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ICTで横浜のにぎわいを創出。進化する『横浜春節祭』と街のミライ

カラフルなランタン(中国提灯)が彩る「春節燈花」、シンバルの音が響くなかで獅子舞が街を練り歩く。そんな横浜の冬を鮮やかに彩る新たな風物詩が、『横浜春節祭』。国内最大のチャイナタウン・横浜中華街を起点に臨海エリア全体へ広がったこの祭りは、期間中の来場者が約840万人の大規模イベントとして注目されています。
NTT東日本は、ICT(情報通信技術)を駆使したビッグデータの活用によって横浜春節祭の運営を支援。街のにぎわい創出に力を注いでいます。
中華街からはじまったこの伝統的な祭りが、街と企業の共創によってどのように進化を遂げ、横浜の街の活性化につながっていくのか。その舞台裏に迫ります。
中華街から横浜の街全体へ広がる春節祭
春節は、中国の旧正月を祝う祭りとして横浜中華街でも30年以上さまざまな催しが続いてきました。2022年からは、市内で大きな行事の少ない1月から3月が観光閑散期になるという地域課題の解決をめざし、そのにぎわいを横浜の臨海都市部全域に広げる「横浜春節祭」というかたちで新たなスタートを切りました。開催期間中の横浜中華街への来街者は100万人以上とされており、新たなハマの風物詩として注目されています。
祭りの規模は年々拡大しており、目玉であるランタンオブジェの設置会場は2024年に前年の16か所から32か所へと倍増し、横浜の街並みが幻想的な光に包まれました。ランタンは本場中国の職人らが手がけており、全高5メートルを超す巨大なオブジェが見どころとなっています。
そんな横浜春節祭を今回主導する横浜春節祭実行委員会(以下、実行委員会)委員長の高橋伸昌さんは、「横浜の街全体が1つの面となってお客さまを引きつける祭りにしたい。将来は『さっぽろ雪まつり』のような地域を代表するものに成長させられれば」と、新しい祭りにかける思いを明かしてくれました。

横浜春節祭実行委員会の高橋伸昌さん
「横浜はわが街」という意識から生まれた共創。データ活用で観光地回遊を後押し
そんな思いに賛同したのが、NTT東日本 神奈川事業部です。事業部の拠点であるNTT横浜ビル(2025年2月現在建て替え中)は、横浜中華街の玄武門の目の前に位置しており、事業部は横浜を「わが街」と捉えています。2016年8月には、国内外の観光客が無料で使えるフリーWi-Fiを整備したのをはじめ、まちづくりに貢献してきました。
さらに、NTT東日本 神奈川事業部 企画総務部の中野宏さんは、「春節で横浜全体を盛り上げるという実行委員会の考えが、NTT東日本グループのパーパス『地域循環型社会の共創』と非常に合致している」と、横浜春節祭のサポートに意義を見出しています。

NTT東日本 神奈川事業部の中野宏さんと平下陽子さん
NTT東日本による春節祭の取組みは、2022年に開始。横浜赤レンガ倉庫や山下公園などのランタンオブジェ設置会場を巡り、街歩きをする「デジタルスタンプラリー」の運営を行っています。
さらに、ICT(情報通信技術)で得たビッグデータも活用。具体的には、デジタルスタンプラリーをはじめ、各種モバイルアプリから得られる位置情報をもとに、期間中の来街者の行動を分析しています。また、翌年はスタンプラリーの参加者約5,600人を対象に、デジタルアンケートを実施。紙のアンケートと合わせて、来場者の属性や経済効果なども調査しています。
また、2025年はNTT東日本もオリジナルのランタンオブジェを制作・展示します。商売繁盛と社員の健康を願って、デザインには龍亀(ロングイ)と桃の木を取り入れました。
神奈川事業部 まちづくり推進グループの平下さんは「地域に根差す企業として、横浜春節祭を自分ゴトとして捉え、地域と共に盛り上げたい」といいます。

NTT東日本オリジナルランタンオブジェ。龍亀は、古代中国に伝わる龍の頭に亀の体を持つ霊獣で、「正財」を招き財運を高めると言われている。また、桃の木は、不老長寿の霊木とされている。
もともと横浜観光の課題として、多くの観光資源を抱えながらも来街者の回遊性が低いことが挙げられていました。実際、2023年度に実施された「横浜市観光動態消費動向調査」によると、観光客の訪問観光地数は「1か所のみ」が52.0%で最多の回答になっていました。そこで横浜春節祭では、景品付きの観光地スタンプラリーを実施したことで、回遊性向上に効果がみられたといいます。
実行委員会の高橋さんは「スタンプラリーの実施で観光客が次の観光地を訪れる動機付けができたことに加えて、景品の獲得をめざしてスタンプを集めたり、SNSに写真をアップして楽しんだり、いろいろな楽しみ方を提供できたのも大きい」と評価しています。高橋さんはさらに、「どんな人が訪れ、どれだけの人が、どこを回っているかなどの情報が可視化でき、次の年に活かせるのも非常にありがたい」とも語ってくださいました。データはターゲットを絞ったPR活動にもつながっているといいます。
加えて、データの属性情報からは「冬の横浜を繁忙期に転換するには、首都圏を中心とした他都道府県からの来街が欠かせない」という今後の方向性が導き出されました。その結論をもとに、2024年は中華街だけでなく、新横浜駅や羽田空港といった陸と空の玄関口にも、春節祭のランタンオブジェを配置するなど、各地域とも連携しながら工夫を重ねています。
デジタル技術で進化していく横浜春節祭
横浜市とNTT東日本は、デジタル技術を活かしたまちづくり推進のために、2023年9月には、「住みたい・住み続けたい・選ばれる都市の実現に向けたまちづくり」の推進に関する協定を新たに結びました。その協定には「にぎわいの創出」の項目もあり、横浜春節祭との結び付きをさらに強くし、新たな試みにもチャレンジしています。
たとえば、ランタンオブジェ会場周辺の店舗や商業施設、計150店舗で割引などのうれしいサービスが受けられる「デジタルクーポン」を新設。観光地の回遊を促すために、スタンプラリーとクーポンの地図画面で、横浜市営の観光バスの位置情報や混雑状況などがリアルタイムでわかるシステムも構築しました。

スタンプラリーの地図画面
このように、デジタル技術を活用し、来街者に観光や交通などの情報を共有することで、横浜を訪れてくれた方々に快適な観光体験も提供することができます。さらに、臨海部の魅力的な観光資源をつなぐことで回遊性が向上。来街者のデータ分析によって、さらなるにぎわいの創出に向けた施策の展開も可能になります。
原点にある思いは「にぎわいを多くの街に広げたい」
横浜中華街で春節を祝うきっかけとなったのは、1986年に街のシンボルである関帝廟が焼失してしまったことにあります。実行委員会の高橋さんは「春節はそれまで各家庭で祝うものだったが、関帝廟を再建しようと華人や日本人、多くの方々が力を合わせたことで春節を外で祝うことにつながった」とコメント。だからこそ、横浜春節祭のにぎわいが多くの街に広がっていくことをめざしているのです。

NTT東日本の中野さんは、「横浜春節祭は各エリアが来街者を呼び寄せ合う『相互送客』の力を持つイベント。中華街だけでなく、横浜の街全体で人々を惹きつけられるように、これからも力を合わせていきたい」と今後の展望を語ります。
実行委員会の高橋さんは、「NTT東日本は地域とともにある、まさにパートナー。技術も人も提供していただいているが、そのベースには街への想いがある」とこれまでの共創について振り返ってくださいました。
2025年から、横浜春節祭は各エリアの代表者らによる実行委員会形式で主催され、より地域・行政・企業が三位一体となった祭りとなり、ランタンオブジェも前年より多い50か所以上に登場する予定です。NTT東日本は、デジタルサイネージ(電子看板)の活用を検討するなど、引き続き横浜春節祭をICTを主軸としてサポートしていきます。

新横浜駅に設置したデジタルサイネージ
この記事は2025年1月30日に神奈川新聞に掲載した記事を、本メディア用に再構成し、掲載しております。
Credits
- 取材・執筆
- 下屋鋪聡(神奈川新聞社)、細谷康介(同)
- 写真
- 細谷康介
- 編集
- 牧之瀬裕加(CINRA,Inc.)