な学びの場を提供する新たな試みがはじまっています。

その目標は、インターネット上の仮想空間「メタバース」を活用し、国際社会で活躍できる人材を育成することです。さらに横浜市の児童生徒26万人のビッグデータを活用した施策も視野に入れ、共創のスピードを加速させています。今回は、横浜市教育委員会の丹羽正昇さんとNTT東日本の社員に、現在取組んでいる教育DXの概要や、背景にある思いを伺いました。

時間や場所を越える、メタバースで実現する国際教育

横浜市は2024年度に、市立みなとみらい本町小学校と、市立義務教育学校西金沢学園、市立東高校をグローバル社会で活躍できる人材を育むための「グローバルモデル校」に指定。時間や場所に限定されない学びやコミュニケーションを可能にするメタバース空間を両校で構築しようと、NTT東日本の担当者が教職員とともに準備を進めています。

みなとみらい本町小学校では、学校で取組むSDGsの活動に関するフィールドワーク学習を実施したうえで、メタバースでモンゴル・インドネシアの学校と国際交流を行いました。東高校では、横浜市と姉妹都市提携を結んでいる米サンディエゴの高校との交流を計画しています。両校は、ユネスコスクール・横浜市ESD(持続可能な開発のための教育)推進校にも指定されています。

メタバースを授業に取り入れる目的のひとつとして、子どもたちのコミュニケーション能力を高めることが挙げられます。今後「探究型の学習」を進めることで、地球規模の社会課題解決に向けた発表を行うことも検討しています。

モンゴルの学校とメタバース上で交流した、国際交流授業の風景

横浜市教育委員会の教育課程推進室長を務める丹羽正昇さんは、この試みの背景にある思いを、こう明かします。

「メタバースでは、なかなか現実の世界ではつながれない人との出会いが生まれます。たとえば、同世代の児童生徒や、海外で活躍する人たちと交流ができます。従来の教室(リアル)だけでなく、オンラインとメタバースを加えた私たちが『三層空間』と呼ぶ学習環境を築くことで、子どもたちの学びをより豊かにしていきたいです」

横浜市教育委員会事務局 教育課程推進室長の丹羽正昇さん

膨大なデータを活用し、学びの向上や教職員の働き方改革を

さらに、横浜市では教育にかかわるビッグデータを活かした試みが、すでにスタートを切っています。市内の全496校(市立小・中・義務教育・特別支援学校)に通う児童生徒は約26万人で、全国の市区町村のなかでも最多を誇ります。市内の児童生徒に1人1台タブレット端末が配付されており、ここから蓄積されていく教育データは市にとって大きな財産です。配付端末には、子どもたちが学習の理解度や生活状況などを日々入力できる学習ダッシュボード「横浜St☆dy Navi(スタディナビ)」を導入。2024年6月から市内の496校すべてで運用しています。

ダッシュボードへの入力によって数値化・可視化された児童生徒のデータは、教職員が自身の端末で即座に確認できることに加えて、市教育委員会や大学、企業が共同で分析。それらを現場にフィードバックすることで、授業の改善のほか、生徒それぞれに合った声かけや指導に活かすという試みです。

横浜市教育委員会の丹羽さんは、「教職員は経験や勘といった知見がある反面、それに基づいた指導が、すべての子どもたちに必ずしも合うとは限りません」と指摘します。また、小さな子どもが自分の学びや心の状態を言語化することは難しいものです。

そこでスタディナビを活用し、児童生徒の学びや心の変化をデータとして時系列で記録することで、教職員がより客観的に子どもたちの状況を把握できるようになります。丹羽さんは、「このデータをどのように子どもや教職員に還元できるかを探っていきたい」と、意気込んでいます。

また、現在建て替え中のNTT横浜ビル(2029年に完成予定)内には、横浜市の新たな教育センターが入居することが決まっています。同センターでは、学校教育を支えている教職員の経験をデータ化し、これに児童生徒のビッグデータを融合することで、今後さまざまな学びや教職員の人材育成・働き方改革などに結びつけていく予定で、横浜の教育DXをどんどん加速させる目的があります。

横浜市との取組みでチームリーダーを務めるNTT東日本の菅原祥隆さんは、「これほどの大規模データを有する横浜市との共創は、日本の教育をきっと変えることにつながり、多くのことを子どもたちに還元できるはず」と話します。

NTT東日本神奈川支店の菅原祥隆さん

教育DXでめざす、ミライのグローバル人材育成

こうしたメタバース構築やデータ活用の試みの先に見据えているのが、「グローバル人材」の輩出です。「世界で議論できるほどの高いコミュニケーション能力があり、リーダーシップを発揮でき、あらゆる人々の多様性を尊重して、協働・共生できる人材を育てること」をゴールに設定し、横浜市ではさまざまな教育分野の試みに取組んでいます。

社会のグローバル化が進むにつれ、多様なバックグラウンドを持つ人との関わりが増え、お互いについて理解・共感し、主体的に行動できる人材が求められています。横浜市教育委員会の丹羽さんは、「真のグローバル人材の育成をめざすところの根底にあるのは、誰一人取り残さないという考えです。子どもたちには、人との出会いによる学びを通じ、自分自身の立ち位置を確認することで、他者への共感力を養ってもらいたい」と話します。そのためにも、メタバースだけでなく、リアルな場での学習も含めて、子どもたち自身が主体的に学べる環境を整えることが大事だといいます。

丹羽さんはさらに、「これまでの学習環境は、大人が一方的に提供する与えるものという考えが強く、汎用的な環境整備にとどまっていました」と指摘します。そのうえで、「これからオンラインやメタバース空間を活用することで、学びの環境がより豊かになるはず。子どもたちが自ら自分に合う学習方法を見つけられるようにしたい」と希望を語りました。

また、ビッグデータの活用を通じて、一人ひとりに合ったきめ細かな指導を実現し、子どもたちが自分の個性や能力を認識することにもつなげたいと続けます。

NTT東日本の菅原さんは、「子どもたちの将来を見据える教育機関との共創は、まさに私たちのパーパスと合致しています。横浜市と創り上げたモデルを全国に広げていくことをめざし、日々活動していきたい」と話します。みなとみらい本町小、西金沢学園と東高でメタバースの構築に携わる担当者も、思いはひとつです。

NTT東日本神奈川支店の程優人さん

NTT東日本神奈川支店の大西ちひろさん

「教員のみなさまと授業をつくり上げていくような伴走型の支援を試みています。今後もいろいろなソリューションが出てくると思いますが、より学校と密接になって取組みたい」と語るのは、NTT東日本神奈川支店の程優人さん。

同じく神奈川支店の大西ちひろさんも、「業務を通じて、頑張っている人たちを応援したいという私自身のパーパスも実現できればと思っています。メタバースが、子どもたちが将来に夢や希望を持てるような取組みになれば、と思い励んでいます」と意欲を話しました。

NTT東日本グループと横浜市は、海外で活躍できる人材育成をめざし、今後もICTを活用した教育DXを進め、子どもたちに多様な学びの機会を提供していきます。

この記事は2025年2月15日に神奈川新聞に掲載した記事を、本メディア用に再構成し、掲載しております。

Credits

取材・執筆
下屋鋪聡(神奈川新聞社)、細谷康介(同)
写真
細谷康介
編集
牧之瀬裕加(CINRA,Inc.)