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食品ロスを価値に変える「エコフィード」。ICTでつなぐ循環型畜産業のミライ

NTT東日本は、食品ロス削減や持続可能な畜産業の実現に向けて、神奈川県と協働し、幅広い取組みに携わっています。
食品の製造過程で得られる副産物などを利用してつくられる家畜用飼料「エコフィード」の利用促進をめざし、県内の食品関連事業者と畜産農家をつなぐプラットフォームの開発・運用を進めるほか、畜産のシステム導入や都市型畜産におけるICT活用にも取組んでいます。
今回は地域密着型企業として培った強みを活かし、持続可能な畜産業の生産体制構築をめざす共創について紹介します。
家畜用飼料「エコフィード」の可能性。神奈川県との共創で見出す意義
パンくずやおからといった食品製造副産物や規格外の農産物、余剰食品、調理残さなどの食品残さからつくられる家畜用飼料「エコフィード」。これまでもリサイクルの観点から注目され、国による利用促進がはじまっていましたが、近年ではさらに期待が高まっています。

エコフィードを食べる豚たち
その背景には、飼料価格の高騰があります。飼料にかかるコストは経営コストの半分ほど、家畜によっては6割以上を占めることも。さらに飼料穀物は大部分を輸入に頼っており、円安ドル高の影響で価格が高い状態が続いています。その反面、エコフィードは比較的安価で入手できます。エコフィードは経営コストを削減するだけでなく、輸入依存から脱却し、持続可能な生産体制を構築する可能性を秘めているといえるのです。
神奈川県でも、エコフィードに対する関心の高まりとともに、事業者や畜産農家から県の畜産課に要望が寄せられるようになりました。しかし、当時は「譲渡を人が仲介していたため、手間と時間がかかっていた」と県畜産課の森一憲さんは語ります。

神奈川県 環境農政局 農水産部 畜産課 森一憲さん
そんなときに、スマート農業などでかかわりのあったNTT東日本に課題を共有したことで、エコフィード利用を広げるための共創が動き出しました。それが情報通信技術(ICT)で、食品関連事業者と畜産農家をマッチングさせるという全国初の試みです。
NTT東日本神奈川事業部 まちづくり推進グループ担当の小島毅洋さんは、「地域循環型社会をつくるという意味においても、エコフィードの推進を活性化させる取組みは非常に有意義だと思っています」と、取組みに同社のパーパスを重ね合わせます。
マッチングプラットフォームの運用で見えた進展と課題
小島さんたちは、食品残さを提供したい事業者側と、エコフィードを利用したい畜産農家側の両者をマッチングするプラットフォームを構築しました。利用の流れはシンプルで、以下のとおりです。
- 事業者と農家が登録
- 事業者側は、提供可能な食品残さの情報(種類や量、形状など)を登録
農家側は、希望する食品残さの情報を投稿 - 双方で情報を閲覧し、条件が合致した場合は交渉に入る

プラットフォーム画面イメージ
プラットフォームは2023年4月からの2か月間の実証実験を経て、24年1月から本格運用されています。県畜産課によると、プラットフォームを通じて交渉に至ったケースはまだ数件にとどまっていますが、県内の酒蔵やクラフトビールメーカーから出る酒かすやモルトかすの再利用の動きも出はじめ、たしかな進展が見えてきています。
また、小島さんは都市型畜産とエコフィードの相性についても以下のように語りました。
「神奈川県の都市部は、地価が高く周辺に住宅が多いことから、大きな農場を持つことがなかなかできず、生産量が確保しづらいという課題があります。その一方で、都市は周辺に企業や消費者が多いため、食品残さや災害備蓄品が手に入りやすく、エコフィードを活用しやすいというメリットもあるといえます。そういった地域の特性的にも、エコフィードは有効ではないかと考えています」

今後の課題はエコフィードの認知をより広め、プラットフォームの利用者を増やすことです。食品関連事業者のなかには、食品残さを減らす動きもあり、エコフィード原料の一定量の確保も課題となっています。
そこで、今後利用できるのではないかと考えているのが、食品事業を営んでいない企業でも持っている「災害備蓄食料品」です。NTT東日本神奈川事業部は2024年10月に、賞味期限が過ぎたビスケットとアルファ米の計約500キログラムを、プラットフォームを通じて畜産農家2軒に提供。定期的に入れ替える災害備蓄食料品がエコフィードに活用しやすいことだけでなく、社会貢献の一環として、さらには社員のSDGs教育にも役立ちうることに注目し、トライアル的な取組みとして実施しました。

NTT東日本が災害備蓄食料品を畜産農家へ提供したときの写真
「地元・神奈川の役に立ちたい」。ICT活用で幅広い畜産課題に貢献
ほかにもNTT東日本では、神奈川県内の畜産業にかかわる幅広い課題解決に取組んでいます。たとえば、厚木市内の養豚業者が、欧州発のシステムを導入するのをサポート。システムの導入により、豚の咳数を検知し、呼吸器系の異変を可視化することが可能になりました。
さらに、横浜市内の養豚農家の豚舎では、風向や風速、温湿度、アンモニア濃度などを測ることができるセンサーの設置を行いました。これにより、舎内の環境を最適化するための検証を行い、都市型畜産と周辺地域が共存できるようになることをめざしています。
まちづくり推進グループの秋元伸夫さんは、生まれも育ちも神奈川のため「地元の役に立ちたい」という思いがあると語ります。
「畜産農家の生の声から一歩踏み出しましたが、みんながWin-Winになれるよう、今後もひとつずつ解決策を見つけていきたいと思っています」

NTT東日本神奈川事業部まちづくり推進グループの秋元伸夫さん
また、プラットフォーム開発に携わる小島さんも、以下のように続けます。
「私たちは長年地域に密着した企業として活動しており、働きかけるアプローチ先は多く持っているので、今後もさまざまな企業や自治体と一緒に課題解決に取組んでいければと思います。当社のパーパスにも掲げている地域循環型社会の共創のため、ICTだけではなくいろいろなソリューションを組み合わせ、引き続き挑戦していきます」

NTT東日本神奈川事業部まちづくり推進グループの小島毅洋さん
神奈川県とともにめざすのは、食品ロス削減に寄与できる飼料の地産地消の実現や都市型畜産の最適化、さらには持続可能な生産体制の構築です。
この記事は2025年2月7日に神奈川新聞に掲載した記事を、本メディア用に再構成し、掲載しております。
Credits
- 取材・執筆
- 下屋鋪聡(神奈川新聞社)、細谷康介(同)
- 写真
- 細谷康介
- 編集
- 牧之瀬裕加(CINRA,Inc.)